The Wife

3.0
The Wife

 2021年3月19日からZee5で配信開始された「The Wife」は、低予算ながら脚本の醍醐味によって怖さを醸し出すタイプの上質なホラー映画である。

 監督は新人のサルマド・カーン。キャストは、「Wajah Tum Ho」(2016年)などに出演のグルミート・チャウダリー、新人サヤーニー・ダッター、シュエーター・ダーディーチ、デーヴィヤーンシー・カウシク、ジョーティ・パテール、プージャー・ジュワーレーなど。TVドラマ俳優ばかりで、映画界ではほぼ無名の俳優たちがキャスティングされている。

 舞台はムンバイー。映像編集者のヴァルン・デーサーイー(グルミート・チャウダリー)はアーリヤー(サヤーニー・ダッター)と結婚したばかりで、高層アパートに住み始めた。だが、アーリヤーは異変を感じるようになり、やがて家に幽霊がいると信じるようになる。霊媒師のラーイマー・ダース(シュエーター・ダーディーチ)は家にサーリカーという名の女性の幽霊がおり、ヴァルンを殺そうとしていると言う。ヴァルンは当初、サーリカーという女性など知らないと言うが、彼も幽霊を目の当たりにし、遂にアーリヤーに過去のことを話す。

 ヴァルンと兄のヴィクラムは農村で育ったが、地主の父親によって、魔女(ジョーティ・パテール)の娘サーリカーと結婚させられる。以降、サーリカーはヴァルンに付きまとうようになった。そこである日、ヴィクラムはサーリカーを殺してしまう。ヴァルンは村を逃げ出し、それから一人で身を立てたのだった。また、ヴィクラムはずっと服役しており、最近出所したが、「サーリカーが戻ってきた」というメッセージを残して謎の死を遂げる。

 ラーイマーと助手のガネーシュは、ヴァルンの身体にサーリカーの霊を呼び寄せる儀式を行う。ヴァルンの意識はサーリカーが魔女によって殺された現場まで飛ぶが、何とか霊を撃退することに成功した。

 だが、実はサーリカーに重傷を負わせたのは兄のヴィクラムではなくヴァルン自身だった。まだサーリカーの霊はこの世に留まっており、隙を見てヴァルンをベランダから突き落とす。

 ヒンディー語のホラー映画は、映像と効果音で観客を無理矢理怖がらせる手法を採ることが多く、国際的なレベルになかなか達していないのだが、この「The Wife」は低予算なのが逆に功を奏して、なるべく映像効果などを使わずに恐怖感を煽る工夫がなされていた。

 主人公の身の回りで突然怪奇現象が起こるようになり、やがて命を狙われるようになるという筋書きのホラー映画では、一体どんな霊が何の理由でそんなことをしているのかを知る過程が重要なサスペンスを生む。「The Wife」では、当初は新婚夫婦のヴァルンとアーリヤーが居に定めたアパートの一室が幽霊に取り憑かれていると示唆される。だが、中盤でそれは覆され、ヴァルンの過去に関係していることが分かる。サーリカーという名の幽霊は、生前は魔女の娘で、かつてヴァルンと結婚していた。だが、ヴァルンの兄ヴィクラムに殺されてしまい、ヴィクラムを殺した後にヴァルンのところに来ていたのだった。

 霊媒師のラーイマーは、サーリカーの霊をヴァルンに取り憑かせて退治しようとする。意外にあっさりとサーリカーの霊は撃退されてしまい、物語はハッピーエンドに向かうように見えるが、最後にひとつツイストが用意されていた。サーリカーに危害を加えたのは実はヴァルン自身だったことが分かるのだ。よって、サーリカーによる復讐はまだ終わっておらず、最後ではヴァルンはサーリカーに殺されてしまう。

 ただ、ヴァルンとアーリヤーの家で働いていたメイドの子供が殺されてしまったのは理屈が通っていなかった。サーリカーの復讐の対象はヴァルンとその妻アーリヤーであるべきで、メイドの子供は何の関係もない。可哀想な犠牲であった。また、中盤では、サーリカーはヴァルンを自分のものにしようとしているのか、殺そうとしているのか、動機がいまいち分からないところがあった。

 現代を舞台にする最近のヒンディー語映画では、登場人物の身の回りの品物のスマート化やIoT化がよく進んでいる。しかも幽霊たちまでがそれら文明の利器を使いこなして人間を怖がらせるのである。「The Wife」の幽霊サーリカーは、スマートフォンを使いこなして勝手に電話を掛けたり、スマートスピーカーを勝手に起動させて音楽を流したりする。

 13-14世紀の詩人アミール・クスローが作詩作曲したとされる「Chaap Tilak」が印象的に使われていた。かつてヴァルンがサーリカーと結婚したときに流れていた曲で、これがヴァルンとアーリヤーのアパートでも突然流れ出す。サーリカーがヴァルンに、自分のことを思い出させようとして流しているのだろうか。

 主演のグルミート・チャウダリーとサヤーニー・ダッターはまだ初々しい演技だったが、悪いところは見当たらなかった。いい作品に恵まれればいい線を行く可能性がある。

 「The Wife」は、新人監督による無名俳優をキャスティングした低予算ホラー映画だが、その分、脚本や映像に工夫が見られ、幼稚なホラー映画の多いヒンディー語映画においてキラリと光るものがあるホラー映画に仕上がっている。