Project Papa

3.5
Project Papa

 2018年4月20日公開の「Project Papa」は、アルツハイマー症候群を発症しつつある父と娘の、心温まる絆の物語である。基本的に台詞は英語だが、一部、ヒンディー語が入る。ヒングリッシュ映画に分類していいだろう。

 監督は新人のカニカー・バトラー。彼女自身が主演のアリーサー役も務めている。さらに、彼女の実の父親であるラーケーシュ・バトラーがアリーサーの父親ラージーヴ役を演じている。つまり、身内で作ったような映画だ。どうも資金はクラウドファンディングで集めたようである。

 他には、スネーハー・カプール、ローハン・マロートラー、アナイター・ナーイル、そしてラジト・カプールなどが出演している。ラジト・カプールはヒンディー語映画でよく脇役として出演しているし、アナイター・ナーイルは「Chak De! India」(2007年)でデビューした、いわゆる「Chak De!ガールズ」の一人だが。ほとんど無名の俳優たちが出演しているといっていい。

 舞台はバンガロール。アリーサー(カニカー・バトラー)は多忙な写真家で、夫のイシャーン(ローハン・マロートラー)や父親のラージーヴ(ラーケーシュ・バトラー)ともゆっくり話す時間がないほどだった。イシャーンとの間には諍いが絶えず、ストレスの多い毎日を送っていた。

 アリーサーは、ラージーヴの行動に異変を感じ、彼がアルツハイマー症候群を発症しているのではないかと疑い出し、知り合いの医師デーヴ(ラジト・カプール)に相談する。そして親友のネーハー(スネーハー・カプール)と共に、ラージーヴのストレスを解消するために計画を立て、彼をチョーカリンガムのデトックスキャンプに誘うことにする。

 デトックスキャンプでアリーサーとラージーヴは久しぶりにゆっくり話し合う時間が取れる。また、父親と疎遠な関係にあったネーハーも、ラージーヴとアリーサーの父娘関係を見て感化され、父親に連絡を取る。そしてキャンプを去って行く。

 ところが、突然ラージーヴが行方不明になってしまい、アリーサーは必死に探し回る。ようやくラージーヴを見つけるが、彼は道に迷ってしまっていたようだった。アリーサーは父親に、アルツハイマー症候群を発症している可能性があるとはっきり伝える。

 ラージーヴとアリーサーはキャンプを後にし、家に戻る。実は、今回のことは、アリーサーのストレスを解消するためにラージーヴが計画したことだった。

 娘が父親を気遣っていた以上に父親が娘を気遣っていたというオチの、心温まるファミリードラマであった。アリーサーは父親がアルツハイマー症候群になりかけていると案じ、その回復のためには彼のストレスを解消する必要があると考える。父親のオフィスに置いてあった日記に、彼が人生においてしたくてできなかったことがリストアップされており、それをヒントに彼女は父親のストレス解消計画を立てる。

 ところが、アリーサー自身の方がストレスに満ちた生活を送っていた。仕事が忙しすぎて夫とゆっくり話し合う暇もなく、子供を作る時間すらなかった。夜もほとんど寝ておらず、目の周りには隈ができていた。そんなアリーサーの生活を心配したラージーヴは、彼女のストレス解消のための計画を立てる。

 つまり、娘が父親のストレス解消を計画するのと平行して父親が娘のストレス解消を計画するという構成になっていた。しかも、父親の方が一枚上手で、わざとアリーサーに気付かれるように日記を放置し、彼女の行動を促した。アリーサーは父親のために様々なプランを立てるが、実はそれを実行することで彼女の気が紛れていた。極めつけは、父娘一緒に参加したデトックスキャンプであった。表向きの目的はダイエットのためだったが、父も娘も精神的な負荷を取り除くことができ、有意義な時間を過ごすことができた。また、アリーサーはなかなか父親に、彼がアルツハイマー症候群になりつつあるかもしれないということを言い出せなかったが、このキャンプでの事件をきっかけに父親にそれをぶつけることもできた。

 飛行機が離陸する前、客室乗務員から酸素マスクについての説明を受ける。子供連れの乗客は、まず自分の酸素マスクを付けてから子供のマスクを付けるように促される。だが、人生においては、自分よりも先に子供に酸素マスクを付ける必要も出て来る。「Project Papa」で父親のラージーヴが行ったことも正にそれだった。

 映画の題名は、アリーサーの視点から、父親のストレス解消のための計画ということで「Project Papa」と名付けられているが、映画をラストまで観れば、実際にはそれは「Papa’s Project」であったことが分かる仕組みになっていた。

 出演していたのはほぼ無名の俳優たちばかりで、おそらく演技についても少しかじった程度の人が多かったのではないかと思うが、決して悪い印象はなく、自然な演技を引き出せていた。監督と主演を務めたカニカー・バトラーとその父親ラーケーシュ・バトラーが強い絆で結ばれ、並々ならぬ気合と共に創り出された作品であるからこそ、ここまでの完成度を達成したのであろう。

 「Project Papa」は、全くの新人が監督と主演を務め、しかも実の父親を父親役として起用するというユニークな映画だ。クラウドファンディングで集めた資金で撮影されており、今どきの映画という感じがする。出来は素人の域を遥かに超えており、ストーリーもよくまとまっている。地味ではあるし、インドらしさにも欠けるが、観て損はない映画だ。