Chhota Bheem and the Curse of Damyaan (2024)

1.5
Chhota Bheem and the Curse of Damyaan
「Chhota Bheem and the Curse of Damyaan」

 「Chhota Bheem(小さなビーム)」はインドが誇る人気TVアニメである。架空の王国ドーラクプルに住む9歳の少年ビームを主人公にしたコメディータッチの冒険アニメであり、2008年から続いている。今までアニメ映画化されたことも何度かある。「マハーバーラタ」にビーム(ビーマ)というキャラがいるが、「Chhota Bheem」シリーズのビームはそれとは直接関係がない。ただ、両者には怪力という共通点があり、インスピレーション源になったのは確実である。

 2024年5月31日公開の「Chhota Bheem and the Curse of Damyaan」は、「Chhota Bheem」シリーズ初の実写映画だ。2012年に同名のアニメ映画が作られており、それを実写化したものである。

 監督は、アニメシリーズの監督も務めてきたラージーヴ・チラカー。主役ビームを演じるのは「Panga」(2020年)の子役ヤギヤ・バスィーン。他に、アヌパム・ケール、マカランド・デーシュパーンデー、スルビ・ティワーリー、ナヴニート・カウル・ディッローン、シャージー・チャウダリーなどが出演している。

 師匠ドゥーニー・バーバーに指示され故郷ドーラクプルに戻ってきたビーム(ヤギヤ・バスィーン)は、インドラヴァルマー王の命により、黄金の都ソーナープルを探す旅に出ることになる。インドラヴァルマー王にソーナープルのことを教えたスカンディー(マカランド・デーシュパーンデー)とタクシカー(ナヴニート・カウル・ディッローン)は実は1000年前に封印された蛇男ダムヤーンの手下だった。スカンディーとタクシカーに騙されたインドラヴァルマー王は、ビームの力によってダムヤーンの封印を解いてしまう。復活したダムヤーンはインドラヴァルマー王やビームたちを捕まえ、世界征服に乗り出す。

 ビームは怪力によって牢屋から逃げ出し、インドラヴァルマー王を救う。牢屋にはソーナープルの住民の末裔スィンガーラーと出会い、彼からダムヤーンとソーナープルの話を聞く。

 今から1000年前、ソーナープルは魔法使いグル・シャンブー(アヌパム・ケール)の魔法によって一夜の内に作られた街だった。グル・シャンブーは「マーギー」という魔法の書を所有していた。ソーナープルの噂を聞きつけてやって来たダムヤーンは、手下のスカンディーとタクシカーと共にマーギーの書を奪い取り、ソーナープルを横取りしてしまった。そしてダムヤーンは不死身になる儀式を行う。グル・シャンブーはダムヤーンを倒せないと知ると彼を封印する手段を採る。こうしてダムヤーンは封印されたが、同時にソーナープルも地中に呑み込まれて消えてしまった。

 復活したダムヤーンは不死身であり、倒すことはできなかった。スィンガーラーはビームたちに、1000年前に行ってダムヤーンが不死身になる前に倒すしかないと言う。そして時間の扉を開き、ビームたちを過去に送る。

 1000年前のソーナープルに飛んだビームたちはグル・シャンブーと会い、未来の状況を説明する。グル・シャンブーは、ダムヤーンが不死身になる前に、2つの指輪を破壊するように言う。また、グル・シャンブーはビームたちにそれぞれ魔法を授ける。ビームたちは魔法を駆使して指輪を手に入れ、ダムヤーンを倒す。そしてグル・シャンブーの力により再び1000年後に戻ることもできた。

 インドではアニメは完全に子供が観るものという位置づけであり、アニメ「Chhota Bheem」シリーズも子供しかターゲットにしていない。その実写版である「Chhota Bheem and the Curse of Damyaan」についても、実写になったからといって大人をターゲットに含めるわけでもなく、完全な子供向け映画として作られている。

 日本では、「子供向け映画」といっても大人の鑑賞に耐えられる出来であることが少なくないが、インドでは「子供向け映画」は「子供向け映画」でしかない。その開き直りの結果がいい方向に出ればいいのだが、この「Chhota Bheem and the Curse of Damyaan」についてはそうではない。残念ながら、子供向けならこれくらいでいいだろう、という手抜きが随所に感じられたのである。それが顕著だったのはCGのレベルであるが、そもそも脚本からいって理屈が通っておらず、所詮子供だましの映画でしかなかった。アヌパム・ケールをはじめとした大人の俳優たちの演技も投げやりなものだった。

 また、日本で「子供向け映画」といった場合、その上映時間は1時間半ほどのことが多く、2時間に達すると長く感じられるだろう。子供が集中できる時間を配慮して、短めの映画作りが行われている。ところが、この「Chhota Bheem and the Curse of Damyaan」の上映時間は通常のインド映画と同じ2時間半もある。それも決してプラスには働いていなかった。

 アニメでビームと共に冒険を繰り広げるチュトキー、ラージュー、ジャッグー、カーリヤー、ドール-とボール-なども登場する。猿のジャッグーだけはCGキャラだが、それ以外は子役俳優たちが演じている。各キャラの紹介などはなく、完全にアニメ視聴者しか観客に想定していない。

 アニメ「Chhota Bheem」シリーズが始まったのは2008年なので、インドでは「Chhota Bheem」シリーズを観て育ち、既に成人した層が存在することになる。果たして彼らがこの実写版を観てどういう反応を示したのかは気になる。日本を含む世界では、アニメの実写化が成功した例は少ない。インドでは、アニメ文化の始まりが他国に比べて遅かった分、これからアニメの実写化が試され始める時期に入っていくのかもしれない。そうすると、この「Chhota Bheem and the Curse of Damyaan」はインドにおけるアニメ実写化の最初の例ということになるかもしれない。

 「Chhota Bheem and the Curse of Damyaan」は、インドで人気を博しているアニメを実写化した映画だ。「Chhota Bheem」シリーズに何の思い入れもない人間の目には、大人の鑑賞にとても耐えられない低レベルな作品に映った。「Chhota Bheem」シリーズの昔からのファンにはどう映るのだろうか。