Minnal Murali (Malayalam)

4.5
Minnal Murali

 21世紀にインド映画はハリウッド映画を模したジャンルの映画を盛んに作るようになったが、その過程において国産スーパーヒーローを確立すべくスーパーヒーロー映画の製作も始まった。その中でもっとも成功した例はヒンディー語映画の「Krrish」(2006年/邦題:クリッシュ)であるが、他にも「Ra.One」(2011年/邦題:ラ・ワン)や「A Flying Jatt」(2016年)など、いくつか例がある。

 2021年12月16日にムンバイー映画祭でプレミア上映され、同年12月24日からNetflixで配信開始された「Minnal Murali(稲妻のムラリ)」は、野心的なマラヤーラム語のスーパーヒーロー映画である。邦題は「ライトニング・ムラリ」。日本語字幕付きなのでありがたい。

 監督はバシル・ジョセフ。キャストは、トヴィノ・トーマス、グル・ソーマスンダラム、フェミーナ・ジョージ、シェリー・キショール、アジュ・ヴァルギース、バイジュ、ハリシュリー・アショーカン、スディーシュなど。

 ケーララ州クルッカンムーラ村に住むジェイソン(トヴィノ・トーマス)は、米国移住を夢見る仕立屋の青年だった。ジェイソンにはビンシーという恋人がいたが、彼女はアニーシュという男との結婚を決めてしまう。ビンシーの父親サージャン(バイジュ)はクルッカンムーラ村の警察署長を務めており、ジェイソンを毛嫌いしていた。また、ジェイソンの姉の夫ポータン(アジュ・ヴァルギース)も警察官であった。

 一方、同じ村に住むシブ(グル・ソーマスンダラム)は食堂で働いていた。シブは少年時代からウシャー(シェリー・キショール)に恋していたが、ウシャーは別の男性と駆け落ち結婚してしまっていた。だが、最近ウシャーはで戻って兄のダーサン(ハリシュリー・アショーカン)の家に身を寄せ、娘と共に暮らしていた。シブはウシャーのことを遠くから見つめていた。また、ダーサンはジェイソンの仕立屋で働いていた。

 クリスマスイブの日、ジェイソンとシブは同時に雷に打たれ、超能力を得る。ジェイソンはその力を使ってサージャンに復讐をし、劇団で俳優をしていた父親が演じていた正義のヒーロー「稲妻のムラリ」を名乗る。それと時を同じくして、シブは銀行に忍び込み、金庫をこじ開けて金品を奪う。どちらも「稲妻のムラリ」の仕業とされ、警察が捜査に乗り出す。

 シブは、ウシャーと結婚できないのは、兄のダーサンのせいだと考えていた。シブはダーサンを焼き殺し、またも「稲妻のムラリ」を名乗る。一方、ダーサンを殺されたジェイソンは、偽物の「稲妻のムラリ」を見つけようとする。ジェイソンとシブは一度直接対峙する。ジェイソンは偽物の正体がシブであることに気付き、シブは「稲妻のムラリ」の正体がジェイソンであることを突き止める。

 一方、ウシャーはシブが長年自分を想ってくれていたことを知り、彼と再婚しようとする。だが、シブが「稲妻のムラリ」だと気付いた村人たちの襲撃を受け、ウシャーと娘は爆発に巻き込まれて死んでしまう。ウシャーが死んで正気を失ったシブは、村人たちを皆殺しにしようと、メーラーを襲撃する。ジェイソンは警察に捕まっていたが、サージャンによって釈放され、シブに立ち向かう。二人は死闘を繰り広げるが、最後にはジェイソンがシブを殺す。

 空手の教師かつ旅行業者のビジ(フェミーナ・ジョージ)の尽力により、ジェイソンのパスポートが下りる。だが、「稲妻のムラリ」として自身の使命に気付いたジェイソンは、村に残り、村を守ることを決意する。

 スーパーヒーロー映画というと、スーパーパワーを持ったスーパーヒーローが巨悪と戦う、国際規模にスケールの大きな一大スペクタクルを思い浮かべる。しかしながら、地味だが味わい深い小作品で定評のあるマラヤーラム語映画界が送り出したこの「Munnal Murali」は、いかにもマラヤーラム語映画らしいローカルかつ素朴な空気に満ちあふれた牧歌的なスーパーヒーロー映画に仕上がっていた。しかも、とかく派手なアクションが見所となるスーパーヒーロー映画の王道を行かず、敢えて人間の感情に焦点を当てたストーリーになっており、非常に好感が持てた。「インド映画最高のスーパーヒーロー映画」の呼び声が高いのも頷ける。

 スーパーヒーロー映画は、スーパーヒーローのキャラもさることながら、やはり悪役が光っていなければならない。その点、「Munnal Murali」の悪役シブは、非常に人間的で、しかも転落の様子が丁寧に描かれており、悪役ながら感情移入をしてしまうほどよく出来たキャラであった。もちろん、シブ役を演じたグル・ソーマスンダラムの演技も絶品であった。少年時代から片思いをし続けてきたウシャーへの恋心が彼の全ての行動の原動力になっており、それはスーパーパワーを得た後も一貫していた。彼は、ウシャーを手に入れたら村から消え去ることも考えていた。しかし、ウシャーが死んだことでタガが外れ、村で大虐殺を始める。それを止めるために、「稲妻のムラリ」となったジェイソンが立ち上がるのである。

 主人公ジェイソンにしても、当初からスーパーヒーローとしての自覚があったわけではなかった。雷に打たれた後、自分にスーパーパワーが備わっていることに気付くと、彼がまずしたのは、元恋人の父親に対する復讐だった。ジェイソンも十分にダークサイドに落ちる可能性があった。しかし、彼はシブほど根が悪くなかった上に、偽物の「稲妻のムラリ」が現れたことで、その正体を突き止める方に注意が行った。また、死んだ父親が彼の思い出の中でスーパーヒーローの理想像になっていたことも、彼が悪の道に進むことを留めていた。

 劇中でスーパーパワーを得たのが1人ではなく2人だったことが、ストーリーに起伏を持たせ、深みを加える大きな勝因になったと感じた。また、あくまで舞台がクルッカンムーラ村から動かなかったことが、スーパーヒーロー映画の典型を逆手に取ったユニークな特徴につながっており、成功していたといえる。人間関係があまりに身内で完結していたことは過剰なローカル性だとは感じたものの、大きな欠点ではなかった。

 スーパーパワーの表現には当然のことながらCGが使われていたが、CGに頼りすぎていないところもこの映画のいいところだった。カメラワークの工夫で心情を表現したりするような、映画としての基本を忘れておらず、それでいて決してチープな感じのしない映像になっていたのには唸らされた。

 「Minnal Murali」は、近年急速に再評価が進み、インド全土にファンを生み出しているマラヤーラム語映画界の底力を知ることができるスーパーヒーロー映画だ。他の映画界に比べて少ない予算で作っているのは確かだが、それ故に工夫を凝らすことで短所を長所に変え、ローカルなスーパーヒーローの確立に成功している。必見の映画である。