Cuttputlli

3.0
Cuttputlli

 2022年9月2日からDisney+ Hotstarで配信開始された「Cuttputlli(操り人形)」は、アクシャイ・クマール主演のサイコスリラー映画である。

 監督は「Lucknow Central」(2017年)や「Bell Bottom」(2021年)のランジート・ティワーリー。主演アクシャイ・クマール以外には、ラクル・プリート・スィン、リシター・バット、ジョシュア・レクレア、スジート・シャンカル、チャンドラチュール・スィン、サルグン・メヘター、グルプリート・グッギー、レナエ・テージャーニーなどが出演している。

 連続殺人犯の心理を研究し、サスペンス映画の監督になりたいと考えていたアルジャン・セーティー(アクシャイ・クマール)だったが、夢を諦め、妹スィーマー(リシター・バット)の夫ナリンダル・スィン(チャンドラチュール・スィン)の勧めに従って、ヒマーチャル・プラデーシュ州カサウリーの警察に警部補として働くことになる。上司は女性警官グリヤー・パルマール署長(サルグン・メヘター)であった。また、アルジャンは英語教師ディヴィヤー(ラクル・プリート・スィン)と恋に落ちる。

 ちょうどそのとき、カサウリーではアムリターという女学生が誘拐される事件が起こった。アルジャンは犯行の手口からサイコパスが犯人だと推測するが、グリヤー署長には却下される。だが、その後アムリターの惨殺された遺体が見つかり、アルジャンの予想が的中する。その後、コーマルという女学生が誘拐され、同様に遺体で発見される。犯行後には必ず目をくりぬかれた人形の頭が残されており、同一犯であった。アルジャンは、同様の事件が2ヶ月前にパルマーヌーでも起こったことに気付き、調べる。

 捜査の結果、ナリンダルとスィーマーの娘パーヤル(レナエ・テージャーニー)が転校した学校の数学教師プルショッタム・トーマル(スジート・シャンカル)が容疑者として浮上する。アルジャンはプルショッタムを逮捕するが、彼は犯行を否定する。プルショッタムはグリヤー署長を人質に取って脱走しようとしたため、アルジャンは彼を撃ち殺す。その後、今度はパーヤルが誘拐され、プルショッタムは犯人ではなかったことが分かる。必死の捜索にもかかわらずパーヤルは遺体で発見される。

 アルジャンは停職処分になるが、独自に捜査を続ける。そして、少女たちが誘拐される前に必ず学校でアグネス(ジョシュア・レクレア)という手品師による手品ショーが行われていたことを突き止める。この手柄によりアルジャンは復職し、次のターゲットがアーイシャーという女学生であると見込む。アーイシャーは誘拐されるが、アルジャンの活躍によって助けられる。だが、逃げ出したアグネスはディヴィヤーの家に現れ、彼女が育てていた少女イティを誘拐する。アルジャンはアグネスを追い、イティを救い出して、アグネスを殺す。実はアグネスと考えていたのは、彼女の息子クリストファーであった。

 連続殺人事件を追う新米警察官の物語であった。ユニークなのは、主人公アルジャンが、映画監督になる夢を諦めて警官になったという逸話を持っていたことだった。だが、アルジャンは、サスペンス映画を撮るために連続殺人犯について深く研究してきており、その経験が警官になってからも役立った。赴任地のカサウリーで起きた連続誘拐殺人事件において、彼は犯人像について的確な推理をすることができたのである。

 当初は見知らぬ少女が連続殺人犯のターゲットになっていたが、その内にアルジャンがもっとも可愛がっていた姪パーヤルが誘拐されてしまう。通常の映画であったが、身内は助かってハッピーエンドとなるはずだが、この「Cuttputlli」は身内びいき一切なしで、パーヤルも惨殺されてしまう。この辺りは米HBOのテレビドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」に通じるものがある。身内も容赦なく死ぬと分かると、俄然、呑気にハッピーエンドを期待して映画を観ていられなくなる。

 また、物語を盛り上げるために、きちんと噛ませ犬も用意していた。成績が悪い女子生徒にセクハラする数学教師プルショッタムである。中盤辺りから、彼が犯人であることが示唆されるが、実は彼は単なるセクハラ教師で、連続殺人犯ではなかった。

 この辺りまでは緊迫感あふれる展開であったが、終盤は乱れ気味であった。まず、真犯人の説明が不足している。真犯人はクリストファーという男性で、死んだ母親アグネスになりかわって手品師をし、学校を巡っていた。そして、その学校でステージに上げた少女をターゲットにし、犯行を重ねていた。その動機は、学校でいじめられたことへの歪んだ復讐であった。クリストファーは早老症に罹っており、老けた外見をしていた。唯一優しくしてくれた同級生の女の子がいたが、彼女に告白をして拒絶されたことで、母子共々復讐の鬼と化す。クリストファーは母親の協力を得てその女の子を家に誘き寄せて殺す。アグネスがその罪をかぶって逮捕され、出所後に死亡するが、クリストファーは母親になりすまして手品師をし、美しい顔の少女を探してターゲットにしていたのだった。これが犯行の動機になるが、あまりに急ぎ足で語られてしまうため、もったいなかった。犯罪映画においては、犯行の動機の丁寧な解説も観客の満足度を高めるためには必要である。

 アルジャンに追われたクリストファーがディヴィヤーの家に現れ、彼女が育てていたイティを誘拐していくのも唐突すぎて関連が分からなかった。今まできっちりとパターンに沿って犯行を行ってきたのに、それと異なる行動をしているし、なぜたまたまディヴィヤーの家に現れたのかも分からない。

 ただ、早老症を扱っていたのは興味深い。ヒンディー語映画界では、「Paa」(2009年)でアミターブ・バッチャンが早老症の子供を演じたことで、この病気は一躍有名になった。その後、この病気を扱った映画は記憶になく、ヒンディー語映画界では2例目ということになるだろう。

 既に50代半ばのアクシャイ・クマールは、今回36歳の新米警官を演じた。かなり無理のあるキャスティングであったが、年齢以外はいつも通りそつなくこなしていた。ラクル・プリート・スィンの出番は序盤に集中していたが、印象は残せただろう。チャンドラチュール・スィンやリシター・バットといった、かつてまあまあ活躍していた俳優たちが再び元気な姿を見せているのは、昔からのヒンディー語映画ファンには嬉しい点だ。

 しかしながら、もっともインパクトがあったのは、アルジャンの上司グリヤー署長を演じたサルグン・メヘターである。TV番組の司会やTVドラマ、そしてパンジャービー語映画で活躍してきた女優で、ヒンディー語映画への出演はこれが初だ。アクシャイ・クマールを前にしても一歩も引かない堂々とした演技を見せていた。そして、彼女が演じたグリヤー署長のキャラにも注目だ。何しろ、男性警官たちを震えがらせる女上司であり、時代は変わったと感じさせる。Netflixのウェブドラマ「Delhi Crime」でシェーファーリー・シャーが演じたヴァティカー・チャトゥルヴェーディー警視と重なる。

 「Cuttputlli」は、静かな山間の町で起こったサイコパスの犯人による連続殺人事件を巡るサイコスリラー映画である。身内は何だかんだいって助かるといったお決まりのセーフガードが作動せず、気楽に観ていられない緊迫感ある映画に仕上がっている。ただ、終盤は息切れしてしまった。惜しい作品である。