Nail Polish

4.0

 新型コロナウイルス感染拡大により映画館が閉鎖されたことで、新作映画が映画館での公開を経ずにオンライン・プラットフォームで公開される事例がインドでは急増した。いわゆる「配信スルー」の映画はインドではOTT(Over The Top)と呼ばれている。だが、大スターを擁した大予算型の映画は依然として映画館公開を基本としており、OTTの映画はどちらかというと低予算型の映画が多い。ただ、その中には小粒でもピリリと辛い作品が見受けられる。2021年1月1日にZee5で配信開始された「Nail Polish」も、OTTとしては高い評価を受けているサイコスリラーである。

 監督はバグス・バールガヴァ・クリシュナ。「Taare Zameen Par」(2007年)などに俳優として出演し、「Barot House」(2019年)で監督デビューした人物である。主演はアルジュン・ラームパールと「Tumhari Sulu」(2017年)のマーナヴ・カウル。他に、アーナンド・ティワーリー、ラジト・カプールなどが出演している。

 舞台はウッタル・プラデーシュ州。子どもの連続殺人事件が続き、地元で尊敬される教育者ヴィール・スィン(マーナヴ・カウル)が容疑者として逮捕された。ヴィールの弁護を務めることになったのが、敏腕弁護士スィッダールト・ジャイスィン(アルジュン・ラームパール)、検察がアミト・クマール(アーナンド・ティワーリー)、裁判官がキショール・ブーシャン(ラジト・カプール)であった。

 DNA鑑定などからヴィールが有罪である可能性が高まったが、留置所で暴行を受けたヴィールは記憶喪失となる。その後、記憶を回復したが、彼は自分のことをチャールー・ラーイナーと名乗り始める。精神科医が診察をする中で、チャールーとヴィールの関係が徐々に明らかになる。このような物語である。

 容疑者を除けば、検察、弁護士、裁判官が主な進行役であり、前半は一般的な法廷ドラマのように思われる。だが、中盤にヴィールに解離性同一性障害(多重人格)の症状が生じ始めると、途端にサイコスリラーの様相を呈して来る。果たしてヴィールは単に多重人格の振りをしているのか、それとも本当に多重人格になってしまったのか。そして、もし彼が本当に多重人格であり、ヴィールの肉体にチャールーの精神が宿っているならば、ヴィールの精神が犯した罪をチャールーの人格になすりつけていいのかという問題が出て来る。ただ、ヴィールは元々諜報部員であり、他人になりすますことはお手の物であった。一体何が本当なのか、最後まで分からない。

 冒頭、この映画は実際に起こった事件に基づいていると主張される。ただ、この映画には原作がある。ハリウッド映画「真実の行方」(1996年)であり、ウィリアム・ディール著の同名小説(1993年)である。よって、「Nail Polish」で描写された出来事がインドで起きたという訳ではないようである。しかしながら、インドの文脈において、真に迫るリメイクとなっていた。

 「Nail Polish」の演技において、男性のヴィールと女性のチャールーという2つの人格を演じ分けたマーナヴ・カウルがもっとも賞賛されて然るべきであろう。題名となっている「Nail Polish」は、チャールーがやたら爪を気にし、ネイルエナメルをすることにちなんでいる。それに対するアルジュン・ラームパールも非常に安定性のある俳優となっており、エリート弁護士役が板に付いていた。

 「Nail Polish」は、OTT映画としては傑作の部類に入るサイコスリラーである。着想や脚本が秀でている上に、主演のアルジュン・ラームパールやマーナヴ・カウルの熱演が光る。2021年の必見映画の一本に数えられるだろう。