Double XL

4.0
Double XL
「Double XL」

 ヒンディー語映画では女性の外見的なコンプレックスを扱った映画がいくつかある。インド人女性が一般的に気にする外見的なコンプレックスといえば主に肌の色とサイズだ。肌の色を扱った映画としては、「Bala」(2019年)、肥満の女性が登場する映画には「Dum Laga Ke Haisha」(2015年)や「Fanney Khan」(2018年)などがあった。

 2022年11月4日公開の「Double XL」は、肥満の女性2人を主人公にした映画である。監督は「Helmet」(2021年)のサトラーム・ラーマーニー。主演はソーナークシー・スィナーとフマー・クライシー。どちらも元々ふっくらしていた女優だが、最近特に太り気味になってきた。それをうまく活用しての起用である。他には、ザヒール・イクバール、マハト・ラーガヴェーンドラ、ショーバー・コーテー、アルカー・カウシャル、カンワルジート・スィン、ニキー・アネージャー・ワーリヤー、ダニーシュ・パーンドールなどが出演している。ジミー・シェールギルが特別出演している上に、クリケットにも関係する映画で、有名なクリケット選手が2人出演している。カピル・デーヴとシカル・ダワンである。

 ウッタル・プラデーシュ州メーラト在住のラージシュリー・トリヴェーディー(フマー・クライシー)は、クリケットのプレゼンターを夢見ていた。だが、太っちょであり、母親(アルカー・カウシャル)は娘の結婚のことばかりを案じていた。ラージシュリーはスポーツ番組の面接を受けにデリーを訪れる。だが、面接するまでもなく彼女は落とされ、トイレで号泣していた。そこで同じく号泣していたのがサーイラー・カンナー(ソーナークシー・スィナー)であった。

 サーイラーはファッションデザイナーの卵だったが、やはり肥満体型をしており、周囲からファッションデザイナーに向かないと揶揄されてばかりいた。サーイラーにはヴィーレーン(ダニーシュ・パーンドール)という恋人がおり、仕事上でも協力関係にあったが、彼が浮気していることが分かり、絶交したばかりだった。サーイラーはロンドンで衣服の撮影を行う予定で、ヴィーレーンを通して監督を手配していたが、それが頓挫してしまった。そのためにサーイラーはトイレで号泣していたのだった。

 サーイラーは、ラージシュリーに撮影や編集の技能があることを知り、彼女を監督にして一緒にロンドンに行くことにする。撮影監督として大麻中毒のタミル人シュリーカーント・シュリーヴァルダン(マハト・ラーガヴェーンドラ)も同行することになる。ロンドンでは、ラインプロデューサーのゾーラーワル・レヘマーニー(ザヒール・イクバル)が加わる。

 サーイラーはロンドンで過ごす内に、全てのサイズの人のためのファッションブランドを立ち上げることを思いつき、そのコンセプトに沿ったプロモーションビデオを作り上げる。また、ラージシュリーは、ゾーラーワルの手配もあってカピル・デーヴのインタビューに成功し、スポーツ番組の編集長アトゥル・チャーブラー(ジミー・シェールギル)にプレゼンターとして採用される。

 サーイラーはファッションショーを成功させ、ラージシュリーはプレゼンターとして軌道に乗る。また、サーイラーとゾーラーワル、ラージシュリーとシュリーカーントの間では恋が芽生える。

 インドでも女性の社会進出が進んできたが、それでも女性が社会において逆風を感じることは多い。「Double XL」で取り上げられていたのは、男性は外見よりも才能が評価されるのに対し、女性は未だに外見が評価されているというインド社会の実態であった。その実態が、オーバーサイズの2人の主人公、ラージシュリーとサーイラーの視点から語られている映画であった。

 ラージシュリーは誰よりもクリケットの知識を蓄えていたが、女性プレゼンターの募集があると、外見的にホットな女性が採用され、知識や才能は二の次にされていた。サーイラーについても、ファッションデザイナーとしてスリムな容貌を求められ、なかなかチャンスを与えられなかった。

 だが、二人とも自らの努力により道を切り拓く。ラージシュリーはクリケットの知識によって、インドのクリケット界のレジェンドであるカピル・デーヴを感服させ、それがきっかけとなって、念願だったプレゼンターの地位を獲得する。サーイラーは、太めの女性を含む全ての女性のためのファッションブランドを立ち上げ、それが受け入れられる。

 2010年代から目立ち始めた、女性中心映画のトレンドを受け継ぐ映画であり、女性のコンプレックスを自信に変え、全ての女性に対して社会での活躍を応援する明確なメッセージが込められた作品になっていた。

 ソーナークシー・スィナーとフマー・クライシーがオーバーサイズの女性を演じていた。女優としてこのような役を演じるのには勇気が要ったはずだ。だが、二人とも自身の体型を受け入れ、おそらくこの映画のために増量もして、太った女性にも夢を追う権利があるということを力強く示していた。

 その反動として、男性キャラが弱い映画でもあった。ラージシュリーの父親、ゾーラーワル、シュリーカーントなど、女性キャラの添え物に過ぎなかった。「Double XL」は興行的には失敗に終わったのだが、どうしても男性キャラを蔑ろにした映画は成功しない傾向にある。女性中心映画において男性キャラをどのように引き立たせるかは近年のヒンディー語映画界において大きな課題である。

 また、近年の汎インド映画のトレンドを意識してか、タミル人シュリーカーントがいたのがユニークだった。シュリーカーントはヒンディー語が苦手ながら一生懸命ヒンディー語で会話をしようとしており、ヒンディー語映画ながら挿入歌にもタミル語の歌が含まれるなど、ヒンディー語映画とタミル語映画の融和が模索されていた。

 「Double XL」は、肥満体型の2人の女性が主人公の女性中心映画である。外見ではなく、内面で人は評価すべきという明確なメッセージ性を持つ映画で、ストーリーテーリングも問題がない。ただ、男性キャラの弱さが目立ち、それが興行的な失敗の一因になったと考えられる。決して悪い映画ではなく、むしろ近年のヒンディー語映画の特徴を踏襲した良作だと感じたが、観客の趣向が変わってしまっている中では残念ながら興行的な成功が望めなくなっている。