Dil Juunglee

2.5
Dil Juunglee
「Dil Juunglee」

 ださくて鈍臭い女の子のことをヒンディー語では「ベヘンジー」と言う。本来この言葉は「お姉さん」という意味だが、いけていない女の子に対して使われたとき、嘲笑を含む言葉になる。2010年代に入り、女性キャラがメインの映画が作られるようになったことで、様々なタイプの女性キャラが模索されるようになった。その中で「ベヘンジー」タイプの女性主人公の映画も生まれるようになった。代表的なのはカンガナー・ラーナーウト主演の「Queen」(2014年)だ。

 2018年3月9日公開のヒンディー語映画「Dil Juunglee」も、主人公は「ベヘンジー」タイプの女性主人公の映画と言っていいだろう。監督はアレーヤー・セーン。主演はタープスィー・パンヌーとサーキブ・サリーム。他に、アビラーシュ・タープリヤール、ニディ・スィン、シュリシュティ・シュリーワースタヴァ、アーイシャー・カドゥースカル、サントーシュ・バルモーラー、クリシャン・タンダンなどが出演している。音楽監督はアビシェーク・アローラーである。

 題名の「Dil Juunglee」とは、「心はワイルド」みたいな意味である。「Juunglee=Jungle」とは「森林」という意味のヒンディー語「ジャンガル」から派生した語だ。劇中には主人公たちがジャングルの中を移動する場面が登場し、それと掛けられていると考えられる。ちなみに、英語の「jungle(森林)」はこのヒンディー語が元になっている。

 舞台はデリー。ムンバイーへ行って俳優になることを夢見る青年スミト(サーキブ・サリーム)は、ムンバイーへ行く前に英語の勉強をするために学校に通い始めた。そこで出会ったのが英語教師コーローリー(タープスィー・パンヌー)であった。コーローリーは著名な実業家ナーイル(クリシャン・タンダン)の娘だったが、文学が趣味の地味な女性であった。スミトは、ムンバイーへ行くために資金が必要で、コーローリーと結婚することでそれが手に入ると考え、彼女にプロポーズする。だが、コーローリーはマーングリクであり、スミトの母親はコーローリーとの結婚を認めなかった。そこでスミトとコーローリーは友人たちと共に逃げ出し、駆け落ち結婚をした。しかし、道中で事故に遭って森林の中を彷徨い、そこでスミトとコーローリーは仲違いして、結婚は破談となる。

 7年後。コーローリーは父親の事業を手伝っており、ロンドンにいた。そして、父親の友人の息子ジャイ・スィン・ラートール(サントーシュ・バルモーラー)と婚約していた。一方、スミトはムンバイーに渡って俳優になっていたが、まだ三文役者の域を出ていなかった。スミトは女優アーイシャー(ニディ・スィン)と付き合っていた。次の映画で、ロンドンでロケが行われることになり、スミトはロンドンへ渡る。そこでスミトとコーローリーは再会する。

 コーローリー、ジャイ・スィン、スミト、アーイシャーは4人で昼食をし、仲良くなる。コーローリーはブランドアンバサダーを探しており、売り出し中の俳優スミトを採用する。だが、スミトとコーローリーの中で昔の感情が戻りつつあった。それでもコーローリーはジャイ・スィンと結婚しようとするが、スミトは結婚式に乱入し、彼女にプロポーズする。コーローリーは拒否するものの、海に落ちた彼女をスミトが助けようとしたことで、コーローリーの気持ちも変わる。

 前半はタープスィー・パンヌーが珍しく地味な女の子役を演じていた。ただ、彼女演じたコーローリーは変わったキャラクターで、インド人の父親と英国人の母親を持っているだけでなく、大富豪の娘ながらあまりビジネスに興味がない文学少女であった。恋愛にも奥手であり、単に幸せな結婚を望む乙女であった。そんなコーローリーは英語教師をしており、教え子として出会ったスミトと恋に落ちるのである。

 スミトは俳優志望の野心的な青年であり、恋愛よりも将来の夢を優先するタイプの人間だった。コーローリーとは恋仲になるものの、すぐに結婚は考えていなかった。だが、ムンバイーで一旗揚げるためには資金が必要で、それを手っ取り早く手に入れるために、大富豪の娘であるコーローリーとの結婚を考えたのだった。だが、そんな中途半端な気持ちでの結婚だったため、コーローリーが川に落ちて溺れても、水が苦手な彼は助けようとしなかった。そういう態度がコーローリーを傷付け、結局彼女はスミトとの結婚を取り止めるのであった。

 後半は7年後に時間が飛び、舞台もガラリと変わる。ロンドンで再会したコーローリーとスミトであったが、コーローリーはかつてのコーローリーではなく、実業家の娘としてバリバリのキャリアウーマンになっていた。これにていつものタープスィー・パンヌーに戻る。一方のスミトも俳優になる夢は叶えていたが、まだ下積みの域を脱していなかった。コーローリーは同じく実業家ジャイ・スィン・ラートールと婚約しており、二人の結婚式にスミトが殴り込んで、インド映画によくあるパターンの終わり方になる。

 7年前のシーンでスミトとコーローリーの結婚の障害となったもののひとつにマーングリクがあった。マーングリクとは、占星術の専門用語であり、火星の影響が強い星の下に生まれた人のことを言う。特にマーングリクの女性と結婚すると男性は早死にすると言われており、マーングリクの女性の結婚相手を探すのには苦労する。だが、それでも二人は結婚に踏み切っており、マーングリクはこの映画の中心的な議題ではなかった。

 この映画で非常に弱いと感じたのは、7年後のシーンでコーローリーがなぜスミトのことをまだ想っていたかという理由付けがなされていなかったことである。コーローリーは、スミトが自分のことを心から愛していないと悟っており、それが主因となってスミトとの結婚を止めた。最悪の形での結婚破棄であり、コーローリーにとってスミトは黒歴史以外に他ならなかっただろう。だが、ロンドンで再会すると、スミトと親しげに会話をし、挙げ句の果てにはジャイ・スィンとの結婚を蹴って、彼との結婚を決めてしまう。スミトとジャイ・スィンでは圧倒的にジャイ・スィンの方が結婚相手として適任であり、しかもスミトとは悪い思い出がある。コーローリーがなぜスミトを選んだのか、観客はあまり納得できないだろう。

 俳優の中ではやはりタープスィー・パンヌーの演技が光っていた。前半の抑え気味の演技と、後半のキャリアウーマンの演技でメリハリが出ていたが、やはり彼女に合っているのは後半のタイプの、自信に満ちた女性役だ。サーキブ・サリームは、筋肉はよく鍛えているが、小柄で童顔のため、前半の学生役でははまっていたものの、後半はゴージャスなタープスィーと釣り合っていなかった。

 「Dil Juunglee」は、タープスィー・パンヌーが前半と後半でガラリと雰囲気を変えるロマンス映画だ。サーキブ・サリーム演じるスミトが自分勝手なキャラで、あまり感情移入できず、ストーリーへの没入感は少ない。後半はよくあるロマンス映画になってしまっていた。タープスィーの演技のみが光っている。