ジュガール

 ヒンディー語の語彙全体の中から、インド、インド文化、またはヒンディー語の特徴を象徴する単語を一語だけ選べと問われたら、迷わず「जुगाड़ジューガル」を挙げる。アルファベットでは「Jugaad」と綴られることが多い。

 インド経済の文脈でもよくこの単語が引き合いに出されることもあって、近年では比較的よく知られたヒンディー語の単語になっていると感じる。「Jugaad」と綴られるため、「ジュガード」などとカタカナ表記されることもあるが、ここは是非、原音に近い「ジュガール」で統一したい。ヒンディー語をアルファベット表記した際に使われる「d」の音は、日本語ではラ行で表記した方がいいことがある。その判断にはヒンディー語の語学力が必要である。

 「जुगाड़ジューガル」の意味を一言で説明するのは難しい。語源は、今や国際語になった「Yoga」で有名な「योगヨーグ」とも共通するはずで、「結びつける」という意味の語から派生している。何かと何かを結びつけて新たなものを作り出したり、問題を切り抜けたりする行為や、それによって出来上がった事物などを指し、いい意味でも悪い意味でも使われる。

 いい意味で解釈するならば、日本語の「臨機応変」に対応する言葉だと説明すれば分かりやすいだろう。その場その場の状況に合わせて瞬時に判断を下し、今すぐ手に入るものを、時に独創的な方法で活用し、目的を達成して成果を上げることだ。これは、インド人が非常に得意とすることでもある。「Jugaad」で画像検索をすれば様々な例がヒットするだろう。個人的なお気に入りは、「フルフェイスヘルメットをかぶってタマネギを切るジュガール」だ。

 日本でもフルフェイスのヘルメットは簡単に手に入る。そして日本のタマネギも切ると目が染みて来る。だが、ヘルメットをかぶってタマネギを切ることを思い付いた日本人がどれだけいるだろうか?この驚くべき発想力が「जुगाड़ジューガル」の原動力である。

 こう書くとさも素晴らしいことのように見えるが、要は、用意周到に準備して物事に対処するのとは真逆の態度が「जुगाड़ジューガル」なのだ。あらかじめきちんと準備をしていれば、あり合わせのもので対処する必要に迫られないことが多い。「जुगाड़ジューガル」という言葉には、豊富な発想力で準備不足の穴埋めをするというニュアンスも含まれる。よって、「जुगाड़ジューガル」はインド人の長所でもあり、短所でもあるのだ。とは言え、経済自由化前のインド社会や、現代においても農村部などでは、物が何でも手に入る環境ではない。そういう環境で何とか生活していく上では、「जुगाड़ジューガル」は絶大な威力を発揮する。そしてそういう環境にいるからこそ「जुगाड़ジューガル」の力が磨かれるのだろう。

 ヒンディー語映画でもインド人の「जुगाड़ジューガル」力を目の当たりにできることは多い。例えば、「Mission Mangal」(2019年/邦題:ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画)は、インドが2013年に成功させた火星探査計画の実話を映画化した作品だ。その中では、月にしか到達できない性能のロケットを独創的な運用方法で活用して、探査機を火星まで到達させる様子が描かれている。正に「जुगाड़ジューガル」である。

 インラインスケートを題材にした「Hawaa Hawaai」(2014年)では、貧しい子供がスクラップを寄せ集めてスケート靴を作り出す。これも「जुगाड़ジューガル」の一種である。

 正攻法ではなかなか実現しないことも、報酬と引き換えに賄賂やコネなどのグレーな方法を使って通してしまうのを生業とする「何でも屋」みたいな怪しげな人物がヒンディー語映画では脇役としてよく登場するが、彼らのしている行為も一律に「जुगाड़ジューガル」と呼ばれる。その名も「Jugaad」(2009年)という映画では、行政の強制執行によってトラブルに巻き込まれた会社経営者の前に「ジュガールー」と名乗る男が現れて、たっぷりのマージンと引き換えにグレーな方法で問題解決していく様子が描かれていた。