A Gentleman

4.0

 現在、ヒンディー語映画界で非常にオリジナリティーのある作品を作り続けている監督が、ラージ・ニディモール&クリシュナDKのコンビである。ヒンディー語映画界にホラー・コメディー映画というジャンルを確立した「Go Goa Gone」(2013年/邦題:インド・オブ・ザ・デッド)の監督として日本でも多少知られるようになった。彼らの映画なら無条件で観たいと思わせる、そんな存在である。

 2017年8月25日公開のヒンディー語映画「A Gentleman」は、彼ららしい捻りのあるアクション・スリラー映画である。主演はスィッダーント・グプターとジャクリーン・フェルナンデス。他に、スニール・シェッティー、ダルシャン・クマール、フサイン・ダラール、ラジト・カプール、スプリヤー・ピルガーオンカル、アミト・ミストリーなどが出演している。

 舞台は米国マイアミ。ガウラヴ(スィッダールト・マロートラー)は実直なインド人青年で、つい家を購入したばかりだった。会社の同僚カーヴィヤー(ジャクリーン・フェルナンデス)にプロポーズをしようとしていたが、気が弱かったため、なかなかできずにいた。ディークシト(フサイン・ダラール)は彼の親友であった。

 ところが、ガウラヴには秘密の過去があった。彼は元々、国家安全保障会議(NSC)傘下の諜報機関ユニットXに所属の諜報員リシ(スィッダールト・マロートラー)であった。だが、ユニットXの司令官、大佐(スニール・シェッティー)のやり方に付いて行けず、強引に引退した。大佐は彼を殺そうとしたが逃亡に成功し、別人のガウラヴになりすましてマイアミまでやって来たのだった。彼は普通の人生に憧れており、マイアミでガウラヴとして新しい人生を始めたのが5年前だった。

 ガウラヴは、会社の上司の命令でインドに出張するが、そこで大佐に見つかってしまい、マイアミに住んでいることを突き止められる。ガウラヴは、大佐の忠実な部下ヤクーブ(ダルシャン・クマール)に捕まるが、マイアミにある武器製造企業から大佐が求めるデータを盗み出す作戦を共同で行うことになる。ガウラヴはデータ入手に成功するが、ヤクーブは彼を殺そうとする。だが、カーヴィヤーと共に撃退し、家を大佐もろとも爆破して、再び逃亡の旅に出る。

 この映画の一番の肝は、ガウラヴとリシの関係性である。序盤では、マイアミで堅気の生活を送るガウラヴと、バンコクやムンバイーで諜報員として危険な毎日を送るリシが交互に映し出される。どちらもスィッダールト・マロートラーが演じている。観客は、性格は真逆だが瓜二つの主人公が何かのきっかけで出会って入れ替わるようなパターンの映画かと思い込む。つまり、スィッダールト・マロートラーは今回はダブルロールに挑戦していると早とちりしてしまうのである。ラージ・ニディモール&クリシュナDK監督にしては陳腐な筋書きの映画だと思う観客もいることだろう。

 ところが、インターミッション前に意外な事実が明らかにされる。なんと、ガウラヴのシーンとリシのシーンは時間軸が5年ずれており、リシはガウラヴの5年前の姿だったのである。諜報員だったリシは、普通の生活に憧れて引退するが、命を狙われるようになったため、ガウラヴという新しいアイデンティティーを得て、ムンバイーからマイアミに移り住んだのだった。このトリックに引っかからない観客はほとんどいないのではないかと思われる。この瞬間がこの「A Gentleman」のハイライトだ。

 ガウラヴ=リシであることが発覚してからは、ほぼ通常のアクション・スリラー映画となる。建物と建物の間に自動車が挟まって宙ぶらりんになるシーンなど、ユニークなシーンも用意されていたが、やはりアクションになると、全く意表を突かれるようなシーンは創出しにくい。ガウラヴは、かつて共に戦っていた諜報員ヤクーブと上司の大佐を片付け、恋人のカーヴィヤーと共に旅立って行く。ほとんど捻りのない、スムーズな展開だ。

 主演のスィッダールト・マロートラーとジャクリーン・フェルナンデスはどちらも新世代のスター俳優であり、スクリーン上の相性も良かった。この二人は付き合っているとの噂もある。特にスィッダールトは、アクションシーンからゲイの振りをするシーンまで幅広い演技をする機会に恵まれており、俳優としての成長を印象づけていた。

 「A Gentleman」は、ユニークな映画作りをするラージ・ニディモール&クリシュナDK監督のアクション・スリラー映画である。主演スィッダールト・マロートラーとジャクリーン・フェルナンデスの相性も良く、あっと驚く展開もあって、爽快感のある作品だ。興行的には失敗に終わったようだが、作品自体は十分オススメできるレベルに達している。