Loev

3.0

 英領時代に制定されたインド刑法(IPC)は第377条で同性愛を、最高刑が終身刑の重い罪と規定している。1947年にインドは独立したが、IPCはそのまま残ったため、同性愛も禁止され続けた。インドの同性愛者は、潜在的な犯罪者として肩身の狭い生活を送らざるを得なかった。最高裁判所によってIPC第377条が違憲とされ、同性愛が合法化されたのは2018年のことであった。

 2018年以前、同性愛は違法だったものの、インド映画では同性愛が描写されることが度々あった。2015年のタリン・ブラックナイト映画祭で上映され、2017年5月1日からNetflixで配信開始されたヒングリッシュ映画「Loev」は、男性同士の恋愛を描いたLGBTQ映画である。

 監督は新人のスダーンシュ・サリヤー。キャストは、ドゥルヴ・ガネーシュ、シヴ・パンディト、スィッダールト・メーナン、リシャブ・J・チャッダーである。

 舞台はムンバイー。サーヒル(ドゥルヴ・ガネーシュ)はパートナーのアレックス(スィッダールト・メーナン)と一緒に住んでいたが、彼の無責任な行動に困っていた。サーヒルの友人で、米国に渡りビジネスマンとして成功したジャイ(シヴ・パンディト)がムンバイーに出張で来ることになっており、サーヒルは空港まで彼を迎えに行く。

 サーヒルとジャイはそのまま避暑地マハーバレーシュワルへ行き、一晩過ごす。サーヒルは、せっかくマハーバレーシュワルに来ても仕事をしてばかりいるジャイに呆れる。夜、ジャイはサーヒルを抱きしめるが、サーヒルは突き放す。翌日、二人はトレッキングに出掛け、景勝地でキスをする。

 二人はムンバイーに戻った。ジャイは商談に臨むが、サーヒルの邪魔もあって契約に至らず終わる。ジャイはサーヒルを責めるが、同時に彼に迫り、レイプする。その後、サーヒルとジャイは、アレックスとジュニア(リシャブ・J・チャッダー)と夕食をするが、サーヒルとアレックスの間で火花が散り、穏やかな会食とはならなかった。

 サーヒルは空港までジャイを送る。そこでジャイはサーヒルにレイプを謝り、別れを切り出す。サーヒルは、アレックスの自動車に乗って空港を去る。

 「Loev」には4人の男性が登場する。4人ともゲイである。それ以外の登場人物はいないといってよく、当然のことながら女性もいない。徹底的に4人の男性の人間関係に焦点を当てた作品になっていた。

 では、果たして男性同士の恋愛は男女の恋愛と異なるのか。「Loev」は、派手な脚色をせず、淡々とサーヒル、アレックス、ジャイ、そしてジュニアの関係を追い続ける。その中で、男女の恋愛とあまり変わらない部分もあれば、男性同士の人間関係ならではの部分も見受けられる。

 男女の恋愛と変わらないと感じた部分は、特にサーヒルとジャイの関係である。この2人は幼馴染みで、以前から恋愛関係にあったと思われる。だが、ジャイは米国に渡り、離れ離れになってしまっていた。ジャイは米国でビジネスマンとして成功し、ムンバイーに出張のために戻って来る。それをいい機会にしてサーヒルとジャイは再会した。だが、離れていた時間が長かったため、二人の間にはぎこちない空気も流れる。ジャイが、インド訪問の主目的である仕事の方に意識が行っていたこともあった。だが、一緒に過ごす内にわだかまりが消えて行く。この辺りは男女の恋愛とあまり変わらない感情の機微が感じられた。

 一方、男性同士の人間関係特有だと感じたのは、あまりパートナーを独占していないことである。サーヒルとアレックスは同棲状態にあったが、サーヒルの幼馴染みであるジャイが久々にムンバイーを訪れることになると、アレックスは快くサーヒルをジャイの元に行かせる。その代わり、アレックスもジュニアという新しいパートナーを作り、サーヒルに紹介する。複数のパートナーを持つことをお互いに認め合っているような感じで、男女の恋愛ではあまり見られない人間関係であった。

 同性愛が主題の映画では、カミングアウトが重視される傾向にある。登場する4人の男性の内、誰がカミングアウト済みなのかは不明だったが、少なくともジャイは家族にまだカミングアウトをしていない様子だった。ましてや仕事相手にはゲイであることを隠していた。サーヒルは、そんなジャイの臆病な態度を見透かしており、わざと商談中に乱入し、ジャイの性的指向をばらすような行動を取ったのだった。

 前半は絡みのシーンがほとんどなかったため、そういう上品な映画かと思っていたが、後半にはジャイがサーヒルをレイプするシーンや、男性同士のキスシーンもあり、やはり一定以上の性描写がある映画になっていた。男女の間でレイプは大事件だが、レイプされたサーヒルがあまり気にしていなかったところも男性同士ならではと言えるだろうか。

 監督自身がゲイなのか、もしくは、ゲイの心理をどれだけ研究して書き上げられた脚本なのかは分からないが、同性愛を変にセンセーショナルに取り上げていない分、ゲイのリアルな心情描写がなされているように感じられた。低予算映画ではあるが、インド製LGBTQ映画としては重要な作品として評価できる。

 ちなみに、題名の「Loev」は、英語の「Love」のスペリングをわざと誤って書いている。「恋愛ではあるが恋愛ではない」というニュアンスを出したかったのであろうか。

 サーヒルを演じたドゥルヴ・ガネーシュは、映画公開前に若くして結核で亡くなっている。ジャイを演じたシヴ・パンディトは、「Shaitan」(2011年)などに出演していた男優で、今回はゲイというかなり難しい役に挑んでいた。

 「Loev」は、ゲイ同士の恋愛を主題にしたLGBTQ映画である。男女の恋愛と似ている部分もあれば全く異なっている部分もあり、ゲイ同士はこういう人間関係を構築するものなのかと新鮮な驚きがあった。低予算映画で、スターの出演はないが、エンドクレジットにおいてシャールク・カーンとガウリー・カーンに謝辞が述べられていた。インド製LGBTQ映画としては重要な作品と評価できる。