Code Name: Tiranga

3.0
Code Name: Tiranga
「Code Name: Tiranga」

 ヒンディー語映画界では一昔前まで女性が主人公の映画はほとんどなかったが、2010年代くらいからそのような映画が目立ち始めた。しかも、ただ女性が主人公であるだけでなく、警官、軍人、スパイなど、今まで男性主体と思われていた職業に就き、男勝りのアクションシーンを披露するキャラを女優たちが好んで演じるようになった。「Kahaani」(2012年/邦題:女神は二度微笑む)、「Mardaani」(2014年)、「Dhaakad」(2022年)などがその代表である。

 2022年10月14日公開の「Code Name: Tiranga」は、ロマンス映画のイメージが強いパリニーティ・チョープラーがインドの対外諜報機関RAWのエージェントとして主演を張るアクション映画だ。監督は「Michael」(2011年)や「Te3n」(2016年)などのリブ・ダースグプター。

 主演のパリニーティ・チョープラーの他には、ハーディー・サンドゥ、シャラド・ケールカル、ラジト・カプール、ディビエーンドゥ・バッターチャーリヤ、シシル・シャルマー、サビヤサーチー・チャクラバルティーなどが出演している。

 題名の「Tiranga」とは三色旗のことで、ここではインドの国旗を指す。

 舞台はアフガーニスターンの首都カーブル。インド人の血を引くトルコ人医師ミルザー・アリー(ハーディー・サンドゥ)は国連職員としてカーブルで医療に従事していた。ミルザーは偶然、ジャーナリストのイスマト(パリニーティ・チョープラー)と出会う。二人は恋に落ち、結婚する。

 それから2ヶ月後。ミルザーとイスマトは友人の結婚式に出席する。そこには、2001年デリー国会襲撃事件の首謀者で、インドが指名手配するテロリスト、カーリド・オマル(シャラド・ケールカル)が出席していた。実はイスマトはRAWのエージェント、ドゥルガー・スィンで、オマル殺害のためにミッションを遂行していた。RAWのエージェントが結婚式を急襲するが、オマルを取り逃す。このとき、ミルザーはイスマトが銃を持って戦っているところを目撃してしまう。ドゥルガーはそのままミルザーと連絡を絶った。

 それから1年後。オマルの姿がトルコで確認される。ドゥルガーはヨルダンからトルコへ飛び、現地エージェントのカビール・アリー(ラジト・カプール)に迎えられる。このときまでにドゥルガーの上司アジャイ・バクシー(ディビエーンドゥ・バッターチャーリヤ)がRAWを裏切っており、オマルとコンタクトを取ろうとしていた。アジャイはオマルに誘拐され、パーキスターンの対外情報機関ISIに引き渡されようとしていた。オマルはISIのイフティカール・カーン(シシル・シャルマー)を隠れ家に招く。RAWのアミトーシュ・ゴーエル次官補はドゥルガーにアジャイの抹殺を命じる。ドゥルガーとカビールはオマルの隠れ家に潜入し、彼を殺す。このとき、オマルの最愛の妻マリヤムは流れ弾が当たって死ぬ。ドゥルガーは逃亡中に事故に遭って重傷を負ってしまう。

 ドゥルガーを助けたのが、現在はトルコで診療所を持つミルザーだった。ドゥルガーは彼に本名を明かし、アフガーニスターンで彼を騙したことを謝る。オマルは妻の敵を討つため、部下にドゥルガーを探させる。ミルザーの診療所はオマルの部下の襲撃を受けるが、二人は何とか脱出に成功する。オマルはドゥルガーとミルザーの関係に気付き、ミルザーを誘拐する。そしてドゥルガーに、24時間以内に降伏しなければミルザーを殺すとメッセージを送る。

 ドゥルガーは自らオマルに身柄を拘束される。だが、カーンもドゥルガーを拉致しようと躍起になっており、カビールを誘拐する。オマルはドゥルガーをマリヤムの墓で殺そうとするが、カーンがそれを止める。そこへカビールが助けに入る。なんと、死んだはずのアジャイも一緒だった。ドゥルガーは救出され、ミルザーも助け出されていた。しかし、ミルザーの身体には爆弾が巻きつけられており、彼は爆死してしまう。

 アジャイは裏切り者ではなく、RAWの中にいる裏切り者を独自に捜査していただけだった。ドゥルガーは、ゴーエル次官補がその裏切り者だと特定する。ドゥルガー、カビール、アジャイはゴーエル次官補をトルコに誘き寄せ、彼に罪を自白させる。アジャイはゴーエル次官補を連れてインドへ向かう。一方、ドゥルガーはオマルの隠れ家に単身で乗り込み、オマルを殺害する。

 女性が主人公の映画が物珍しかった時代は、女性スパイが主人公のアクション映画というだけで世間の注目を集めた。だが、既にそのような映画が溢れている今、女性スパイの映画という点以外にアピールポイントが必要になっている。「Code Name: Tiranga」がそのような新規性を提供できていたかというと、それは疑問である。

 まず、何と言ってもパリニーティ・チョープラーを中心に作られた映画なので、彼女にアクションスターとしての素質があるかどうかが問題になる。パリニーティはふっくらとした顔付きをし、コケティッシュなスマイルが特徴的な女優で、ライトなノリのロマンス映画との相性がいい。だが、既に30歳を過ぎており、それだけでは行き詰まるということで、新しい領域を開拓しているところだと思われる。その中でアクション映画にも挑戦してみたのだろう。しかしながら、いかにも育ちの良さそうな外観からは、どうしても彼女がスパイという信憑性が湧かず、アクションは場違いなのではないかと提言したくなる。

 それでも、ほとんどのアクションシーンで彼女は相当な努力をしていた。特に悪役オマルとの決闘に連なる潜入シーンでは、一人称視点のアクションゲームのような長回しのカメラワークが使われ臨場感があった。肉弾戦での身のこなしも軽やかだった。ただ、銃の取り回しに弱さがあり、軍人のようなキビキビとした動きができていなかった。

 ミルザーとの恋愛、RAW内での裏切り、ISIとの駆け引きなど、様々な要素を散りばめてはいたが、従来のスパイ映画で散々使われてきたネタであり、それらに目新しさは感じなかった。

 南インド発の、圧倒的なパワーを持つ男性主人公のアクション映画がこれだけインド全土で受けている中で、敢えて女性アクションスターを作り出そうとする動きは興味深くも感じる。しかしながら、2020年代はどうも女性主体の映画の成功率が低く、カンガナー・ラーナーウト主演の「Dhaakad」も大コケしたばかりだ。「Code Name: Tiranga」も興行的に大失敗に終わっている。2010年代が女性の時代だったとしたら、2020年代は男性の巻き返しの時代になるかもしれない。そうだとすると、女性客よりも男性客をメインターゲットにして映画作りをした方が賢い。女性がリーダーになって部下の男性たちを使うようなアクション映画は、今後もしばらくは受けない可能性がある。

 アフガーニスターン、ヨルダン、トルコなど、西アジア各国が舞台になっていた。本当にそれらの国々でいちいち撮影が行われたわけではなく、トルコのイスタンブール、ガズィアンテプ、マルディン、カイセリでロケが行われた。セットでは絶対に出せない現地ならではの景色がカメラに捉えられていた。

 「Code Name: Tiranga」は、ラブコメのイメージが強いパリニーティ・チョープラーがイメチェンを狙って主演したスパイアクション映画だ。パリニーティの気迫は伝わってくるが、もはや女性スパイが主人公なだけでは何のアピールにもならず、ストーリーから目新しさも感じなかった。それに、近年は女性主体の映画がどうも受けない。悪い映画ではないものの、特筆すべきものがある映画でもなかった。