Devi

3.5
Devi
「Devi」

 2020年3月2日にYouTubeのLarge Short Filmsチャンネルで配信開始された短編映画「Devi(女神)」は、様々な年齢や社会階層の女性9人がひとつの部屋に集まっているという謎のシチュエーションから始まる作品である。

 監督はプリヤンカー・バナルジー。短編映画の監督はこれで2作目となる。キャストは、カージョル、シュルティ・ハーサン、ネーハー・ドゥーピヤー、ニーナー・クルカルニー、ムクター・バールヴェー、シヴァーニー・ラグヴァンシー、ヤシャスウィニー・ダヤーマー、サンディヤー・マートレー、ラマー・ジョーシーである。この内、カージョル、シュルティ、ネーハーの3人は、メインストリームの映画で主演を張ってきた有名な女優だ。

 映画開始早々、9人の女性がひとつのレトロな部屋に集まっているところが映し出される。老婆もいれば若い女性もいるし、裕福そうな女性もいれば、学校に通っていない無教養な女性もいる。一瞬、これは売春宿か何かかと思うのだが、彼女たちの容姿はどうも売春婦らしくない。これはどういうシチュエーションなのか、解明したくて見入ってしまう。最初は無言であったが、ポツリポツリと会話を交わすようになる。そのやり取りから、どうもお互いに仲が良くないように見える。ますます謎である。

 彼女たちは、新たな入居者をどうするかを話し合っている。部屋はそれほど大きくなく、誰かが出て行かなければならないという意見も出される。誰が出て行くかで喧嘩が始まる。

 次第に、彼女たちが既に死んでいること、また、レイプの被害者であることが分かってくる。玄関のベルが鳴らされ、新たな入居者がドアの前で待っている。とうとうカージョル演じるジョーティが来訪者を迎えに行く。すると、それは小さな少女だった。つまり、少女がレイプされ、殺されたのだった。

 映画の最後には、インドでは毎日90件の強姦事件が起こっている、犯人に有罪判決が出る確率はわずか32%などのデータが示され、強姦の撲滅がまだまだ道半ばであることに警鐘が鳴らされる。

 短編映画には短編映画なりの効果的な手法があるが、「Devi」は敢えて謎のシチュエーションを冒頭で提示し、後から情報を加えて主張を明らかにしていくことで、短い尺の中で観客に十分なインパクトを与えることに成功していた。

 公開後、批評家たちからも高い評価を得た映画ではあるが、剽窃の疑いも掛けられている。アビシェーク・ラーイという映画監督が映画学校の学生だった頃に作った「Four」(2018年)という短編映画に「Devi」は酷似しているというのだ。「Four」の方はその題名の通り、4人の女性が登場する。3人の女性がひとつの部屋で会話をしているシーンから始まるが、彼女たちは強姦殺人事件の被害者であり、やがて4人目の被害者が部屋を訪れる。見てみるとそれは赤ちゃんだった。そんなプロットで、確かに「Devi」とそっくりだ。

 プリヤンカー・バナルジー監督は、アビシェーク・ラーイ監督による剽窃の訴えに対してきちんと向き合って答えておらず、どうも事実の可能性が高いように見える。もしインスパイアされたならば、きちんとアビシェーク・ラーイ監督の名前をクレジットすべきだった。

 「Devi」は、未だに強姦事件が減らないインド社会の現実に、ユニークな手法で警鐘を鳴らす短編映画だ。カージョル、シュルティ・ハーサン、ネーハー・ドゥーピヤーといった有名女優が出演しており豪華だが、剽窃の疑いもあり、素直に賞賛できない曰く付きの作品になってしまった。着想源と思われる「Four」と併せて観ても面白いだろう。


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