
2024年5月31日からJioCinemaで配信開始された「Dedh Bigha Zameen」は、土地の違法占拠を巡る一般庶民と政治家の間のトラブルを描いたドラマ映画である。題名の意味は「1.5ビーガーの土地」という意味で、1ビーガーはおよそ2,500㎡の面積を意味する。かつてビマル・ロイ監督「Do Bigha Zameen」(1953年)という映画があったが、それとは直接関係ない作品である。
監督は「Bhakshak」(2024年)などのプルキト。主演はプラティーク・ガーンディー。他に、ダヤー・シャンカル・パーンデーイ、クシャーリー・クマール、プラサンナー・ビシュト、ニーラジ・スード、ドゥルゲーシュ・クマール、ファイサル・マリクなどが出演している。
ウッタル・プラデーシュ州ラタンプラーに住むアニル・スィン(プラティーク・ガーンディー)は、亡き父親の跡を継いで小麦粉の商売をしていた。アニルにはネーハー(プラサンナー・ビシュト)という妹がおり、結婚適齢期になっていた。クリシュナー・スィンの息子アジャイとの縁談がまとまったが、持参金として現金200万ルピーなどを要求され、多額のお金が必要になった。アニルは父から1.5ビーガーの土地を相続していた。ブローカーのヴィヴェークに土地の値段を見積もってもらったところ、600-700万ルピーにはなりそうだった。アニルはヴィヴェークに買い手を探すように頼む。ネーハーとアジャイの結婚式は2ヶ月後と決まっていた。
後日、ヴィヴェークはアニルに、件の土地は、書類上はアニルのものだが、実際には州議会議員アマル・スィン(ニーラジ・スード)の「所有」になっていると知らされる。アニルは妻プージャー(クシャーリー・クマール)の兄で弁護士のバブルーに相談する。バブルーの勧めに従ってアマル議員に対して通知を送るが、アマル議員の手元にも土地の所有を証明する書類があり、裁判所で棄却されてしまう。そこでアニルは相棒のアースィフと共に、アマル議員が滞在するゴーラクプルを訪れ、彼に会おうとする。党の事務所で、アマル議員の右腕アワデーシュの連絡先を聞き、アワデーシュを通じてアマル議員と話す機会を得る。アマル議員は寛大な人物で、アニルに土地を渡すと口約束する。アニルは交渉が成功したことを喜びながらラタンプラーに帰る。ところがラタンプラーに帰った途端、アニルは警察に逮捕されてしまう。
翌朝、アニルは釈放され家に帰ってきた。バブルーによれば、これはアマル議員による報復だった。アニルはアマル議員に徹底抗戦することを決め、まずは件の土地をフェンスで囲い込む。ところがすぐにそれは何者かによって破壊されてしまい、警察も全く動いてくれなかった。逆に今度はネーハーが何者かに誘拐される。幸いネーハーは何もされなかったが、目隠しをされて自動車で連れ回されたとのことだった。しかも、それを聞きつけたクリシュナが家にやって来て、一方的に縁談を破棄する。
バブルーから、アマル議員に土地の情報を流したのはヴィヴェークではないかと聞いたアニルは、彼のオフィスへ乗り込み、彼にアマル議員の行ったことを証言する内容の書類を無理矢理書かせる。アニルはバブルーにアマル議員に対する訴訟を用意させるが、その晩、彼は刺客によって射殺されてしまう。
第三者が土地を勝手に占拠してしまうことをヒンディー語では「कब्ज़ा」と呼ぶ。「カブザー」を主題にした映画といえば「Khosla Ka Ghosla!」(2006年)が有名だが、この「Dedh Bigha Zameen」はそれに続く映画だと位置づけることができる。「Khosla Ka Ghosla!」でカブザーを行ったのは土地マフィアであったが、「Dedh Bigha Zameen」のカブザー主は地元の州議会議員であった。どちらも非常に厄介な出来事である。また、「Khosla Ka Ghosla!」はコメディータッチでカブザー問題を取り上げていたが、「Dedh Bigha Zameen」はシリアスな味付けになっていた。
カブザー問題はインド人にとって現実である。庶民にとって、不動産の売買は人生の一大事だが、それ故に相場感や業界の慣習に不慣れであることがほとんどで、業者との情報格差が著しく、悪質な業者に当たってしまうといいカモになってしまうことがしばしばある。「Khosla Ka Ghosla!」や「Dedh Bigha Zameen」のストーリーはおそらくインド人の関心を強く引くことになると思われる。
だが、その一方で、我々外国人にとっては、どうもこの問題がすんなり理解しがたい。正当な土地の権利書を持っているのに、別の人がその土地を「所有」している状態がどうして作り出されるのか。「Khosla Ka Ghosla!」では、購入した土地に誰かが既に住んでいたという設定だったのでまだ分かりやすかったが、「Dedh Bigha Zameen」では相反する書類が存在することになっていて、より理解が難しかった。
ただ、どうしてそのような状態になったのか、種明かしはされていた。主人公アニルが父親から相続した土地を売ろうとした際、相談したブローカーのヴィヴェークが、カブザーをして荒稼ぎしていた地元選出の州議会議員アマルに情報を流して、彼の土地もカブザーしてしまったのである。よって、諸悪の根源は右も左も分からない顧客をだまして土地のトラブルを誘発するブローカーであることになっていた。
アニルの社会的なステータスは下位中産階級あたりだと考えられる。正真正銘の一般庶民である。普通ならば議員に立ち向かって勝てるはずがなかった。だが、アニルは、このような事態に身を置かれたとき、常に庶民が我慢してしまうため、何も変わらないのだと考える。そして、愛しい妹ネーハーのためにも、絶対に土地の権利を取り戻し、その土地を売って、彼女の結婚資金を作り出すと決意するのである。
当然のことながらアニルに同情が行くように作られているため、最終的にアニルがアマル議員から土地を取り戻し、ネーハーが幸せに嫁入りしていく姿が映し出されれば、後味のいい映画になっていた。だが、プルキト監督はあえてハッピーエンディングを避け、アニルが射殺される結末を提示した。結局、権力者に逆らっても勝てないのだろうか。もう少し希望のある結末にしてもよかったのではないかと感じた。
もうひとつ、この映画が副次的にテーマにしていたのが持参金であった。ネーハーの結婚相手アジャイの父親クリシュナは、縁談の席で持参金について切り出し、両家の間で現金200万ルピー、SUV車スコーピオ、結婚式費用などを花嫁側が用意することが決まった。アニルは必要資金をざっと450万ルピーと見積もっていた。その資金を捻出するためにアニルは1.5ビーガーの土地を売ろうとしたのだが、カブザー問題に巻き込まれてしまった。当初、アニルは警察に相談に行く。だが、妹の結婚のために土地を売ろうとしたと口にした途端、「持参金の授受は禁止されているぞ」と釘を刺されてしまう。確かに持参金のやり取りは1961年に制定された持参金禁止法で禁止されている。だが、実際には「自発的な贈り物」という建前で、それから半世紀以上経った今でも続いている。アニルのように持参金を捻出するために土地を売ることは少なくないが、なまじっか持参金が法律で禁止されているが故に、トラブルに巻き込まれても被害者は警察に相談しにくく、ブローカーなどから足元を見られてしまう。そういう構造がこの映画では鋭く指摘されていたといえる。
主演のプラティーク・ガーンディーは「Mitron」(2018年)や「Do Aur Do Pyaar」(2024年)などに出演していた男優である。スターとまではいかないが、演技力のある男優であり、現在ラージクマール・ラーオがいるポジションを狙える潜在力を感じる。「Dedh Bigha Zameen」の演技も申し分なかった。
「Dedh Bigha Zameen」は、カブザー問題を取り扱った名作「Khosla Ka Ghosla!」に続く、土地を巡るトラブルを題材にした映画である。ただ、コメディータッチになっていた「Khosla Ka Ghosla!」とは異なって、シリアスな映画であり、しかもハッピーエンディングでもない。その点で興行的な成功が期待できず、OTTリリースになったのかもしれない。個人的には、主演プラティーク・ガーンディーの好演もあって、興味深く観ることができた作品だった。