昨今のヒンディー語映画は生殖に関するテーマも果敢に題材とするようになっており、過去に精子ドナーを題材にした「Vicky Donor」(2012年)、勃起不全を題材にした「Shubh Mangal Saavdhan」(2017年)、生理用品を題材にした「Padman」(2018年)などがあった。2019年12月27日公開のヒンディー語映画「Good Newwz」は、不妊治療と体外受精を題材にしたコメディー映画である。
「Good Newwz」の監督は「Humpty Sharma Ki Dulhania」(2014年)などで助監督を務めているラージ・メヘター。プロデューサーはカラン・ジョーハルなどである。主演はアクシャイ・クマールとカリーナー・カプール。助演としてディルジート・ドーサンジュとキヤーラー・アードヴァーニーが出演している他、アーディル・フサイン、ティスカ・チョープラーなどが出演している。
ムンバイー在住のヴァルン・バトラー(アクシャイ・クマール)とディープー(カリーナー・カプール)は結婚7年目だったが子どもがいなかった。ヴァルンの姉妹の助言に従い、インド随一の不妊治療医ジョーシー(アーディル・フサイン)のところへ行き、体外受精をすることになる。ところが、同じに別のバトラー家も体外受精をしていた。チャンディーガル在住のハニー・バトラー(ディルジート・ドーサンジュ)とモニ(キヤーラー・アードヴァーニー)の夫妻である。しかも、あろうことか、ヴァルンの精子はモニの卵子と受精し、ディープーの卵子はハニーの精子と受精してしまった。 ヴァルンとディープーは当初、堕胎しようと考えるが、ディープーは胎内の子どもの心臓が動いているのを見て考え直す。ディープーの勝手な決断はヴァルンを困らせた。しかも、2人の住むマンションの上階にハニーとモニの夫妻が引っ越して来る。ヴァルンとディープーの行動を監視するためである。ハニーとモニもそのまま子どもを生むことを決めており、あわよくばディープーの子どもも引き取ろうとしていた。彼らの存在がさらにヴァルンの頭を悩ますようになる。
序盤では、長年子どものいない夫婦が抱える問題がコメディータッチで描写される。「ベビー」という言葉にあまりに過敏になり、「ベビーコーン」という言葉にまで反射的に反応してしまったり、「一体私たちが子どもを欲しいのか、社会が子どもを欲しいのか」とつぶやいたり、SNS上にアップされる子どもの写真にイラついたりする。
だが、本当のコメディーは精子の取り違えのよる妊娠が発覚してからだ。どちらのバトラー夫妻も長年子どもがおらず、子どもを待ち望んでいた。だが、やっとできた子どもは、精子が違う。ディープーの子どもはヴァルンの子どもではないし、モニの子どもはハニーの子どもではない。こういう場合、どういう対応をすべきか。だが、女性の方が最終的な決定権を持っており、女性が生むと決めたら生むことになるようである。ディープーは胎児を見たことで堕胎を思いとどまり、モニは「女神の恩恵」と考え、全てを受け入れる。
また、ハニーとモニの夫妻が典型的なパンジャービーであることも状況をよりシリアスに、かつコメディーにしている。ヴァルンは、ディープーから生まれる子どもにハニーのDNAが入ることが許せなかった。
序盤から中盤にかけて、非常に秀逸にストーリーが進んでいたため、どんな風に結末でまとめるか、ドキドキしながら見守っていた。そこで失敗すると台無しだ。予想していた結末は、実は精子の取り違えはなかったことが発覚するというハッピーエンディングだったが、それとは異なる終わり方を迎える。そして、とてもハートウォーミングな終わり方だった。
どこまでラージ・メヘター監督の手による作品か分からないが、このテーマ選びや熟練したストーリー運びには、存分にカラン・ジョーハルの作家性が感じられた。カラン・ジョーハルはエンドクレジットの「Chandigarh Mein」で一瞬だけカメオ出演する。
「Good Newwz」は、産婦人科で体外受精をした夫婦が取り違えられた精子で妊娠してしまうという、現実世界で起きたらあまり笑えない出来事を、底抜けに明るいコメディータッチで描いた傑作である。俳優たちの演技も素晴らしい。インドでは大ヒットした。