Caught Out: Crime. Corruption. Cricket

3.5
Caught Out: Crime. Corruption. Cricket.
「Caught Out: Crime. Corruption. Cricket」

 クリケットはインド人にとって宗教に近いスポーツである。インド代表のクリケット選手は神のように崇められ、その人気は映画スターを凌ぐほどだ。だが、インドのクリケット史にも暗い闇の部分がある。それは八百長(Match-Fixing)である。英国植民地時代にインドに根付いたクリケットは「紳士のスポーツ」と呼ばれ、人々はクリケットを清廉潔白なスポーツだと誇りに思っている。だが、クリケットが汚職の温床になっていた時代があった。

 2023年3月17日からNetflixで配信開始された「Caught Out: Crime. Corruption. Criket」は、1990年代のクリケット界を震撼させた八百長事件を深掘りしたドキュメンタリー映画である。監督は新人のスプリヤー・ソーブティー・グプター。「インドの文春」との異名を与えてもおかしくないテヘルカー誌によるスティング・オペレーション(囮捜査)などを元に、クリケット界の闇を暴くセンセーショナルな作品である。ただし、このドキュメンタリー映画が扱っているのはあくまで過去の話であり、現在のクリケット界を糾弾する内容ではない。むしろ、現在はインドクリケット管理局(BCCI)による選手保護が整備され、不正防止対策がしっかり立てられているという内容になっていた。

 この映画は「綻び:金と疑惑とクリケット」という邦題と共に日本語字幕付きで配信されている。インドのクリケット界を舞台にしたドキュメンタリー映画なのだが、インドやクリケットに疎いことが大半であろう日本人視聴者向けの配慮もされていることに驚く。

 インドでクリケット人気に火が付いたのは、1983年のワールドカップでインドが優勝をしたことがきっかけである。それまでインドの国民的スポーツといえばホッケーで、国際試合の常勝国だったのだが、ルール変更により勝てなくなり、クリケットがホッケーに取って代わったのだった。

 しかしながら、クリケットは人気上昇につれて違法賭博の対象になり、巨額の裏金が動くようになった。その賭博にはマフィアが関与していたが、元締めが最大限の利益を出すために、選手に八百長を働きかけるようになった。クリケットの試合は八百長に汚染されているのは公然の秘密であったが、誰も声を上げるものがいなかった。

 クリケットの汚職について初めて指摘をしたのはマノージ・プラバーカルという元インド代表の選手だった。1997年にアウトルック誌がプラバーカルのインタビューを掲載し、匿名の人物から八百長のオファーを受けたと告発したのである。当時はあまりに衝撃の大きすぎる報道であったため、多くの人々はそれを信じることを拒否し、逆にプラバーカルとアウトルック誌が名誉毀損で訴えられることになった。しかし、その後、再び八百長の証拠が挙がり始めた。2000年になるとテヘルカー誌はスパイカメラを使った盗撮を駆使してクリケット界の重要人物から八百長存在の裏付けとなる証言を集め、映画を作った。

 特にこのドキュメンタリー映画でクローズアップされていたのは、1990年代にインド代表の主将を務めた人気クリケット選手、ムハンマド・アズハルッディーンである。不正に関与したと告発されたアズハルはスター選手から一気に売国奴に転落した。しかしながら、彼は八百長への関与を否定し続けた。

 クリケット賭博や八百長を裏で操っていた黒幕の実名も出て来る。それはダーウード・イブラーヒームである。1993年のボンベイ連続爆破テロ事件の首謀者ともされるダーウードは、逃亡先のドバイから電話を使ってインドのアンダーワールドを支配したが、彼の「Dカンパニー」が手を染めていた犯罪の中に、違法賭博と八百長試合があった。クリケットの試合会場において、ダーウードが電話を片手に試合観戦する姿がよく目撃されたが、彼はそうやって賭博屋に指示を出していたのである。

 ただ、奇妙なことに、八百長への関与を疑われた者は、アズハルを含め、後から裁判所によって証拠不十分により無罪を宣告されている。1983年のワールドカップ優勝に貢献した主将カピル・デーヴにも八百長関与の疑惑が持ち上がったが、やはり裁判所から無罪放免されている。一体どこまでが真実なのか分からなくなる。

 過去には、アズハルを題材にした「Azhar」(2016年)という映画や、クリケットの違法賭博を題材にした「Jannat」(2008年)という映画も作られている。「Caught Out: Crime. Corruption. Cricket」は、それらの映画と併せて観ると理解が深まるだろう。