2018年1月19日公開の「Vodka Diaries」は、米作家デニス・スヘイン著「Shutter Island」(2003年)の非公式映画化とされる作品である。同小説は米国にてマーティン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオ主演「シャッターアイランド」(2010年)として映画化されたことがある。
監督は新人のクシャール・シュリーヴァースタヴァ。主演はケー・ケー・メーナン。他に、マンディラー・ベーディー、ラーイマー・セーン、シャーリブ・ハーシュミーなどが出演している。
舞台はヒマーチャル・プラデーシュ州マナーリー。アシュウィニー・ディークシト警部(ケー・ケー・メーナン)は部下のアンキト・ダヤール警部補(シャーリブ・ハーシュミー)と共に殺人事件の捜査に当たっていた。アシュウィニー警部の妻は文学者で、シカー(マンディラー・ベーディー)という名前だった。 アシュウィニー警部は捜査線上に上がった「ウォッカ・ダイアリーズ」というクラブを訪れた。そこでさらなる殺人事件に遭遇する。また、シカーまでも行方不明になる。また、アシュウィニー警部は何度もシカーが死ぬ光景を悪夢の中で見ていた。 シカーを探している内にアシュウィニー警部は殺人事件で死んだはずの人々が生き返っていることに気付く。それと同時に、彼を知っているはずの人が彼と初対面のような態度を取り始める。アンキト警部までもが彼を他人扱いした。混乱したアシュウィニー警部は通報され、警察に逮捕されてしまう。逃亡したアシュウィニー警部は、謎の女性ローシュニー・バナルジー(ラーイマー・セーン)に導かれながら、自宅に辿り着く。そこには、妻が見知らぬ男と映っている写真があった。 彼が目を覚ますと、そこは見知らぬ小部屋の中だった。ローシュニーやアンキトが現れ、彼に真実を話す。実はアシュウィニーの本名はリシ・ガウタムであった。売れっ子ミステリー作家で、新作「Redemption of the Murder」のブックローンチをしたが、そのパーティーで彼は誤って妻のシカーを殺してしまう。そのトラウマにより、彼は「Redemption of the Murder」の中のキャラ、アシュウィニー警部に自らを同化してしまったのだった。精神科医のローシュニーは彼を治療するため、その本の中に出て来るストーリーをなぞりながら、彼に自分がアシュウィニー警部ではないということを気付かせるプログラムを実行したのだった。 1年後。ローシュニーは一人で暮らすリシを訪ねる。リシは「Vodka Diaries」という新作を書き上げていた。ローシュニーは彼の病状が快方に向かっていると安心するが、実は未だに彼はシカーの幻影を見ていたのだった。
途中までは何が起こっているか分からない映画である。殺人事件から物語は幕を開け、次から次へと死体が見つかり、連続殺人事件モノのサスペンス映画かと思わせられる。だが、途中から不可解な出来事が起こり始める。まるで時間が巻き戻ったかのように、死んだはずの人が生き返り、彼を知っているはずの人が彼を見知らぬ人扱いするようになったのだった。
不条理映画かと思ったが、最後の最後でようやく種明かしされる。主人公のリシは、妻を誤って殺してしまったことで激しいショックを受け、そのトラウマが原因で、「Intensive Obsessive Identification Disorder」という強迫性障害の一種になり、自分が書いた小説の主人公になりきってしまったのである。映画の冒頭から彼が演じているアシュウィニー警部は、現実世界には存在しない。
だが、精神科医のローシュニーは、彼のその精神病を治療するため、彼の妄想に合わせて演技をし、彼の書いた小説の筋書き通りの事件を彼の目の前で展開して見せた。徐々に彼の妄想を剥がしていき、最後に彼は本当の自分自身と対面することになる。
最後のどんでん返しは爽快であったが、よくよく考えてみるとおかしなところも散見される。自身のことをアシュウィニー警部だと思っているリシの前でいくつもの殺人事件を演出したのだが、死体は生身の人間がなりすましていたはずである。氷の中に埋もれていた人もいた。それが全て演技ということになっていたが、そんなにうまく死体の振りができるか大いに疑問である。逆さに吊り下げられていた人もいたが、下手すると死んでしまう。
主演ケー・ケー・メーナンは素晴らしい演技を見せていた。ラーイマー・セーンとマンディラー・ベーディーも良かったし、シャーリブ・ハーシュミーもいい味を出していた。
「Vodka Diaries」はサスペンス映画の一種だが、中盤で時間がねじれを起こしたような不思議な展開がある上に、ラストでそれをうまくまとめ上げており、よくできた脚本だった。それに加えて主演ケー・ケー・メーナンやミステリアスなラーイマー・セーンなどの好演もあり、満足感の高い映画になっている。ほとんど話題にならなかった映画のようだが、隠れた佳作である。