Satellite Shankar

4.5

 インド陸軍の兵士が休暇で帰省中にテロ事件を解決するという筋書きの「Holiday」(2014年)という映画があったが、2019年11月8日公開の「Satellite Shankar」も同じような導入部の映画である。だが、実家のあるタミル・ナードゥ州に向かうまでに数々の事件を解決し、それがいつしかインド国民の応援を受けるようになると言う、かなり大規模な物語となっている。

 監督はイルファーン・カマール。どちらかというと作詩作曲の分野で映画に関わって来た人物であるが、映画監督もしており、この「Satellite Shankar」は彼の監督第2作となる。主演はスーラジ・パンチョーリー。他に、新人メーガー・アーカーシュ、パローミー・ゴーシュ、ウペーンドラ・リマエー、パルディープ・チーマーなどが出演している。

 インド陸軍の兵士KPJシャンカル、通称サテライト・シャンカル(スーラジ・パンチョーリー)は、シュリーナガルの基地に駐屯していた。パーキスターン軍との銃撃戦により負傷し、8日間の休暇をもらい、それを使ってタミル・ナードゥ州の実家に帰省することになる。シャンカルは、同じ部隊に所属する兵士たちから、家族などへ様々な用事を預かって、シュリーナガルを後にする。

 ジャンムー・ターウィー駅から列車に乗って出発したが、カトゥアー駅で下りてベンガル人老夫婦を助けていたために列車に乗り遅れてしまい、タクシーでパターンコート駅まで向かうことになる。そこで同乗することになったのが、Vロガーのミーラー(パローミー・ゴーシュ)であった。ところがパターンコート駅でミーラーを助けている内に、またも列車に乗り遅れてしまう。

 シャンカルは同じ部隊に所属するジートゥー・スィン(パルディープ・チーマー)の妹の結婚式に出席し、アーグラーへ向かう。ところが、アーグラー・カント駅とアーグラー・フォート駅を間違えてしまい、線路をつたって移動する。その途中、横転したバスに閉じ込められていた人々を救う。その中には、パターンコート駅で別れたミーラーもいた。

 シャンカルはグワーリヤルに向かい、同じ部隊に所属するアンワルの家も訪ねる。彼の家では借金と土地を巡って兄弟間で争いが起こっていたが、シャンカルは機転を利かせて解決し、南へ向かう。途中、マハーラーシュトラ州のチムルで悪徳政治家の手下をなぎ倒して警察に逮捕・拘留されるが、殉死した兵士の母親に助けられる。

 シャンカルは、お見合い相手のプラミラー(メーガー・アーカーシュ)と連絡を取り、セーラム駅で待ち合わせをする。だが、ミーラーはVログを更新しながらシャンカルを追って来ており、セーラム駅で彼に追い付く。彼の活躍はミーラーのVログによってインド中に知れ渡っていたが、シャンカルは全く知らなかった。そしてミーラーに、二度と自分のことを取り上げないように言う。ミーラーはそれを受け容れる。

 だが、今までミーラーのVログを観ていた人々が連絡を取り合い、密かにシャンカルの帰省と部隊への帰還を助けることにする。シャンカルは無事に実家に帰って母親と対面し、束の間の団欒をした後、すぐにシュリーナガルへ向けて出発する。シャンカルはヒッチハイクしたバイクでコーチンへ向かい、そこで再びプラミラーと落ち合って、飛行機に乗ってジャンムーに到着する。だが、ジャンムーからシュリーナガルへ飛ぶ飛行機はキャンセルとなっていた。シャンカルは困り果てるが、そこへヘリコプター操縦士がやって来て彼を助ける。底にはミーラーもおり、シャンカルはやっと、なぜこんなに人々が助けてくれるのか理解する。

 シャンカルはシュリーナガルに到着するが、テロリストがシャンカルを標的にしていた。シュリーナガルの町に入ったシャンカルは暴徒に襲われるが、女性たちの助けも受けてそれを切り抜け、基地へ向かって全力疾走する。そして、約束していた朝の点呼に間に合う。

 「Satellite Shankar」は興行的に大失敗に終わった映画であったが、興行的に振るわなかった作品が全て駄作かと言うと、当然のことながら、そんなことはない。諸事情でたまたま売上や評価が伸びなかっただけの良作も多い。この「Satellite Shankar」は、隠れた名作と評してもいいほど、優れた映画であった。

 まずは、インドを北から南まで縦断するロードムービーである点が旅情を誘う。インドを旅行したことがある者なら、必ず惹かれるはずだ。当初、主人公シャンカルが乗った列車はヒムサーガル・エクスプレスである。これは、最北端となるジャンムー&カシュミール州のヴァイシュノー・デーヴィー駅やジャンムー・ターウィー駅から、最南端となるタミル・ナードゥ州のカンニャークマーリー駅まで、3,787kmを72時間で結ぶ超長距離列車である。インド旅行好きには憧れの列車のひとつだ。シャンカルは質素倹約を旨とする兵士だったために飛行機で移動する手段を採らず、列車で3日間かけてインド亜大陸を縦断し、帰省することにしたのだった。

 ところが、シャンカルは困っている人を見ると、我を顧みずに、助けずにはいられなくなる性分で、それが災いして、帰省の旅はスムーズに行かない。人助けをする度に彼の帰省計画は狂って行く。だが、彼の優しさは出会う人々の心を癒やし、彼を介することで、不思議と様々な問題が解決して行く。また、たまたま彼と出会ったVロガーのミーラーが、シャンカルの活躍をライブ配信してインド中に広めたため、シャンカルのサポーターが日増しに増えて行く。当の本人は、人助けと移動に多忙で、自分のことがインド中で話題になっているとは夢にも思っていなかった。インド各地で繰り広げられる短い各エピソードはそれぞれ心温まるもので、映画を感動的なものとしていた。

 シャンカルが立ち寄ったのは、ジャンムー&カシュミール州のシュリーナガル、ジャンムー、カトゥアー、パンジャーブ州のパターンコート、ピラウリー、ウッタル・プラデーシュ州のアーグラー、マディヤ・プラデーシュ州のグワーリヤル、マハーラーシュトラ州のチムル、タミル・ナードゥ州のセーラムなどで、正にインド亜大陸を縦断している。

 また、シャンカルは軍人の父親の転勤に伴ってインド各地に住んだ経験を持ち、様々な言語を操ることができた。タミル人とのことなので、母語はタミル語であろうが、ヒンディー語もうまいし、パンジャービー語、ベンガル語、マラーティー語、ウルドゥー語などを駆使して、現地の人々の心を勝ち取っていた。

 彼の愛称「サテライト・シャンカル」は、彼が大事に持ち歩いていたシヴァ神の玩具に由来する。それは、軍人のためになかなか会えなかった父親の形見であり、人々の心をつなげる魔法の品だった。シャンカルはそのアイテムを使うことで、特定の人になりきることができ、それによって、心が不安定な人々をつなげることができた。サテライト・シャンカルは出て来るのは序盤に集中しており、後半はあまり活用できていなかったが、面白いギミックだと感じた。

 インターネット、スマートフォン、そして様々なアプリが、インド人のコミュニケーションを変え、それが映画にもよく反映されるが、「Satellite Shankar」では、ライブ動画とSNSが物語の重要な原動力となっていた。シャンカルの帰省と、期日までに基地に戻る約束の遵守を応援する人々が、インターネットを通してインド中に出現し、シャンカルの知らないところでサポートし出す。中には、シャンカルの実家の近くで列車を止める運転手や、シャンカルが向かう先の信号を全て青にしてしまう交通警察など、インドらしい職権濫用型サポーターもいた。

 お見合い相手プラミラーとの淡い恋愛も良かったが、やはり兵士の映画であるため、最後は男の世界でまとめていた。シャンカルは、シュリーナガルの人々に襲撃され流血しながらも、約束の時間までに基地に戻り、点呼に応える。部隊の人々も、シャンカルが時間まで戻って来ることを祈っていたため、点呼が終わるとシャンカルに抱き寄る。最終的には、なけなしの休暇しかない中で国境を守る兵士たちの応援映画となっていた。この映画を観て、軍人に感謝しないインド人はいないだろう。

 主演のスーラジ・パンチョーリーは、映画家系に生まれ、サルマーン・カーンのバックアップを受けてデビューし、将来を嘱望された若手俳優の一人だったが、付き合っていた女優ジヤー・カーンの自殺によって、キャリアアップにストップが掛かってしまった可哀想な男優である。今回はかなりいい役がもらえ、精いっぱい努力をしていた。物真似のシーンで多少演技力に不足を感じたが、悪くない俳優である。早くトラブルから抜け出して欲しいものだ。

 「Satellite Shankar」は、休暇を得て帰省中のインド陸軍兵士を主人公にした愛国主義的な映画である。スターパワーはなく、監督も無名であるが、インドを北から南まで移動するスケールの大きなロードムービーであり、小さな感動エピソードの積み重ねにより、ドラマ性も十分備えている。隠れた名作と評して差し支えない作品である。