2022年2月25日からZee5で配信開始された「Love Hostel」は、その題名から連想されるようなロマンス映画ではない。名誉殺人を題材にしたダークなアクションスリラー映画である。
シャールク・カーンの妻ガウリー・カーンなどがプロデューサーで、監督は「Gurgaon」(2017年)のシャンカル・ラマン。キャストは、ボビー・デーオール、ヴィクラーント・マシー、サーニヤー・マロートラー、アディティ・ヴァースデーヴ、ラージ・アルジュン、スワルーパー・ゴーシュなど。
舞台はハリヤーナー州の地方都市。有力な州議会議員カマラー・ディラーワル(スワルーパー・ゴーシュ)の娘ジョーティ(サーニヤー・マロートラー)は、恋人のアハマド・シャウキーン(ヴィクラーント・マシー)と駆け落ち結婚する。二人は、教師ニディ・ダヒヤー(アディティ・ヴァースデーヴ)と弁護士アショーク・カンナー(ヴィシャール・オーム・プラカーシュ)の助けを借りて、裁判所結婚をする。 ジョーティは家族から命を狙われる恐れがあった。二人は、若いカップルを名誉殺人から守るための公営セーフハウスに収容される。そこには駆け落ち結婚した多くのカップルが集住しており、「ラブ・ホステル」と呼ばれていた。アハマドは、違法な運び屋の仕事をしており、ラブ・ホステルを出て仕事をした。だが、アハマドはスシール・ラーティー警視(ラージ・アルジュン)と密通しており、取引現場に警官が踏み込んでくる。アハマドは金を持って逃げ出し、ラブ・ホステルに戻ってくる。 だが、カマラーから送られた刺客ヴィラージ・スィン・ダーガル(ボビー・デーオール)が既にラブ・ホステルに着いており、若いカップルを殺戮して回っていた。ダーガルの兄は、駆け落ち結婚した娘のせいで自殺をしており、ダーガルは駆け落ち結婚に激しい憎悪を抱いていた。だが、ジョーティはうまく逃げ出し、駆けつけたアハマドと合流する。 二人は、親切なゲイカップルに救われ、移動するが、またもダーガルが現れ、ギリギリのところで逃げ出す。そしてニディの家に隠れる。アハマドは、ディラーワル家に潜入し、カマラーを殺そうとするが、ジョーティの父親が代わりに彼女を殺す。アハマドはジョーティの妹を連れて逃げるが、追いついた弟に殺される。また、ニディの家にダーガルが来て、ジョーティを殺す。 仕事を終えてくつろいでいたダーガルは、トラックに轢かれて死ぬ。
恋愛結婚をした若いカップルを家族が名誉を守るために殺害する、いわゆる「名誉殺人」はインドの大きな社会問題となっている。名誉殺人を主題にして、「Aakrosh」(2010年)や「Dhadak」(2018年)などの映画が作られてきた。
この「Love Hostel」も名誉殺人を題材にした映画だが、名誉殺人から駆け落ちしたカップルを守るためのセーフハウスを取り上げており、興味深かった。これは空想の産物ではなく、名誉殺人のケースが多い地域で警察が警護するセーフハウスが本当に存在する。主人公のジョーティとアハマドは異宗教間結婚をしており、特にジョーティの祖母がそれを絶対に許さなかった。そこで二人は駆け落ち結婚をし、しばらくの間、「ラブ・ホステル」と呼ばれるセーフハウスに住むことになったのである。
だが、ジョーティとアハマドを、ダーガルという殺し屋が追う。ダーガルは個人的に駆け落ち結婚に憎悪を抱いており、駆け落ち結婚したカップルを抹殺する仕事を請け負っていた。まるでターミネーターのようにダーガルは執拗に二人に迫ってくるため、アクションスリラー映画になっていた。
そのダーガルを演じていたのがボビー・デーオールである。往年の名優ダルメーンドラの次男で、2010年代は多くの映画に出演していたが、兄のサニー・デーオールに比べるといまいち個性に欠け、ブレイクできずにいた。2010年代はほとんど存在感がなく、過去の人になったかと思われた。だが、Webドラマ「Aashram」(2020年)で華麗なカムバックを果たし、現在再び注目を集めるようになっている。「Love Hostel」の中のボビーも今までの彼のイメージとは全く異なるダークなキャラだったが、それがバッチリはまっていた。年を重ねたことで味が出た俳優である。今後の活躍に期待したい。
悪役のボビー・デーオールに対し、「Dangal」(2016年/邦題:ダンガル きっと、つよくなる)のサーニヤー・マロートラーと、「Haseen Dillruba」(2021年)のヴィクラーント・マシーという若い世代の俳優たちが主演を務めていた。ヴィクラーントもだいぶ渋みが出て来たが、やはりサーニヤーの演技がずば抜けていて、どうしても彼女を中心に映画を観てしまう。
名誉殺人を主題にしたこの映画をどのように締めくくるのか楽しみだったが、残念ながら主役の二人を含む多数の人間の死によって幕切れとなっていた。後味の悪い映画の締め方であるし、何の救いも見出せない。それは「Dhadak」でも同じだったのだが、アクションスリラー仕立てにしたのなら、責任を持ってホッとできるエンディングにして欲しかった。
ハリヤーナー州が舞台の映画であり、登場人物の多くはかなり訛ったハリヤーンヴィー方言を話す。特にボビー・デーオールがコテコテのハリヤーンヴィー方言を話すので注目である。
「Love Hostel」は、名誉殺人から若い駆け落ちカップルを守るためのセーフハウスを物語の起点としたアクションスリラー映画である。特に強いメッセージ性は感じられず、ダークな娯楽映画としてまとまっている。後味のいい映画ではないが、悪い映画ではない。