2023年3月24日からNetflixで配信開始された「Chor Nikal Ke Bhaga(泥棒はまんまと逃げおおせた)」は、二転三転するストーリーが売りのスリラー映画だ。日本語字幕付きで、邦題は「ランナウェイ・シーフ」になっている。
監督はアジャイ・スィン。過去に「Upside Down」(2012年)や「Loose Control」(2018年)の2作を撮っているが、どちらもほとんど知られていない映画である。主演はヤミー・ガウタムとサニー・カウシャル。他に、シャラド・ケールカル、インドラニール・セーングプターなどが出演している。
客室乗務員のネーハー・グローヴァー(ヤミー・ガウタム)は機内でアンキト・セーティー(サニー・カウシャル)という魅力的な男性と出会う。その後、何度も彼とは顔を合わし、二人はやがて恋に落ちる。ネーハーは妊娠し、二人は産んで育てることを決める。ところが、アンキトは仕事上でトラブルを抱えており、マフィアから2億ルピーを求められていた。そのごたごたに巻き込まれ、ネーハーは悪漢から腹を蹴られて流産してしまう。失望したネーハーは、ダイヤモンドを盗み出して2億ルピーを手に入れる計画をアンキトと共に実行することになる。 インドの内相が湾岸地域の国アル・バルカトから極秘裏に12億ルピーの価値のあるダイヤモンドをインドに飛行機で密輸しようとしていた。アンキトはその仕事を請け負うが、そのダイヤモンドを盗み出すことにする。アンキトは乗客として、ネーハーは客室乗務員としてデリー行きのその飛行機に乗り込み、ダイヤモンドをすり替えようとする。ところが、その飛行機は突如現れた3人のテロリストにハイジャックされてしまう。 アンキトは、何とかダイヤモンドを手にしようと不審な行動をし、テロリストたちから何度も顔を殴られる。テロリストはクッルー刑務所に収監されているテロリスト、アーディル・ミールの釈放を要求し、飛行機をクッルーに向かわせる。アンキトは隙を見てダイヤモンドをすり替えるが、テロリストともみ合いになり、テロリストを殺してしまう。アンキトは残った2人のテロリストに捕まるが、同乗していた航空保安官の活躍によりそのテロリストたちも殺される。飛行機はクッルー空港に到着する。アンキトはテロリストから爆弾を巻きつけられていたため、航空保安官は乗客を急いで脱出させる。爆弾処理班によってアンキトの身体に巻きつけられた爆弾は解除されるが、実はその爆弾は偽物だった。アンキトはダイヤモンドを手にして飛行機を降りる。 インドの対外諜報機関RAWのシェーク(シャラド・ケールカル)は飛行機に突入するが、テロリストの遺体は存在しなかった。ハイジャックそのものが茶番劇だったのである。シェークは空港を封鎖し、救出したばかりの乗客を留めておく。この中にテロリストがいる可能性があった。また、アンキトが持ち出したダイヤモンドは偽物であることが分かる。 実は、偽ハイジャックを計画したのはネーハーだった。流産した後、ネーハーはアンキトがダイヤモンドを盗み出すために彼女を利用したことを知る。従兄弟のスダーンシュ・ロイ(インドラニール・セーングプター)を通じて裏社会とつながりがあったネーハーは、人を雇ってハイジャックを演出し、アンキトがすり替えたダイヤモンドをさらにすり替えたのだった。本物のダイヤモンドは既にスダーンシュがクッルー空港の外に持ち出していた。 ダイヤモンド密輸に失敗したアンキトは内相からリンチを受ける。入院していたアンキトのところへネーハーがお見舞いに訪れ、自分が黒幕であることを明かす。そしてネーハーは国外に脱出する。だが、今度はアンキトがネーハーに復讐する番だった。
12億ルピーのダイヤモンドを巡るスリラー映画だが、裏表がひっくり返るような場面が何度か用意されており、純粋にその繰り出されるサプライズを楽しむ作品だ。きれいにまとまっていて論理の破綻も見当たらず、俳優たちも熱演している。時間軸が、現在から、過去、さらに過去と三段階に分かれており、その移動が少し分かりにくかった点だけが気になったくらいである。
ネーハーを演じたヤミー・ガウタムは、コロナ禍がもたらしたOTT時代に勢いを増した女優の一人だ。「A Thursday」(2022年)、「Lost」(2022年)とOTTリリースの優れたスリラー映画に主演して高い評価を受けており、この「Chor Nikal Ke Bhaga」がそれらに続く形となった。表情で感情を表現する力に長けている。
もちろん、相手役のサニー・カウシャルも負けず劣らず好演していた。最近カトリーナ・カイフと結婚した男優ヴィッキー・カウシャルの弟であり、まだ兄には肩を並べていないが、今後伸びていくだろう。ハイジャック犯から目を付けられ、血まみれになりながらも、貪欲にダイヤモンドを求め続ける哀れな男性アンキトを情けなさたっぷりに演じていた。
脇役俳優として重みのある演技ができるシャラド・ケールカルや、ベンガル語映画界とヒンディー語映画界を往き来するインドラニール・セーングプターもピンポイントで存在感を示していた。
「Chor Nikal Ke Bhaga」は、大金が必要になったカップルが大胆なダイヤモンド泥棒計画を立てるという物語かと思いきや、複数のどんでん返しを経て、復讐ドラマになっているという、演技と脚本主体のスリラー映画である。OTT時代に主演女優として台頭したヤミー・ガウタムの演技が最大の見所だ。