Operation Mayfair

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Operation Mayfair
「Operation Mayfair」

 2023年3月24日公開の「Operation Mayfair」は、ロンドンを舞台にし、主な登場人物がインド系英国人のサイコスリラー映画である。

 監督はスティープト・サルカール。これまで数本の映画を撮っているが無名の人物である。地味ながら演技力に定評のあるジミー・シェールギルが主演を務めている点が目を引くが、それ以外に有名な俳優の出演はない。アンクル・バーティヤー、ヴェーディカー・ダット、リティカー・チッバル、アンタラー・バナルジーなどである。

 ロンドンで有名ファッションモデルが惨殺される事件が起きた。その手口は30年前の事件とそっくりだった。ロンドン市警のリザ・ヴァルマー(ヴェーディカー・ダット)は、現在は警察を退職しオックスフォードに住むアマル・スィン(ジミー・シェールギル)を呼び寄せる。また、捜査チームには精神科医ソニア・カプール(リティカー・チッバル)や鑑識官ケヴィン・ダコスタ(アンクル・バーティヤー)もいた。アマルとソニアはかつて恋仲で、既に破局していたが、ソニアはまだアマルのことが好きだった。

 アマルが捜査を始めた直後、別の女性が同じ手口で殺される。リザは上司からの圧力もあり、容疑者をでっち上げて時間稼ぎをしようとする。そのとき、一人の男性の遺体が発見される。彼は、連続殺人事件の犯人であると自白したメールを警察に送っていた。これで一件落着かと思われたが、アマルは違和感を感じ、真犯人を見つけるため捜査を続ける。

 実はこれらの殺人をしていたのはケヴィンだった。ケヴィンは、アマルが徐々に真相に近づいているのを見て焦り、刺客を雇って彼を殺そうとするが失敗する。また、ケヴィンはまた別の女性を殺すが、その様子を彼女の叔母に見られてしまう。一方、ソニアは警察官のメンタルヘルスチェックをしていたが、その中でケヴィンがトラウマを抱えていることに気付く。

 アマルはソニアからケヴィンのトラウマについて聞き、彼が真犯人であると確信する。ところがそのときケヴィンはリザを自分の隠れ家に連れて行っていた。ケヴィンは彼女を殺すつもりだったが、間一髪でアマルが駆けつける。アマルは逃走したケヴィンを逮捕する。だが、ケヴィンは精神異常者ということで、これだけ多くの殺人を犯したにもかかわらず、どんなに長くても7年しか拘束できなかった。

 アマルはオックスフォードに戻り、妻のタニア(アンタラー・バナルジー)や娘と再会する。同時にアマルはソニアに電話をし、自分のことは諦めるように言う。

 影のある有能な元警察官が、ロンドンを騒がす猟奇的な連続殺人事件の解決に向けて警察に協力するという筋書きである。最後の最後まで犯人の正体を明かさずにストーリーを構築するとサスペンス性が出たが、「Operation Mayfair」では最初から犯人はケヴィンであることを観客に明かしている。犯人が最初から分かっていることで、代わりに観客がサスペンスを感じるのは、ケヴィンがなぜ連続殺人犯になってしまったのかという理由と、主人公アマルがどのように推理を働かせて真犯人まで辿り着くかである。いわゆる「刑事コロンボ」型のスリラー映画だ。

 だが、残念ながら監督の力量不足のせいでスリルを維持することができていなかった。ケヴィンのトラウマは早期に継母によるものであることが分かるし、アマルが真犯人に気付くのも、推理力というよりも偶然によるものだった。また、意味もなく女性キャラを出し過ぎていた点もマイナスに働いた。なぜかケヴィンの周囲にはセクシーな女性たちがいる。妻のタニアはいいとして、今回の事件の捜査をチーフとして担当するリザは彼の元部下だったし、チームの一員である精神科医のソニアは彼の元恋人であった。そして、アマルと彼女たちとの関係にはそれぞれサイドストーリーがありそうだったのだが、少なくとも「Operatoin Mayfair」の中では詳しく語られておらず、消化不良になっていた。

 英国を舞台にする必要性も感じなかった。インドを舞台にしても十分に成り立つストーリーだ。おそらく英国のフィルムコミッションなどから、英国での撮影を条件に助成金を受けたなど、何らかの理由があると思われる。

 ただ、鑑識官が真犯人という設定は良かった。ケヴィンは、鑑識官としての知見を生かして、絶対に現場に証拠が残らないように殺人を行う。さらに、自分が犯した殺人の現場の鑑識を自分で行い、自分が犯人であるとばれないように報告書を作成する。しかも、捜査チームに入っているため、捜査の進捗を逐一確認することもでき、必要とあらば捜査をミスリードすることもできる。つまり、ケヴィンは完全犯罪が可能になる立場にあった。そういえば最近、「Forensic」(2022年)という鑑識官が主人公の映画があったが、ヒンディー語映画界では鑑識という仕事に注目が集まっているような気がする。2012年のデリー集団強姦事件を扱ったNetflixのウェブドラマ「Delhi Crime」(2019年)シーズン1の影響ではなかろうか。

 劇中に、スマートスピーカーのAmazon Echoが録音した音声を使って事件の捜査を行うというシーンがあった。これは初めて見た。確かにスマートスピーカーはずっと物音を録音しているといわれており、もし犯罪現場にスマートスピーカーが置いてあったら、その音声データを手に入れることで手掛かりが得られるかもしれない。実際にアマルはスマートスピーカーから非常に重要な手掛かりを得ており、真犯人がケヴィンであることに気付く大きな要因になった。

 未熟な監督の下で作られた映画なので、さすがのジミー・シェールギルも苦戦していたが、それでももっとも集中力のある演技をしていたのも彼だった。ケヴィン役のアンクル・バーティヤーも好演していたが、多少オーバーアクティング気味だった。リザ、ソニア、タニアを演じた3人の若手女優たちからは将来性は感じなかった。

 「Operation Mayfair」は、いろいろな要素が噛み合っていない残念な出来のサイコスリラー映画であった。主演ジミー・シェールギルのみが見所だが、彼一人の力ではこの哀れな映画を救うことはできていなかった。無理して観る必要はない。