Sniff!!!

4.0
Sniff!!!

 アモール・グプテー監督は子供を使った映画を作るのが得意な映画監督だ。お弁当を題材にした「Stanley Ka Dabba」(2011年/邦題:スタンリーのお弁当箱)は日本でも公開されたし、「Hawaa Hawaai」(2014年)もインラインスケートを題材にしたいい映画だった。2017年8月25日公開の「Sniff!」も、アモール・グプテー監督による子供が主人公の映画で、基本的には子供を対象にした映画になるが、大人が観ても十分に楽しめる作品に仕上がっている。題名の「Sniff!!!」とは「匂いを嗅ぐ」という意味の英単語で、その題名の通り、嗅覚に特化した、グプテー監督らしいユニークな映画である。

 キャストは、クシュミート・ギル(子役)、モニカ・セーガル、スレーカー・スィークリー、スレーシュ・メーナン、スシュミター・ムカルジー、ラージェーシュ・プリー、ラチト・トレーハーン、マンミート・スィン、アンクル・ヴィカル、プトゥル・グハーなど。アモール・グプテー監督自身が特別出演している他、ディヴィヤー・ダッターが写真のみの出演をしている。

 舞台はムンバイー。代々アチャール(漬物)を作って来た家系に生まれた8歳の少年サニー・ギル(クシュミート・ギル)は、生まれつき嗅覚が麻痺していた。アチャール作りに嗅覚は欠かせず、父親のダラムパール・スィン・ギル(マンミート・スィン)や祖母のベーベー(スレーカー・スィークリー)は何とかしてサニーの鼻を治そうとしてきたが、成功したものはなかった。

 あるとき、サニーは理科室で薬品を誤って混ぜてしまい、生じた気体を吸い込んでしまう。それがきっかけでサニーの嗅覚が戻る。そればかりか、2km先の匂いまで嗅ぐことができる強力な嗅覚を身に付けた。その嗅覚を有効活用してサニーは近所で起こる事件を解決するようになる。

 折しもムンバイーでは自動車盗難が相次いでいた。サニーの住む住宅地でもクマール(ラージェーシュ・プリー)の自動車が盗まれる。大人たちは早速緊急集会を開き議論するが、なかなか解決策を見出せない。子供たちは家々を巡って廃品を集め、それらを使って足跡の監視カメラシステムを作り上げる。

 一方、サニーは得意の鼻を使い、クマールの自動車が駐車してあった場所に残っていた匂いから、姉ボビー(モニカ・セーガル)の恋人リッキー(ラチト・トレーハーン)が犯人ではないかと考える。ムンバイー中の盗難車が集まる市場でリッキーの姿を見掛け、疑いは確信に変わる。サニーの活躍により、自動車泥棒(アンクル・ヴィカル)は逮捕され、サニーは一躍英雄になるが、クマールの自動車は戻って来ず、サニーはまだ事件は完全に解決していないと考えていた。クマールの自動車を盗難した泥棒は別人であった。

 ある晩、サニーは異変を感じ目を覚ます。そして監視カメラシステムをチェックすると、近所に住むソパン・ムカルジー(プトゥル・グハー)が自動車を盗もうとしているのを発見する。サニーはソパンを止め、事情を聞く。ソパンの妻パシュヴァティー・ムカルジーは警官をしており、ソパンは主夫をしていた。クマールなど近所の人々はソパンが妻の収入に頼って生活しているのをからかっていた。ソパンはそれに復讐するために自動車を盗んでいたのだった。事情を聞いたサニーはこのことを秘密にすると約束し、クマールの自動車をこっそり戻す。

 映画は基本的に映像と音を介して観客の視覚と聴覚に訴え心を操る媒体であり、それ以外の感覚器官への刺激は間接的になる。「Sniff!!!」はそれを逆手に取って、極限まで嗅覚を強調した作りになっている。

 主人公サニーの嗅覚に焦点を合わせるため、まずはサニーが生まれつきの嗅覚麻痺を患っているという設定になっている。しかも、アチャール屋を家業とする家に生まれたため、嗅覚は視覚以上に重要な感覚器官であり、家族の失望は輪を掛けて大きかった。サニーは、鼻が利かないために学校の友達からからかわれることもあったが、親切な友人からひとつひとつの事物の匂いについて言葉で説明を受けたりして、一生懸命匂いについて理解しようと努めていた。

 それが、ひょんなことから、サニーは強力な嗅覚を持つスーパー少年に変貌する。

 インド映画では、このような奇跡が起きるとき、神様や信仰に頼ることが多いが、「Sniff!!!」では、化学薬品の偶然の調合という、一応科学的な理由を付けて、サニーの嗅覚の回復と強化を実現していた。

 超人的な嗅覚を身に付けたことで、サニーは「名探偵コナン」のように、嗅覚を使って日常の細々とした事件を解決するようになる。子供視点で描かれるこれらのちょっとした探偵劇が続く中盤は、子供の扱いに長けたアモール・グプテー監督らしい演出であった。

 最終的にサニーは、ムンバイーで暗躍していた自動車泥棒の逮捕に貢献した上に、近所の自動車を盗んでいた犯人の特定にも成功する。

 だが、ここからが面白いところだ。犯人は、警察官を妻に持つソパンだったのだが、事情を聞いたサニーはソパンを泥棒として皆の前に突き出すのを止める。ソパンは主夫だったために近所の大人たちからからかわれていた。その悔しさが今回の犯行の動機になっていた。また、盗んだ自動車は無事だった。人と異なることで周囲からからかわれるのは、かつてのサニーも経験していたことだ。サニーは、ソパンを罪人として断罪するよりも穏便に解決する道を選ぶ。

 この辺りは賛否が分かれるところかもしれない。犯罪は犯罪なので断罪されなければならないという意見もあるだろうが、あくまで子供向け映画なので、そこまで厳格な裁定は避け、後味を優先したのだと思われる。おそらくこの映画を観た子供たちも、こういう結末の方を好むと思われる。

 やはり子供の自然な演技を引き出せているのが素晴らしく、アモール・グプテー監督がこれまで作ってきた映画の延長線上にある作品だと評価できる。グプテー監督は、アーミル・カーン監督主演作として世に知られている「Taare Zameen Par」(2007年)でも、脚本家に加えて「クリエイティブディレクター」という肩書きで参画している。ただ、実際には大部分をグプテー監督が撮ったのではないかということは前々から噂されていたことだ。「Stanley Ka Dabba」やこの「Sniff!!!」を観る限り、「Taare Zameen Par」との類似点が多く、やはり「Taare Zameen Par」はアーミル・カーンの監督作というよりはアモール・グプテーの監督作だったのではないかと強く感じる。エンドロール曲「Amole Ki Naak」では、「Taare Zameen Par」でアーミル・カーンがしていたようなピエロの格好をアモール・グプテー監督がして自分で歌も歌っている。これもアーミル・カーンへの当てこすりに見えてならない。

 「Sniff!!!」は、映画という媒体がなかなか観客に届けることができない「匂い」を、映像や音声、そしてストーリーを使って、極限まで再現した意欲作である。料理の匂いからトイレの臭いまで、嗅覚を集中的に刺激する映像が続く。アモール・グプテー監督が得意とする、子供が主人公の子供向け映画でもある。「Stanley Ka Dabba」などと比べても遜色のない名作に数えることができる。