Hacked

4.0
Hacked
「Hacked」

 ヴィクラム・バット監督はヒンディー語映画界におけるB級映画の雄であり、庶民が好きそうな下世話な映画を好んで作っている。しょうもない映画も多いのだが、たまに当たりがあり、大ヒットに化けることもあるので見逃せない。

 2020年2月7日公開の「Hacked」は、ヴィクラム・バットが脚本を書き監督した作品である。題名の通りハッカーにハックされた女性の物語である。キャストは、ヒーナー・カーン、ローハン・シャー、スィド・マッカール、モーヒト・マロートラー、プラヴィーナー・デーシュパーンデー、シータル・ダボールカル、タンヴィー・タッカルなど。主演のヒーナーは映画界では新人だが、TVドラマ「Yeh Rishta Kya Kehlata Hai」(2009-2016年)の主演女優であり、よく知られた顔である。

 舞台はムンバイー。サミーラー・カンナー、通称サム(ヒーナー・カーン)はファッション雑誌の編集長だった。サムは、既婚の人気スター、オーム・カプール(スィド・マッカール)と不倫関係にあった。オームは離婚してサムと結婚すると約束していたが、なかなかそれを行動に移さず、サムは焦燥感に駆られていた。サムと同じマンションに住む19歳のヴィヴェーク(ローハン・シャー)はサムのことをよく気遣っていた。また、売れない音楽監督ローハン(モーヒト・マロートラー)もサムをよく支えていた。

 サムの誕生日パーティーにオームは現れず、サムは孤独感を募らせて酔っ払う。そして、後片付けを手伝っていたヴィヴェークにキスをし、そのまま彼と一夜を共にしてしまう。翌朝目を覚ましたサムはしたことを後悔するが、サムに片思いをしていたヴィヴェークは彼女のボーイフレンドとして振る舞うようになる。サムはヴィヴェークにはっきりと拒絶を突き付けるが、ヴィヴェークはそのまま引き下がるような男ではなかった。

 ヴィヴェークは天才的なハッカーであり、サムに拒絶されたことで、彼女の人生をハックするようになる。彼女の部屋のみならず、彼女の行く先々をハッキングし、彼女を常に監視する。また、廃業したガソリンスタンドを借りて、そこを監視基地にする。ヴィヴェークのハッキングのせいでサムは仕事を失う。また、サムのSNSは全てハッキングされ、勝手にプライベートな情報を垂れ流される。オームからも単なる友人扱いされてしまう。サムはローハンと共に警察に被害届を出し、ヴィヴェークを逮捕してもらうが、逆にヴィヴェークは警察官の人生をもハックし、彼を言いなりにしてしまう。

 絶望したサムは、全てを捨ててヴィヴェークに立ち向かうことを決意する。自動車を売却し、昏睡状態にあった母親の生命維持装置を外し、そしてオームと絶交した。そして、ヴィヴェークに反撃を開始する。サムとローハンはヴィヴェークの身辺調査をし、リヤー(タンヴィー・タッカル)という女性に注目する。リヤーもサムにハックされ言いなりになっている女性だった。サムの弱みを握ると同時に、彼の特技を逆に彼への復讐に利用する作戦を立てる。

 サムはホテルにヴィヴェークを誘い出し、わざと彼に誘拐される。ホテルの監視カメラはヴィヴェークによってハッキングされ、ヴィヴェークの存在が消された一方、サムはずっとホテルにいることにされた。それを見たサムは好機とばかりにヴィヴェークに攻撃をして彼を殺す。サムはずっとホテルにいたことになっているので、彼を殺しても容疑者にはならないのだった。サムは警察に呼ばれるものの無罪放免となる。

 ヴィクラム・バット監督が得意とするエロティックなサスペンス映画であったが、とても楽しく鑑賞できた。まず、サムを演じたヒーナー・カーンとヴィヴェークを演じたローハン・シャーのキャスティングが絶妙だった。ヒーナー・カーンはまだ映画界では新人扱いだが、TVドラマ界で長くキャリアを築いてきただけあって、中堅女優の貫禄があった。そして19歳のマッドなハッカーを演じたローハン・シャーがあまりにはまり役で、彼以上のキャスティングは有り得なかったのではないかと思われるほどだ。未熟だが狂気を秘めたハッカーを気持ち悪く演じており、ゾクゾクした。

 ストーリーも非常に現代的だった。ヴィヴェークがあまりに天才的なハッカーで、こんなことまで本当にできるのかと半信半疑ではあったが、監視カメラや携帯電話がどこにでもある現代社会において、もしそれらを容易にハッキングできるハッカーがいたとしたら、とても怖いことだ。主人公のサムは、ヴィヴェークに目を付けられ、彼の求愛を拒絶したばかりに、仕事もプライベートもメチャクチャにされる。テクノロジーが空気のように隅々にまで浸透した現代社会において、一歩間違うとどこにも隠れる場所がない窮地に陥ることへの警鐘がエロスたっぷりに打ち鳴らされていた。

 相手を倒すために相手の得意技を逆に利用するという、まるで柔道のようなラストへの持って行き方は見事の一言であった。細かい部分を見ると無理もあったが、そこは力技で何とかきれいにまとめていた。

 悪役であるハッカーがまだ19歳というのも示唆的であった。19歳といえば、インドでは選挙権がある成年だが、大学生の年齢でもあり、まだ未熟でもある。そして、コンピューターの世界では、10代でも大人顔負けのスキルを発揮することがある。未熟さは時にそのスキルを犯罪へと走らせる。「Hacked」で描かれたような、ターゲットにされた人間を社会的に抹殺する行為を罰する上で、年齢は関係ないということが主張されており、たとえ10代の犯罪者であっても厳罰で臨むべきだという社会の声を代弁していた。

 「Hacked」の内容は題名がストレートに物語っている。人間を便利にするテクノロジーが人間を恐怖に陥れる展開は現代のホラーといってもいいだろう。キャスティングも素晴らしかった。ストーリーがあまりに良くできていたので、何かのリメイクの可能性もあるが、ヴィクラム・バット監督の作品の中では楽しめるB級映画である。