近年、ヒンディー語映画にダンスシーンが少なくなったことで、コレオグラファーやバックダンサーなど、ダンス回りの仕事をしていた人々が職にあぶれているという話も聞く。その反動で、成功しているコレオグラファーが中心になって、バックダンサーなどに仕事を与えるため、ダンスをこれまで以上に前面に押し出した映画が作られるようになった。
2018年7月27日公開の「Nawabzaade」は、ダンサー出身の若手俳優3人を主役に起用した映画である。監督はジャエーシュ・プラダーン。「ABCD: Any Body Can Dance」(2013年)など、多数の映画で振り付けを担当しており、本作で監督デビューとなる。最近、コレオグラファーから映画監督に転向するケースがとても多くなっているが、プラダーン監督はその最新例だ。
主演はダルメーシュ・イェーランデー、プニート・パータク、ラーガヴ・ジュヤール。全員、TVのダンスコンペティション番組で注目を集めたダンサーたちである。彼らは「ABCD」や「ABCD 2」(2015年)などのダンス映画に出演経験がある。
ヒロインはパンジャービー語映画界で活躍するイシャー・リキーで、ヒンディー語映画出演は初だ。他に、ヴィジャイ・ラーズ、ザーキル・フサイン、ムケーシュ・ティワーリーなどが出演している。
特別出演の俳優たちが豪華である。まず、エンドクレジットのダンスナンバー「High Rated Gabru」にA級スターのヴァルン・ダワンとシュラッダー・カプールが出演し、踊りを踊っている。この二人は「ABCD 2」の主演であり、その縁で特別出演となったのだろう。また、タイトルクレジットのダンスナンバー「Tere Naal Nachna」では、作詩作曲をし、歌を歌っているバードシャーが出演する他、アティヤー・シェッティーもカメオ出演する。さらに、劇中に挿入されるダンスナンバー「Amma Dekh」にはコレオグラファー兼ダンサーのシャクティ・モーハンが、「Mummy Kasam」ではTVドラマで活躍する女優サンジーダー・シェークが出演している。
舞台はウッタル・プラデーシュ州のとある街。廃品回収業者のサリーム(ダルメーシュ・イェーランデー)、映画ポスターのデザイナー、アビシェーク(プニート・パータク)、そして仕立屋の採寸係カラン(ラーガヴ・ジュヤール)は仲良し三人組だった。ある日、近所に引っ越してきた家族の娘シータル(イシャー・リキー)に三人同時に恋をする。 サリームはシータルの父親ラームキショール(ザーキル・フサイン)に取り入り、アビシェークは彼女の母親クスムに取り入る。そしてカランは直接シータルに接近する。ところが、突然シータルは銀行に勤めるパッとしない若者と結婚してしまう。三人は同時に失恋する。 三人は自分たちの心を弄んだシータルに復讐するため、彼女を誘拐する。ところが、麻薬密売をするプレームナート(ムケーシュ・ティワーリー)の一味に三人は狙われており、暴行を受ける。それ以来、シータルは行方不明だった。 カトール・スィン警部補(ヴィジャイ・ラーズ)は三人から話を聞くが、シータルに騙された人がたくさんいることが分かる。実はシータルは詐欺師で、何人もの男を騙して金を巻き上げていたのだった。
最近のヒンディー語映画ではダンスのうまいスターが増えてきた。リティク・ローシャンのデビュー以降、ダンススキルはスターの必須条件になったといっていい。だが、かといって元々ダンサーだった人物を主役に据えて演技をさせても、一朝一夕にいい俳優になるとは限らない。「Nawabzaade」は、あまりにダンス中心に映画を構成したばかりに、それ以外の部分が手薄になってしまっていた。演技経験の少ない俳優たちが筋の通らないストーリーに沿って動く、苦しい映画であった。
さすがダンスで身を立てただけあって、主役の三人、ダルメーシュ・イェーランデー、プニート・パータク、ラーガヴ・ジュヤールのダンスは格段にうまく、しかも息の合った踊りを披露していた。豪華なゲスト陣と共に彼らが踊るダンスナンバーはこの映画の唯一といっていい見所である。とはいっても、映画のダンスシーンはダンサーだけで成立するものではなく、カメラワークや衣装など、様々な要素によってその総合的な出来が決まる。「Nawabzaade」のダンスシーンが他の映画に比べて飛び抜けて優れていたかというと、決してそんなことはなかった。
脇役陣には、ヴィジャイ・ラーズやザーキル・フサインなど、ベテラン俳優が揃い、しっかりとした演技を見せていたが、主役には演技の難のある俳優が多かった。もっとも将来性があるのはラーガヴだが、それ以外のダルメーシュ、プニート、そしてヒロインのイシャー・リキーは大根役者といわざるを得なかった。
また、サリーム、アビシェーク、カランが恋をしたシータルは実は詐欺師だったということが分かるが、それで映画が終わってしまっていたのも中途半端に感じた。もう少し引っ張って、シータルに一泡吹かせるような場面を作ってもよかったのではなかろうか。
「Nawabzaade」は、コレオグラファーがダンサーたちのために作ったような映画だ。ダンサー出身の3人の男優が主演を務め、ダンスシーンのみに力が込められた作品になっている。それ以外の部分に期待してはならない。映画本編を観る必要はなく、ダンスシーンだけをYouTubeなどで楽しむだけで十分だ。