Baazaar

3.0
Baazaar
「Baazaar」

 2018年10月26日公開の「Baazaar」は、アンガリヤーから身を立てて実業家となった人物と、野心的な証券トレーダーの物語である。アンガリヤーとは、主にムンバイーとグジャラート州各都市の間を往き来する運び屋のことである。

 監督はガウラヴ・K・チャーウラー。主演はサイフ・アリー・カーンとローハン・ヴィノード・メヘラー。ヒロインはチトラーンガダー・スィンとラーディカー・アープテー。他に、ソニア・バーラーニー、パワン・チョープラー、デンジル・スミス、マニーシュ・チャウダリーなどが出演している。また、エリ・アヴラームがエンドクレジットソング「Billionaire」にアイテムガール出演している。

 イラーハーバードで証券トレーダーをしていた青年リズワーン・アハマド(ローハン・ヴィノード・メヘラー)は、尊敬する実業家シャクン・コーターリー(サイフ・アリー・カーン)のようにビッグになるためにムンバイーに移る。リズワーンは証券トレーダーのプリヤー・ラーイ(ラーディカー・アープテー)と出会い、縁あって大手証券会社キャピタル・ブローカーに入社することができる。リズワーンはプリヤーと恋仲になる。

 リズワーンはシャクンから才覚を認められ、彼の投資を担当するようになる。一度は損失を出しそうになったが、プリヤーからインサイダー情報を得て一気に巻き返す。リズワーンは、シャクンの妻マンディラー(チトラーンガダー・スィン)とも近しい仲になる。だが、シャクンの取引に目を光らせていたインド証券取引委員会のラーナー・ダースグプター(マニーシュ・チャウダリー)は、リズワーンもマークするようになる。

 シャクンは、間もなく政府が携帯電話の周波数分配を始めるという情報を入手した。そこでシャクンはリズワーンを引き抜き、買収した通信会社スカイコムの社長に据える。シャクンは通信大臣を買収しており、スカイコムが周波数の割り当てを受けるはずだった。リズワーンは、自分の妹アームナー(ソニア・バーラーニー)の夫にスカイコムの株を買わせる。スカイコムは新規公開株(IPO)として注目を集め、株価は高騰する。

 ところが、政府が方針を変更し、周波数分配はオークション形式ではなく早い者勝ち形式になった。アームナーの結婚式に出席していたリズワーンはその動きに乗り遅れ、スカイコムは周波数の割り当てを受けられなくなる。スカイコムの株価は急落するが、その直前にシャクンが保有していた大量の株が売り抜けられていた。ラーナーはインサイダーを疑い、リズワーンを逮捕し、その次にはシャクンも逮捕しようとするが、シャクンは全く証拠を残していなかった。リズワーンは、尊敬していたシャクンに裏切られた上に、この裏切りにはプリヤーも関わっていたことが分かり、二重のショックを受ける。

 だが、リズワーンはシャクンの弟子として彼の行動をずっと観察しており、ヒントを見つけていた。リズワーンはラーナーに、シャクンがアンガリヤーの手法を使って大臣に賄賂を送っていると報告する。この情報はマンディラーから得られたものだった。ラーナーとリズワーンはムンバイーからスーラトに向かうカルナーヴァティー・エクスプレスを急襲し、密輸されていたダイヤモンドを見つける。こうしてシャクンは逮捕され、周波数分配の汚職も発覚したのだった。

 違法なインサイダー取引を中心に物語が展開する証券業界を舞台にした経済映画だった。主人公のリズワーンは大志を抱いてイラーハーバードからムンバイーに乗り込んできた青年であった。どんな小さなチャンスも見逃さずに自分の有利な方向に引き込むガッツと、持ち前の運の良さによって、瞬く間にトップトレーダーにのし上がる。そして憧れだった実業家シャクンの投資案件を担当するようにもなる。しかしながら、シャクンはそれ以上に周囲のどんな人でも利用してのし上がってきた人物であった。リズワーンはシャクンの金儲けのために利用され、危機に立たされる。だが、リズワーンも黙っていなかった。彼はシャクンの不正を暴き、自分を裏切った師匠を牢屋に送り込む。

 ただ、リズワーンも清廉潔白ではなかった。シャクンから預かった投資資金を増やして返し、実力を認めてもらうために、彼はインサイダーの情報で利益を出す。その後は、上場直後に自分が社長に就任したスカイコムの株を親類に買わせて儲けを出させようとする。目的のためなら何でもするリズワーンを見て、シャクンも心置きなく利用することができたのである。

 シャクンの出自が、金品の違法な受け渡しに関わるアンガリヤーである点も映画の伏線として最大限活用されていた。スーラトはダイヤモンド研磨の一大拠点であり、ムンバイーは商業の中心である。この二都市間で現金とダイヤモンドを輸送するために暗躍するのがアンガリヤーである。アンガリヤーは、金品受け渡しの証文代わりとして少額紙幣を使う。送り手が輸送物と共に紙幣をアンガリヤーに渡し、アンガリヤーは受け手に輸送物と共にその紙幣を渡す。その番号を照合させることで、本当に相手に金品が渡ったかが分かるという仕組みである。シャクンが度々10ルピー札を見せていたが、これが実はアンガリヤーのヒントであった。

 シャクンはジャイナ教徒という設定であったが、これはヒンディー語映画ではとても珍しい。インドでもっとも厳格な不殺生主義を貫くジャイナ教徒は商売に従事することが多く、裕福なコミュニティーである。シャクンが手を下して人が死ぬシーンはこの映画にはなかったが、これはジャイナ教徒コミュニティーに対する配慮であろうか。

 サイフ・アリー・カーンは金儲けのためなら手段を選ばず、しかも何の証拠も残さない、ずば抜けて頭の切れる冷酷な実業家を重厚に演じていた。サイフは、年齢に見合った役を選ぶことが多くなっており、好感が持てる。リズワーンを演じたローハン・ヴィノード・メヘラーは俳優ヴィノード・メヘラーの息子で、突然現れた新星である。まだ実績がないにもかかわらず、主演ともいえる役に抜擢されていた。大きな問題はなかったが、スターとしてのカリスマ性はまだ感じなかった。

 チトラーンガダー・スィンは、出番は少ないものの、物語の転機につながる重要人物として、存在感を示していた。ラーディカー・アープテーはもう一人のキーパーソンであり、しっかりと演じていた。どちらもいい女優である。

 「Baazaar」は、証券トレーダーを主人公にした経済界を舞台としたユニークなドラマ映画である。師匠と弟子の裏切りの物語と表現してもいい。サイフ・アリー・カーン、ローハン・ヴィノード・メヘラー、チトラーンガダー・スィン、そしてラーディカー・アープテーらの演技も見所である。