The Dark Side of Life: Mumbai City

2.5
The Dark Side of Life: Mumbai City
「The Dark Side of Life Mumbai City」

 2018年11月23日公開の「The Dark Side of Life: Mumbai City」は、自殺へ向かいつつある複数の主人公を同時並行的に追ったオムニバス形式の映画である。

 監督はターリク・カーン。芸術監督出身で、過去に「Ek Se Bure Do」(2009年)という作品を撮っているが、全く無名の人物である。キャストでまず目を引くのはマヘーシュ・バットだ。「Saaransh」(1984年)や「Aashiqui」(1990年)などで知られるヒンディー語映画界の重鎮で、バット・キャンプと呼ばれる一大勢力を構築している。アーリヤー・バットの父親でもある。多くの映画を監督・プロデュースしてきたが、彼が俳優として映画に登場するのはこれが初である。

 他に、演技派男優として知られるケー・ケー・メーナンが起用されているのにも注目せざるをえない。ただ、その他に有名な俳優はいない。アヴィー(新人)、ネーハー・カーン、アリーシャー・カーン、イルファーン・フサイン、デープラージ・ラーナー、ニキル・ラトナパールキー、ジョーティ・マールシェー、グル・ハミードなどである。

 プリンス(アヴィー)は歌手になるためにムンバイーに上京してきて、ズルフィカール(マヘーシュ・バット)という芸術家の家に居候することになる。ズルフィカールにはイルファーンという息子がいたが、渡米後は全く連絡をしてこなくなっていた。イルファーンからの電話を待ち望んでいたズルフィカールは、いつしかプリンスを息子同然に感じるようになった。プリンスは、カーヴィヤー(ネーハー・カーン)という女性の紹介により歌手デビューを果たす寸前まで行くが、頓挫してしまう。しかもカーヴィヤーはドラッグのオーバードーズにより死んでしまう。プリンスはリストカットをするが、ズルフィカールに救われる。半年後、プリンスは歌手として成功する。

 証券会社の社長スミト・バルサリヤー(ケー・ケー・メーナン)は、娘のヌンヌーと共に暮らしていた。母親は既になく、タニヤーという女性と付き合っていた。スミトは強気の投資をモットーにしていたが、あるとき投資に失敗し、顧客に大損をさせてしまう。スミトはナンヌーと共に飛び降り自殺をしようとするが思い留まる。立ち寄ったディスコで彼はモデルのカーダンバリー(グル・ハミード)と出会う。グルは恋人に振られて自殺を考えていたが、サミトと出会い、心を通わせる。スミトはカーダンバリーをナンヌーに会わせる。また、スミトは顧客から投資の失敗を責められなかった。

 保険会社に勤めるアーナンド(ニキル・ラトナパールキー)は、背伸びをしてアパートに住み、妻のパールル(ジョーティ・マールシェー)と共に暮らしていた。だが、アーナンドはノルマを達成できず、会社をクビになってしまう。また、パールルも職場のセクハラに耐えかね、リストラの対象になりそうだった。収入が途絶えたことで家賃を支払うことができず、自動車のローンも残っていた。二人は自殺をしようとする。

 ワレン・ロボ(ディープラージ・ラーナー)は警察官であったが、女性との性行為ができずに悩んでいた。彼には幼年時代に教師からセクハラを受けたトラウマがあった。ロボは次第に自殺を考えるようになる。

 ミール(イルファーン・フサイン)とゾホラー(アリーシャー・カーン)はカシュミールからムンバイーへやって来た。だが、警察官ロボに嫌がらせを受ける。ミールは復讐のために自爆テロリストになるが、ゾホラーには内緒にしていた。ミールはゾホラーを先にカシュミールに帰らせるが、彼女の乗るタクシーに爆弾を仕掛けていた。だが、そのタクシーは横転し、爆弾が仕掛けられていることが明らかになる。タクシー内に閉じ込められたゾホラーを助けたのがロボだったが、彼自身は爆発に巻き込まれて殉死する。

 だが、この爆発により、アーナンドとパールルが飲もうとしていた睡眠薬入りのグラスが割れ、二人は自殺を思いとどまった。

 様々な理由から人生の壁に直面し、自殺を考えていた人々が、何らかのきっかけによって自殺を思いとどまったことで、人生は捨てたものではないと思い直すという筋書きの映画であった。人生にアップダウンは付きものだが、アップを経験するためには、どんなにダウンのときでも生き続けなければならない。自殺がテーマの映画というとどうしても暗くなってしまうし、映画の題名から「The Dark Side of Life: Mumbai City」なので、暗くならない方がおかしいのだが、最終的には「生きていればその内いいことがある」という前向きなメッセージを発信している。

 複数の主人公がおり、それぞれのエピソードが語られるのだが、それらは全く独立しているわけではなく、所々で交錯し合う。また、ほとんどのエピソードがハッピーエンドなのだが、例外もある。たとえば警官のロボはゾホラーを助けるために殉死しているし、プリンスの恋人カーヴィヤーはオーバードーズのため死亡した。

 複数のエピソードを複雑に交錯させながら進める類の映画には高度な構成力が必要となる。残念ながらターリク・カーン監督にそれをうまくまとめるための技術と経験が備わっているとは思えなかった。どうしてもそれぞれのエピソードは深く描写できないし、それらを相互に関連付けさせたといっても、それが映画の質を著しく高める効果があったとは思えない。

 それでも、マヘーシュ・バットの俳優デビュー作として今後記録に残り続ける映画であろうし、ケー・ケー・メーナンの演技も相変わらず良かった。ニキル・ラトナパールキーやディープラージ・ラーナーのような普段は脇役に徹している俳優たちが主役級の演技をしているところを観られるいい機会にもなっているし、ネーハー・カーンやグル・ハミードといった若手の女優たちを吟味する楽しみもあった。

 「The Dark Side of Life: Mumbai City」は、複数の登場人物が様々な理由から自殺に向かっていくが、最終的には生き続けることの大切さを学ぶという、自殺防止啓発を目的とした映画である。マヘーシュ・バットの俳優デビューがもっともホットなトピックだが、それ以外に大きな見所があるわけではない。