Azhar

2.5
Azhar

 ムハンマド・アズハルッディーン、通称アズハルは、1980年代から90年代にかけて活躍したハイダラーバード出身のクリケット選手である。攻撃的なバッティングスタイルで知られ、1989年から99年までインド代表キャプテンも務めていた。ところが、2000年に八百長の容疑をかけられ、インドクリケット管理協会(BCCI)から出場資格停止処分になった。しかしながら、2012年にアーンドラ・プラデーシュ州高等裁判所は、証拠不十分によりアズハルッディーンの出場資格停止処分を不適切とする判決を下した。ただ、既にこの判決が出たときには彼は49歳になっており、現役復帰はしなかった。代わりに彼は政界に進出し、国民会議派の政治家として活躍している。

 2016年5月13日公開の「Azhar」は、アズハルの半生を描いた伝記映画である。登場人物は、アズハルも含めてほぼ実名であり、彼の汚名を晴らそうとする強い意図が感じられる作品になっている。

 プロデューサーはエークター・カプールなど。監督は「Blue」(2009年)や「Boss」(2013年)のアンソニー・デスーザ。主役のアズハルを演じるのはイムラーン・ハーシュミー。他に、ラーラー・ダッター、ナルギス・ファクリー、プラーチー・デーサーイー、クナール・ロイ・カプール、マンジョート・スィン、ラージェーシュ・シャルマー、クルブーシャン・カルバンダー、ヴィーレーンドラ・サクセーナー、シェールナーズ・パテールなどが出演している。

 ハイダラーバード出身のアズハル(イムラーン・ハーシュミー)は、祖父から励ましを受けてクリケット選手を目指し、インド代表に選ばれる。アズハルはインド代表のキャプテンとなり、数々の国際試合においてインドを勝利に導いてきた。アズハルはナウリーン(プラーチー・デーサーイー)と結婚した後、女優のサンギーター(ナルギス・ファクリー)と不倫関係となり、ナウリーンと離婚してサンギーターと結婚する。

 2000年、アズハルが過去に八百長に関わっていた疑いが出て、インドクリケット管理協会(BCCI)から出場資格停止処分を言い渡される。国民の英雄だったアズハルは一転して売国奴として世間からバッシングを浴びる。

 アズハルは、旧知の弁護士ラマーカント・レッディー(クナール・ロイ・カプール)を雇い、汚名を晴らすために裁判所に訴える。対する弁護士は、レッディーの後輩ミーラー(ラーラー・ダッター)であった。アズハルの援護射撃をしてくれる友人は現れなかった一方、アズハルは元妻と現妻を法廷に出すことを認めなかった。裁判はミーラー側に有利に進む。

 しかし、レッディーはインド捜査局(CBI)のレポートなどを精査し、調査方法に問題があったことを明らかにする。裁判官は証拠不十分でアズハルを無罪とする。

 この映画を観る観客の最大の関心は、アズハルが八百長をしたのかどうかにある。この「Azhar」は、アーンドラ・プラデーシュ州高等裁判所がアズハルに科せられた出場資格停止処分を不当とする判決が出た後に作られており、アズハルに罪はないという立場を支持した映画になっている。

 ただし、アズハルがブックメーカーから1千万ルピーの金を受け取るシーンはしっかり描写されており、少なくとも彼がクリケット賭博や八百長をするブラックな人々と接触していたことは否定されていない。一時的に金を受け取ったものの、彼はブックメーカーの言いなりにはならず、インドを勝利に導き、金は返金した。また、金を受け取った理由は、彼が断っても他のメンバーが八百長を持ちかけられる可能性があり、キャプテンとして彼がそれを止めたことになっていた。

 一般的な道徳観からすれば、たとえそのような高尚な理由があったとしても、ブックメーカーから故意に試合で負けるように持ちかけられ、金を受け取ったならば、たとえその通りに動かなかったとしても、シロとはいえないだろう。

 また、アズハルは既婚ながら女優と不倫した挙げ句、元妻と離婚して再婚している。その派手な女性遍歴も赤裸々に描写されていたが、最大限、アズハルの心象を悪くしないような配慮がなされていた。

 「Azhar」全体からは、かつてインド代表キャプテンとして国民的な英雄だったアズハルの名誉をとにかく回復させようという強い意図が感じられる。ただ、高等裁判所から出場資格停止処分を解除する判決が下されたといっても、それはアズハルが完全にシロだということを意味しない。あくまで調査方法に問題があり、証拠不十分だったために、「疑わしきは罰せず」のルールに則って彼を無罪としただけである。そのような中途半端な状態で、彼を「悲劇のヒーロー」扱いするのは難しい。アズハルは現在、国民会議派の政治家になっており、尚更この映画からはプロパガンダ性を感じてしまう。

 1990年代に活躍したクリケット選手が実名で登場していた。サチン・テーンドゥルカル、カピル・デーヴ、ナヴジョート・スィン・スィッドゥーなど、アズハルと同時代の人気選手が登場する。もちろん、演じているのは別の俳優である。

 クリケット選手が主人公の映画ではあるが、クリケットの試合に重きが置かれた映画ではなく、スポーツ映画としての要素は希薄である。むしろ、試合のシーンは安っぽかった。

 「Azhar」は、実在するクリケット選手、ムハンマド・アズハルッディーンの半生を描いた伝記映画である。インド代表キャプテンを務めながら、八百長疑惑により出場停止になった曰く付きの選手であり、主題としては面白かったが、その視点は決して中立ではなく、彼の汚名を晴らすことに全力が注がれていた。映画の内容については、捜査を担当した人々からも批判が出ている。結局、曰く付きのクリケット選手を取り上げた曰く付きの映画になっている。

 娯楽映画としても、特筆すべき部分はなかった。敢えていうならば、「連続キス魔」の異名を持つ主演イムラーン・ハーシュミーが2人のヒロイン、プラーチー・デーサーイーとナルギル・ファクリーとしっかりキスをしていたことぐらいか。しかも、汚名を晴らす上で彼の前に手強い敵として立ちはだかった女性弁護士ラーラー・ダッターにも触手を伸ばそうとしていた。