Valimai (Tamil)

3.0
Valimai

 2022年2月24日公開のタミル語映画「Valimai(強さ)」は、タミル語映画界のアジート・クマール主演のアクション映画である。最近、言語の壁を越えてインド全土で多言語一斉公開されるインド映画を「汎インド映画(Pan Indian Film)」と呼ぶようになっているが、「Valimai」もタミル語に加えてテルグ語、カンナダ語、そしてヒンディー語で同時公開された汎インド映画である。アジート主演作としては初の汎インド映画になる。

 監督はHヴィノード。ヒロインは、ヒンディー語映画界をメインに活躍するフマー・クライシーである。また、カールティケーヤ・グンマコンダ、グルバーニー・ジャッジ、スミトラー、ラージ・アイヤッパ、アチュート・クマールなどが出演している。

 ヒンディー語吹替版を鑑賞したが、タミル語版よりも上映時間が少なかった。タミル語版と見比べてみたら、主にダンスシーンがカットされていたことが分かった。完全な鑑賞を望むならば、オリジナルを観るに越したことはない。

 マドゥライからチェンナイに家族を帯同して転勤したアルジュン・クマール警部(アジート・クマール)は、市内で多発するバイクによる強盗殺傷事件の捜査担当となる。バイク団は「サタンズ・スレイヴ」と呼ばれており、ウルフランガ(カールティク・アーリヤン)に率いられていた。バイク団は、コロンビアから密輸された1トンのコカインを売って大儲けしようとしていたが、アルジュン警部はそれを阻止し、ウルフランガを逮捕する。

 ところが、バイク団にアルジュンの弟アショーク(ラージ・アイヤッパ)が関与していたことが分かり、彼は捜査の担当から外され、代わりにウルフランガと内通している警察官僚が担当になった。アルジュンとアショークの母親(スミトラー)は、アショークが犯罪者になったことにショックを受け、断食を始める。警部補に降格になったアルジュンはウルフランガとアショークを裁判所に護送するが、そのときバイク団の襲撃を受ける。死闘の末にウルフランガとアショークには逃げられてしまう。

 ウルフランガはアルジュンへの復讐に乗り出し、彼の母親、兄(アチュート・クマール)、妹などを誘拐して、警察の保管庫にある1トンのコカインを交換条件として提示した。アルジュンは警察署からコカインを盗み出し、それをウルフランガに届けようとする。だが、アルジュンの相棒ソフィア(フマー・クライシー)との協力によりウルフランガを欺くことに成功する。また、アショークは誤ってウルフランガの恋人サラ(グルバーニー・ジャッジ)を撃ち殺してしまう。

 ウルフランガはバイク団に指令を出し、市内を混乱に陥れようとするが、警察のサイバー班がそれを阻止する。アルジュンはウルフランガと戦って倒す。そしてバイク団を逮捕する。

 かつて、モーターバイクを前面に押し出したヒンディー語のアクション映画「Dhoom」(2004年)が大ヒットしたことがあった。インドにおいてそれまでモーターバイクは四輪車を買えない人たちが買う庶民の乗り物というイメージが強かった。売れ筋も、燃費を重視した110cc~150ccの小排気量のバイクだった。だが、世界最速のバイクとして知られたスズキGSX1300Rハヤブサなどを大々的に取り上げた「Dhoom」の影響でパラダイムシフトが起き、一転してバイクは格好いい乗り物として若者からもてはやされるようになった。以降、インドでは200cc以上の排気量のプレミアム・セグメントのバイクが人気になった。

 「Valimai」を観てまず圧倒されたのは、バイクを使ったスタントシーンへの力の入れ具合だ。チェイスシーンはもとより、スタントバイクのシーンもあって、全編がバイクに捧げられていたといっても過言ではない。主演のアジート・クマールはレーサーとしても知られており、彼の趣味も入っているのかもしれない。「マッドマックス 怒りのデスロード」(2015年)ばりの、走行するバスと多数のバイクのチェイスシーンもあった。映画の中ではいくつかのメーカーのバイクが使われていたが、一番目だったのは、オーストラリアの二輪メーカーKTMのDukeシリーズである。この映画の影響で、インドでまたバイクの売上が伸びそうだ。

 この映画の一番の見所がアクションシーンであることには見解の相違は起こり得ないだろうが、そのアクションシーンにしても、ハイリスクな挑戦がされていたとはいえ、必ずしも上手に撮られたものではなかった。主人公アルジュン警部が圧倒的な強さを誇るのはタミル語映画のお約束だが、彼を引き立たせるためなのか、彼の兄や弟が情けないキャラになっていたのは、あまりに落差が激しすぎて、可哀想だった。悪役ウルフランガはどこか滑稽さが抜けなかったし、2人の女優、フマー・クライシーとグルバーニー・ジャッジの活躍の機会は意外に少なかった。

 家族愛はインド映画の重要な要素だが、「Valimai」では特に母性愛が過度に強調されており、ストーリー進行の邪魔になるほどだった。悪役のウルフランガは、母親は利己的なものだとアショークに吹き込むが、彼の母親は無私の愛をアショークに注ぐ。母性愛に負けてしまうところにウルフランガの悪役失格が極まっていた。

 基本的には徹頭徹尾、娯楽映画であったが、もしこの映画が社会問題に切り込んでいるとしたら、それは若者の失業問題である。大学を卒業して学位を取得したとしても働き口がなく、多くの若者が無職のままか、ウェイターなどの仕事をして生計を立てている実情に触れられていた。ウルフラングは、そんな失業した若者たちを組織してバイク団を作り上げたのだった。

 アジート・クマールの主演作は初めて観たのだが、はっきりいってアクション映画のスターを務めるような容姿をしていない。タミル語映画界では、一度スターの地位を手にしたら、どんなにおじさんになっても、惰性でスターで居続ける傾向がある。

 「Valimai」は、タミル語映画界のスター、アジート・クマール主演のアクション映画である。バイクによるスタントが目立つ作品だが、娯楽作として完成度が高い作品ではない。ヒンディー語版は興行的には失敗したとされているが、南インドではまずますの成功を収めているようである。