London Confidential

3.5
London Confidential

 「L.A.コンフィデンシャル」(1997年)という米国映画があるが、2020年9月18日からZee5で配信開始されたヒンディー語映画「London Confidential」はそれを想起させる題名だ。ロンドンを舞台に、インドの対外諜報機関RAWのエージェントが活躍するスパイ映画である。ムンバイーのアンダーワールドに関する著作が多い作家フサイン・ザイディーがストーリーを担当している。2019年末から始まった新型コロナウイルス感染拡大をいち早くストーリーに採り入れている点で特筆すべきである。

 監督はカンワル・セーティー。主演はモウニー・ロイ。他にプーラブ・コーリー、クルラージ・ランダーワー、サーガル・アーリヤ、パルヴェーシュ・ラーナー、ジャス・ビナーグ、ディルジョン・スィンが出演している。また、シャラド・ケールカルがカメオ出演している。

 新型コロナウイルスの感染拡大からまだ世界が立ち直っていない中、さらに危険なウイルスが印中国境地帯で確認された。中国は自国でそのウイルスが発生したことを否定し、同国の諜報機関MSSは秘密を隠そうとした。だが、インドの諜報機関RAWのエージェント、ビレーン・ゴーシュ(ディルジョン・スィン)は中国人の内部告発者と接触することに成功した。その情報源は7日後にロンドンで開かれる学会にて事の真相を発表する予定だった。ところが、ビレーンは突然姿を消す。

 表向きはインド大使館勤務で、実際はRAWのエージェントであるウマー・クルカルニー(モウニー・ロイ)はビレーンの捜索を開始する。また、ウマーはインド大使館内に裏切り者がいることを察知し、それについても密かに捜査を始める。インド大使のニルーパマー・ダース(クルラージ・ランダーワー)はウマーの捜査に全面協力していた。

 ウマーは、部下のアルジュン(プーラブ・コーリー)と共に、怪しい人物を徹底的にマークする。ビレーンがMSSに拉致されたことを突き止めるが、ビレーンは遺体で発見される。また、内通者の正体もなかなか判明せず、次々の関係者が死んでいき、時間だけが刻一刻と過ぎる。

 ウマーは、自分の携帯電話がハッキングされていることに気付くが、それをそのままにして囮にする。そして会議の日、ビレーンから受け取った絵に隠されたメッセージを解読し、中国人内部告発者との接触に成功する。同時に、ウマーはインド大使館内の内通者がニルーパマー大使であることに気付く。ウマーはニルーパマー大使をおびき出し、アルジュンに暗殺させる。

 ウマーたちRAWエージェントに活躍により、世界は新たなウイルスの脅威から解放される。

 新型コロナウイルスはどこが発祥の地なのかまだ分かっていないが、中国の可能性は大だ。単に中国から感染が始まったのみならず、中国が生物兵器として開発したのが新型コロナウイルスだとの説も根強い。中国政府は必死にそれを否定するものの、中国内部からも厳しい統制をかいくぐって告発の声がチラホラと上がった。「London Confidential」は、舞台こそロンドンであるが、2019年末以降に世界で感染が急拡大した新型コロナウイルスをヒントに、中国を敵国に設定したスパイ映画である。副題はズバリ、「The Chinese Conspiracy(中国の陰謀)」だ。

 世界中でコロナ禍が始まってから企画された映画だとすれば、新型コロナウイルスの言及がある映画として世界でもっとも早い例かもしれない。もしかしたら新型コロナウイルスとは関係なく、ウイルスを巡るストーリーの映画が作られており、コロナ禍が始まってから新型コロナウイルスへの言及が追加された可能性もある。どちらにしろ、非常にタイムリーな映画である。

 A級のスターが出演している映画ではないし、アクションシーンが目白押しのスパイアクション映画でもなかったが、ウイルスとの戦いにおいて、水面下で印中のスパイが火花を散らす緊迫感ある映画になっていた。俳優たちが真摯に演技をしていたのと、脚本が良かったことがその勝因であろう。

 このようなスリラー映画では、もっともありそうにない人物が犯人だったりして、サプライズを用意するものである。「London Confidential」でも真犯人に関して大きなサプライズが用意されていたが、全く予想が付かない展開ではなかった。妊娠した女性が捜査をするという設定は、「Kahaani」(2012年/邦題:女神は二度微笑む)に二番煎じと揶揄されかねない。ただ、「Kahaani」では主人公が妊婦であることがラストのサプライズにつながっていたものの、「London Confidential」では彼女の妊娠が何かストーリー上で重要な伏線になっているわけでもなかった。これは「Kahaani」を踏まえた上で敢えて観客の期待を肩透かししたとも取れる。

 インド映画の仮想敵国といえばパーキスターンが筆頭だが、ここ最近、中国もチラホラ敵国として登場するようになった。「Paltan」(2018年)がその典型だ。新型コロナウイルスの件では中国が世界中から批判を浴びたため、映画の中で敵国として設定しやすくなったと思われる。

 「London Confidential」は、全くスターパワーのない映画だが、新型コロナウイルス感染拡大をストーリーに組み込んだもっとも早い例の映画として特筆すべきで、さらに、脚本の秀逸さから緊張感のある優れたスリラー映画に仕上がっている。あまり話題になっていないが、観て損はない。