ディーワーリー祭はヒンドゥー教三大祭のひとつに数えられる祭りだ。ヒンディー語では「दीवाली」と書く。「दीपावली」ともいう。ヒンドゥー教の太陰暦の第8月にあたるカールティク月の新月の日がディーワーリー当日であるが、前後2日間もディーワーリー関連の祭礼が行われる期間とされており、広義では5日間の祭りになる。10月から11月に当たり、三大祭のひとつダシャハラー祭から20日後にディーワーリー祭が来ることが多い。
ダシャハラー祭がコミュニティーの祭りであるのに対し、ディーワーリー祭は家族の祭りという性格が強い。それ故にディーワーリー祭の祝い方には、地域ごとの違いに加えてコミュニティーごとの違いもある。祭りの由来についても様々なことがいわれている。
ディーワーリー祭の大切な性格のひとつは、闇を光で照らす祭りである点である。「ディーワーリー」は「ディーパーワリー」が縮まった形だが、その意味は「灯の列」である。ディーワーリー祭の夜、人々は家の内外に「ディヤー」と呼ばれる灯明を灯す。街中は家々に灯されたこれらの灯明によって幻想的にライトアップされる。
ライトアップがディヤーのみならば風情があるのだが、その過激な形として花火も使われる。ディーワーリー祭の夜、子供たちを中心に、人々は花火で遊ぶ習慣になっているのである。豪快な打ち上げ花火が連発されることもあれば、爆竹や手持ち花火で遊ぶこともある。深夜まで街中が花火の光と音で満たされるため、傍から見たらまるで戦争が起こっているようである。しかも街中に充満するのは光と音だけでなく、花火から発せられる硝煙もある。ディーワーリー祭は、ただでさえ悪化している大気汚染が最悪の状態にまで深刻化する日でもあるのだ。
ディーワーリー祭と密接に結び付いている神様の筆頭は、富の女神ラクシュミーである。「富」と表現すれば上品だが、「お金」と表現した方が実態に近い。ラクシュミーの別名は「チャンチャル（落ち着きがない）」だが、これは持ち主を頻繁に変えるお金の性格を如実に反映している。ディーワーリー祭はラクシュミー女神の誕生日ともされており、この夜、ラクシュミー女神が各家庭にやって来るとされている。富の女神は不潔な場所を嫌うため、インド人はこの日に向けて、部屋を念入りに片付ける。日本でいう大晦日の大掃除みたいなものだ。ディヤーを灯すのも、ラクシュミー女神が迷わずやって来られるようにとの配慮である。また、ディーワーリーの時期には賭博も行われ、人々が自分の運を試す。
ラクシュミー女神がどの方位から来ても迎えられるように、ディーワーリー祭の夜、家の戸や窓は開け放たれる。だが、この習慣は招かれざる客を呼び込むこともある。まずは泥棒である。ディーワーリー祭は一年で最大のショッピングシーズンでもあり、インド人は大量の現金を家に置いていることが多い。そしてラクシュミー女神を迎え入れるために戸や窓を全開にしている。これらの条件は、ディーワーリー祭を泥棒にとっての最大の稼ぎ時にしてしまってもいる。また、近所の子供たちによって打ち上げられたロケット花火が誤って家の中に飛び込み、火災を引き起こすことも少なくない。
ダシャハラー祭は「ラーマーヤナ」の英雄ラーマ王子が羅刹王ラーヴァナを退治したことを祝う日でもあったが、ディーワーリー祭も「ラーマーヤナ」と関連している。ラーヴァナを退治したラーマ王子は14年間の森林生活を終え、故郷アヨーディヤーに凱旋する。その日がちょうどこのディーワーリー祭だったとされている。
ディーワーリー祭で灯されるディヤーは、ラクシュミー女神を迎え入れると同時に、悪を退治したラーマ王子の凱旋を歓迎する光の列でもある。
ヒンドゥー教徒にとってディーワーリー祭は、普段は離れ離れに暮らしている家族や親戚が集う日でもある。家を出て暮らしている子供などに対し、親が「次のディーワーリー祭には帰って来るのか」と問い掛けるシーンは、映画の中でよく目にする。この期間、親戚や知人の間で贈り物が交わされるが、ドライフルーツやナッツ類であることが多い。
ヒンディー語映画において、「Padmaavat」（2018年／邦題：パドマーワト 女神の誕生）など、物語の中にディーワーリー祭が出て来ることはあるのだが、ホーリー祭やダシャハラー祭に比べ、ダンスシーンになることは比較的少ない。パッと思い付くのは、「Aamdani Atthanni Kharcha Rupaiya」（2001年）の「Aayee Hai Diwali」か、「Home Delivery: Aapko… Ghar Tak」（2005年）の「Happy Diwali」という曲ぐらいである。
ディーワーリー祭は富の女神を呼び込む祭りであり、しかもインド人の財布の紐がもっとも緩む時期でもあることから、インド映画業界も最大限のリターンを当て込んでディーワーリーの時期に大予算型の大作をぶつけて来ることが多い。よって、ディーワーリー・シーズンに公開の映画には超期待作が多くなることも、インド映画ファンなら知っておいて損はない知識である。