Shastry Virudh Shastry

3.5
Shastry Virudh Shastry
「Shastry Virudh Shastry」

 2023年11月3日公開の「Shastry Virudh Shastry(シャーストリー対シャーストリー)」は、7歳の子供の「保護者」の立場を巡って祖父と父親が法廷で争うという内容の裁判劇である。ナンディター・ロイとシボプロサード・ムカルジーの監督デュオが、自身の撮ったベンガル語映画「Posto」(2017年)をヒンディー語でリメイクした作品だ。

 キャストは、パレーシュ・ラーワル、シヴ・パンディト、ミミ・チャクラボルティー、ニーナー・クルカルニー、マノージ・ジョーシー、アムルター・スバーシュ、KKラーイナー、カビール・パーワー(子役)などである。この内、ミミは「Posto」にも出演していたベンガル語映画女優であり、本作が彼女にとってヒンディー語デビュー作となる。

 7歳のヤマン・シャーストリー(カビール・パーワー)はマハーラーシュトラ州パンチガニーにて祖父母のマノーハル・シャーストリー(パレーシュ・ラーワル)とウルミラー(ニーナー・クルカルニー)と共に住んでいた。マノーハルは周囲から「グルジー」と尊敬される音楽教師で、音楽の才能があるヤマンを可愛がっていた。ヤマンの父親マラール(シヴ・パンディト)と妻のマッリカー(ミミ・チャクラボルティー)はムンバイーに住んでいた。マラールはゲーム開発会社に勤め、マッリカーはローン会社に勤めていた。ヤマンは3ヶ月の頃からずっとマノーハルとウルミラーの元で育てられていた。

 マラールは会社を辞め、サンフランシスコに住む友人チントゥーと共にゲーム会社を立ち上げることにする。ウルミラーもマラールに付いて渡米することにし、ヤマンも連れて行くことにする。ところが、ヤマンを目に入れても痛くないほど可愛がっていたマノーハルは大反対する。とうとうマノーハルは、友人の弁護士ジテーシュ・メヘター(マノージ・ジョーシー)を雇い、ヤマンの「保護者」の立場をマノーハルと争うことになる。マラールは、マッリカーと知己の弁護士シャーリニー・パトワルダン(アムルター・スバーシュ)を雇い、戦う。

 ジテーシュはヤマンが7年間マノーハルによって育てられたことを根拠とし、ヤマンの「保護者」はマノーハルだと主張する。一方、シャーリニーはマノーハルの健康状態に加え、マラールの亡き兄ラリトに言及する。ラリトは音楽の才能に恵まれていたが、父親のプレッシャーに耐えかね、25歳の頃に心臓発作で死んでしまっていた。

 裁判長(KKラーイナー)はヤマンと直接話をし、最終的に彼の保護者はマラールとマッリカーであると判決を下す。マラールとマッリカーはヤマンを連れて米国へ渡ろうとするが、空港でヤマンが隠れてしまう。仕方なく二人はヤマンをマノーハルとウルミラーに預け、まずは二人だけで渡米することを決める。マノーハルとウルミラーも、ヤマンをたくましく育てると約束する。

 祖父母が孫をあまりに溺愛してしまい、子育てを独占し、甘やかすだけ甘やかし、実の両親に対しても簡単に手放そうとしないという極端なケースを法廷劇に仕立て上げた作品であった。

 インドでは結婚後に女性が外に出て働くというのはまだ新しい傾向で、その割合も3割ほどだとされている。日本では共働き世帯の割合は7割に達するので、インドはまだまだ共働きは少ないといえる。とはいえ、増加傾向にあるのは確実で、両親の勤務中における子供の世話が大きな問題になっている。それを祖父母が担うというのは珍しくない。

 祖父母によって甘やかされて育った孫について、「Shastry Virudh Shastry」でまず取り上げられていたのは、あまりに周囲から隔離され、安全第一で育てられてしまうため、子供が同年齢の友人たちとうまく交流できなくなり、弱虫になってしまうことだった。この点についてはもしかしたら多くのインド人両親が抱えている問題なのかもしれない。

 しかしながら、祖父母が孫を両親から取り上げようとするケースが実際にインド社会で起こっているのかは不明だ。「Shastry Virudh Shastry」で取り上げられた家族については特に極端で、ヤマンは生後3ヶ月から7歳まで、ずっと祖父母マノーハルとウルミラーによって育てられて来た。その間、両親のマラールとマッリカーは週末にヤマンに会いに来るだけであった。しかも、マノーハルとウルミラーはヤマンを溺愛するあまり、母親をヤマンの子育てから意図的に排除しようとまでしていた。マラールとマッリカーが米国移住を決め、ヤマンを連れて行こうとすると、マノーハルは当然のごとく大反対する。とうとう裁判沙汰になってしまう。

 ただ、裁判が進行するにつれて、それまで映画の中でほとんど描写されなかった事実も浮き彫りに成って来る。大きなポイントになるのは、マラールの兄ラリトの死であった。死因は心臓発作とのことだったが、24歳の若さで亡くなった。弁護士によって深掘りされていくことで、ラリトは彼を音楽家として磨き上げようとするマノーハルからの強い圧力に耐えかねて、自殺同然に死んでしまったことが発覚する。マノーハルは、ただ単にヤマンを可愛がっていただけでなく、彼の音楽の才能を愛し、ラリトでは実現できなかった夢、すなわち、音楽家としての自分の後継者を育て上げる夢を実現しようとしていたのだった。将来、ヤマンもラリトと同じ最期を迎える恐れがあった。

 判決は実の保護者であるマラールとマッリカーにとって有利なものになる。しかし、ヤマンは祖父母と父母が一緒に暮らすことを望んでいた。両親に連れられて空港に行ったヤマンは隠れてしまい、米国行きを拒否する。仕方なくマラールとマッリカーはヤマンをマノーハルとウルミラーに預け、米国へ飛ぶ。マノーハルも、いつかは彼らにヤマンを返さなくてはならないと覚悟し、それまでにヤマンをたくましい子供に育てる決意をする。家族に亀裂の入った状態で映画は始まるが、インド映画らしく、最後は家族が結束する姿が描かれる。

 また、マノーハルとマラールの間には父子の問題もあった。マノーハルは、音楽の才能があった長男ラリトの方を可愛がっていた。おそらく次男のマラールは劣等感を抱きながら育ったのだと思われる。マラールはどうも美術教師だった母親の才能を受け継いだようで、グラフィックデザイナーなどを経て、ゲーム開発者になっていた。しかしながら、音楽の才能がなかったことで、マノーハルから冷たく扱われて来たと感じていた。一連の出来事を経て、マノーハルもマラールを息子の一人として認め、マラールもマノーハルに純粋に敬意を表する。彼らが真の意味で父子になった瞬間だった。

 ベテラン俳優パレーシュ・ラーワルの演技は素晴らしかったし、法廷で論戦した2人の弁護士を演じたマノージ・ジョーシーとアムルター・スバーシュも最高だった。「Shaitan」(2011年)などに出演していたシヴ・パンディトやベンガル語映画女優ミミ・チャクラボルティーも良かった。ただ、ヤマンを演じたカビール・パーワーについては役不足だった。もっといい子役がいるはずだ。

 ちなみに、ラリト、マラール、ヤマンといった名前は全てラーガ名から取られている。音楽教師のマノーハルが命名したという設定だ。

 「Shastry Virudh Shastry」は、共働き世帯が増えつつあるインドにおいて、今後起こって来そうな「祖父母の孫育て」問題をいち早く取り上げた興味深い作品だ。祖父母と両親の間で7歳の子供の「保護者」を巡って裁判沙汰になるという泥沼の裁判劇ではあるが、最後はインド映画のお約束で、家族の大切さを訴える内容になっている。観て損はない映画である。