借米哪家

 以前、インド映画とソ連・ロシアという記事で、旧ソ連地域で「Disco Dancer」(1982年)の「Jimmy Jimmy」という曲が今でも人気であるということを書いた。

 どうも「Jimmy Jimmy」の人気は旧ソ連地域に留まらないらしい。2022年11月6日付けのタイムズ・オブ・インディア紙に、「Jimmy Jimmy」が、ゼロコロナ政策を続ける中国においてリバイバルヒットしているとの記事が掲載されていた(Why ‘Jimmy Jimmy’ evokes such a joyful universality)。

 まず、「Jimmy Jimmy」とはこんな曲である。

Jimmy Jimmy Ajaa Ajaa | Disco Dancer | Mithun Chakraborty | Kim | Bollywood Hit Songs

 「Disco Dancer」はインドでも大ヒットした映画であり、主演を務めたミトゥン・チャクラボルティーは一躍大スターになった。音楽監督はバッピー・ラーヒリーだ。しかしながら、どうもインドでは「Jimmy Jimmy」よりもタイトル曲「I am a Disco Dancer」の方が人気のようである。

 なぜ「Jimmy Jimmy」が今、中国で人気になっているかというと、それはコロナ禍と関係がある。世界がポストコロナ時代に入る中、中国は今でも厳しいゼロコロナ政策を貫いており、コロナ陽性者が出た都市ではロックダウンが行われている。外出できずにストレスを抱えた中国人が、「Jimmy Jimmy」の替え歌を中国の動画共有サイトにアップロードし、それが人気になっているのだという。

 「Jimmy Jimmy」がコロナ禍の寵児になっている理由は、そのサビの部分である「Jimmy Jimmy Aaja Aaja(ジミー、来て)」が、中国語の「借米借米哪家哪家(どちらでお米を借りればいいですか)」に聞こえるからであるらしい。ロックダウンで家に閉じ込められ、食糧が尽きた中国人たちが、その窮状を面白おかしく動画にしているのである。複数の投稿者がこぞって「Jimmy Jimmy」の替え歌をアップロードし、多くのユーザーから好評価を得ているという。

Jie Mi Jie Mi - Bappi Lahiri’s Song ‘Jimmy Jimmy’ has become a Lockdown Anthem in China

 一般的に中国では政府を批判する内容の動画はすぐに削除されるはずだが、この「Jimmy Jimmy」の替え歌動画はどうやら当局の監視をかいくぐって公開され続けているようである。

 もちろん、コロナ禍前から中国において「Jimmy Jimmy」が知名度のある曲だったという前提があるだろう。「Jimmy Jimmy」が人気なのは旧ソ連圏に留まらない。

 タイムズ・オブ・インディア紙の記事では、さらに多くの国で「Jimmy Jimmy」が知れ渡っている旨が書かれている。具体的には、スリランカ、アフガーニスターン、マレーシア、モンゴル、セルビア、ルーマニア、シリア、イスラエル、カメルーン、ナイジェリア、アルゼンチンなどである。

 ハリウッド映画を除けば、世界のもっとも多くの国や地域で観られている映画はインド映画だという説があるが、「Disco Dancer」のこの世界的な人気を見るにつけ、その言説は決して見当外れなことではないと感じる。そして、おそらく世界でもっとも知られたインド映画音楽はこの「Jimmy Jimmy」なのではないかとも感じる。

 残念ながら日本では「Jimmy Jimmy」が流行した痕跡はない・・・。