Operation Fryday

3.0
Operation Fryday
「Operation Fryday」

 2023年1月26日にZee5で配信開始された「Operation Fryday」は、2008年11月26日のムンバイー同時多発テロに似たテロを実行しようとするパーキスターン人テロリストと、それを阻止しようとするインド人イスラーム教徒殺し屋の戦いを描いたスリラー映画である。

 監督は「D」(2005年)のヴィシュラーム・サーワント。キャストは、ランディープ・フッダー、スニール・シェッティー、ニートゥー・チャンドラ、キラン・ラートール、ザーキル・フサイン、ローヒニー・ハッタンガディー、ユーリー・スーリーなどである。

 ちなみに題名の「Fryday」は誤植ではない。「Friday(金曜日)」が正しいが、時々ヒンディー語映画ではヌメロロジーなどの影響でわざと間違ったスペリングを使う。よって、気にする必要はない。

 時は2018年。ムンバイーの路地で生まれ育ったグラーム(ランディープ・フッダー)は、警察官サダー・ナーイル(スニール・シェッティー)お抱えの情報屋として、アンダーワールドの情報を警察に流して暮らしていた。グラームには、技科大入学を目指すイムティヤーズという弟や、ダンスバーの踊り子ピンキー(ニートゥー・チャンドラ)という恋人がいた。ムンバイーでは、コーティヤーンとマルバーリー(ユーリー・スーリー)というギャング同士の抗争が行われていた。

 グラームはイムティヤーズの入学金を調達するため、コーティヤーンからマルバーリー暗殺の仕事を請け負い、その情報をサダーに流した上で、マルバーリーにも密告をする。怒ったコーティヤーンはイムティヤーズを人質に取ってグラームにマルバーリー暗殺を強要するが、マルバーリーから弟は既に殺されていると知り、逆にマルバーリー側に付いてコーティヤーンを殺した。こうしてグラームは殺し屋の道に入っていく。

 グラームはマルバーリーの指示に従って殺しを繰り返していたが、次の標的はサダーだと知らされる。サダーに恩があったグラームはそれを断るが、別の殺し屋が派遣されたことを知り、サダーを助ける。そのため、彼はマルバーリーに命を狙われるようになる。また、グラームはピンキーと喧嘩をする。行き場がなくなったグラームは、シャバーナー(キラン・ラートール)という謎の女性に導かれ、骨董商リヤーズ(ザーキル・フサイン)と知り合う。リヤーズはグラームに骨董品密輸の仕事を頼む。ところが、リヤーズは実はパーキスターンから来たテロ組織幹部で、彼が密輸していたのは骨董品ではなく爆弾だった。リヤーズから渡された荷物は市場の中心部で爆発し、多くの犠牲者を出す。グラームはたまたま荷物から離れていたために助かるが、警察に逮捕される。また、妊娠していたピンキーはグラームが爆弾テロの実行犯だと知って気を失い、そのまま昏睡状態に陥ってしまう。

 サダーはグラームを使って爆弾テロの首謀者リヤーズを捕まえようとする。グラームは釈放され、再びサダーの下で働くようになる。リヤーズは既にパーキスターンに逃げていたが、シャバーナーがインドに残っていた。サダーの後援を得たグラームはシャバーナーを通じて海路でパーキスターンに渡る。そこで彼はリヤーズまで辿り着き、彼の家族を人質に取って、さらなるテロ計画を聞き出す。リヤーズのボスであるラシード・マスードは、11月26日に再びムンバイーで同時多発テロを起こそうとしていた。グラームはラシードの隠れ家に乗り込み、自らの命を犠牲にしてテロ計画を頓挫させる。

 ヒンディー語の警察映画などを観ていると、「ख़बरीカブリー」と呼ばれる情報屋がよく登場する。大抵はスラム街などに住む裏社会に詳しい人間で、何か重要な動きがあったときに警察にタレコミを行う。だが、「Operation Fryday」は情報屋が主人公という変わった映画だった。

 当初、グラームはゴロツキではあったが殺しなどの犯罪には手を染めておらず、仲間たちにもそれを戒めているくらいだった。しかしながら、可愛がっていた弟が殺されたことでタガが外れ、殺し屋に転落していく。だが、殺し屋の寿命は長くないことは重々承知しており、妊娠した恋人ピンキーを敢えて突き放すようなこともした。

 グラームの転落はそれだけに留まらなかった。殺し屋として有名になった彼は、骨董商の仕事を手伝うようになるが、その男は実は、パーキスターンからやって来た指名手配中のテロリスト、リヤーズだった。グラームは知らぬ間に爆弾を運ばされ、その結果、多くの犠牲者を出してしまう。このことは弟の死以上にトラウマになった。ちなみに過去には、一般市民がテロ実行犯にさせられてしまうという筋書きの映画「Aamir」(2008年)があった。

 ここまではひたすらグラームの転落が描かれるが、その後、彼の巻き返しが始まる。爆弾テロの容疑者として事件現場で現行犯逮捕されたグラームは、サダーの口添えもあって秘密裏に釈放され、リヤーズへの反撃のための特攻隊になる。ちょうどその頃、モーディー首相は国内でテロ事件が起きるたびにパーキスターンを拠点とするテロリストに対して越境攻撃を行い、インド国民から喝采を浴びていた。グラームも、高飛びしたリヤーズを追ってパーキスターンに潜入し、リヤーズや、そのボスであるラシード・マスードを探し回る。

 ラシードは、26/11事件と同じ手法によりムンバイーで同時多発テロを起こそうとしていた。しかしながら、グラームの活躍によってそのテロ事件は未然に防がれた。先の爆弾テロに関わってしまったことの禊ぎを済ませたグラームは殺されてしまう。

 911事件以降、テロはヒンディー語映画の中心的な話題のひとつになり、多くの映画において様々な形でテロに焦点が当てられてきた。それらにほぼ共通するのが、テロリストがイスラーム教過激派であることだ。インドは、国内外のイスラーム教過激派テロ組織によるテロに悩まれ続けてきたため、そういう描写になることは致し方ないところもある。ただ、「Operation Fryday」がユニークだったのは、イスラーム教徒の主人公がテロの実行犯にさせられてしまうだけでなく、彼自身がパーキスターンに乗り込んでテロの首謀者に引導を渡し、さらなるテロ計画を阻止することである。

 リヤーズはグラームに対し、「イスラーム教が危機に瀕している」というお馴染みの警鐘を鳴らして、彼に自身がイスラーム教徒であることを思い出させ、ジハードに引き込もうとする。だが、グラームは罪のない多くの人々が命を落とす地獄絵図を自らの目で目撃しており、リヤーズの甘言には乗らない。彼はイスラーム教徒である前にインド人としての誇りを持っており、インドを破壊しようとするテロリストたちを一網打尽にする。つまり、憂国のインド人イスラーム教徒が残虐なパーキスターン人イスラーム教徒テロリストを倒すという構図の映画であった。

 おそらく元々はさらに長尺の映画だったのではなかろうか。途中で変な切れ目が散見され、若干ストーリーが飛んでいることがあった。また、音声にも違和感を感じた。特にランディープ・フッダーの声は彼自身のものではないのではないか。細かい部分で未熟さや甘さのある作品だった。それでも、まるっきりの駄作というわけでもなく、一応楽しめる。

 「Operation Fryday」は、情報屋を主人公にしてこぢんまりと始まる映画だが、物語が進行するごとに劇的な展開を迎えていき、最終的に主人公はパーキスターンに単身渡ってテロリストを抹殺し、自らの命を犠牲にしてテロ計画を阻止する英雄になるという、かなり壮大な物語に変貌する。ただ、荒削りな映画であることは否めない。興行的にも批評家的にもほとんど評価されなかったが、最初から期待して観なければ一定の楽しさはある作品だ。