Anaarkali of Aarah

3.5
Anaarkali of Aarah
「Anaarkali of Aarah」

 スワラー・バースカルは「Raanjhanaa」(2013年)のビンディヤーや「Prem Ratan Dhan Payo」(2015年/邦題:プレーム兄貴、王になる)のチャンドリカーなど、個性的な脇役女優として知られている。だが、「Nil Battey Sannata」(2016年)では主演を務めており、主演も張れる女優として頭角を現しつつある。

 2017年3月24日公開の「Anaarkali of Aarah」も、スワラー・バースカル主演の映画である。監督は新人のアヴィナーシュ・ダース。スワラーの他には、サンジャイ・ミシュラーとパンカジ・トリパーティーという、これまた個性派俳優が出演している。さらに、イシュティヤーク・カーン、ヴィジャイ・クマール、マユール・モーレーなどが出演している。

 舞台はビハール州の地方都市アーラー。アナールカリー(スワラー・バースカル)は地元では有名なフォークシンガー&ダンサーであった。同じくフォークシンガーのランギーラー(パンカジ・トリパーティー)と共に楽団の花形としてパフォーマンスをしていた。

 ダシャハラーの日、警察主催の会でアナールカリーが踊りを踊った。主賓として出席していた地元大学の学長ダルメーンドラ・チャウハーン(サンジャイ・ミシュラー)は、酔っ払って舞台の上に上がり、公衆の面前でアナールカリーにセクハラをした。怒ったアナールカリーはチャウハーン学長を平手打ちする。チャウハーン学長と親しいブルブル・パーンデーイ警部補(ヴィジャイ・クマール)はビデオカメラや携帯電話などを差し押さえ、事件をもみ消そうとする。チャウハーン学長はアナールカリーを呼んで謝罪させようとするが、彼女の怒りは収まっていなかった。アナールカリーは逮捕され、投獄される。ランギーラーの機転で釈放されるが、このままでは命が危ないと感じたアナールカリーは、楽団の新人アンワル(マユール・モーレー)と共にデリーに逃げる。

 デリーでは、アーラー出身のヒーラーマン・ティワーリー(イシュティヤーク・カーン)と出会い、助けられる。ヒーラーマンの紹介で歌を録音し、CDをリリースする。そのCDはビハール州で人気となるが、ブルブル警部補やチャウハーン学長の目に留まってしまう。アナールカリーには、アンワル誘拐の容疑が掛けられていたため、ビハール州警察がデリーまでやって来てアナールカリーを逮捕しようとする。アナールカリーは自首することにし、アーラーに戻る。

 アナールカリーはチャウハーン学長に謝罪し、彼のために会で踊る上に、何でもすることを提案する。下心満載のチャウハーン学長はそれを受け入れ、大学で文化プログラムを開催する。そこでアナールカリーは、ヒーラーマンから手に入れた、ダシャハラーのときのビデオを流し、チャウハーン学長に復讐する。

 米国発の「#Me Too」運動が始まったのは2017年10月で、それがインドに飛び火したのは2018年であった。それよりも前に製作され、公開された「Anaarkali of Aarah」は、驚くほど「#Me Too」運動を先取りした内容となっている。公衆の面前で地元の名士にセクハラされた主人公アナールカリーは、「間違っていることは間違っている」として、脅しに屈さずに我を突き通す。一旦はデリーに逃れるが、いつまでも逃亡生活は続けられないと悟り、自ら地元アーラーに戻って、堂々とセクハラ相手と向き合う。正に強い女性を体現した2010年代のヒンディー語映画にふさわしい女性中心映画であった。

 舞台となったアーラーは、ビハール州ボージプル県の中心都市である。題名では「Aarah」と綴られているが、「Arrah」の方が一般的だ。ボージプル県といえば、ヒンディー語の一方言であるボージプリー語である。ビハール州西部からウッタル・プラデーシュ州東部までを含む地域で話されている方言で、映画産業が盛んなことで知られる。21世紀に入り、ヒンディー語映画が都会向けに洗練されて行く一方で、田舎の庶民はビハール州ボージプリー語映画に流れた。「Anaarkali of Aarah」の主人公アナールカリーは、ボージプリー語の卑猥な歌を歌うフォークシンガー兼ダンサーであった。

 映画の中では、卑猥な歌曲に対する反対運動に少しだけ触れられていたのだが、それはメインテーマではなかった。アナールカリーが公衆の面前で受けたセクハラを中心に物語が展開する。どうもこれは実話だったようで、2011年にフォークシンガーのデーヴィーが、チャープラーのジャイ・プラカーシュ・ナーラーヤン大学の学長から公衆の面前でセクハラを受け、それに対して敢然と抗議した出来事を基にしている。

 アナールカリーは気丈な女性であったが、州首相や警察にコネを持つ学長の圧力に立ち向かえるほどの力はなかった。命の危険を感じたため、一旦はデリーに逃れ、そこでCDをリリースして成功の味を知る。だが、皮肉なことに、有名になればなるほど過去から逃れられなくなった。アナールカリーはセクハラ学長と対峙する決意をし、自首をしてアーラーに戻る。

 どういう復讐をするのかドキドキして観ていたが、名誉を気にする学長に対し、その名誉を公衆の面前でどん底に落とすプランを実行に移すことになった。しかもその場には警察高官も同席しており、学長が猥褻罪で立件される可能性が示されていた。

 「Anaarkali of Aarah」は低予算映画ではあるが、主演スワラー・バースカルが迫真の演技をしていたため、非常にグリップ力のある作品になっていた。彼女が演じたアナールカリーはフォークシンガーであり、歌を歌うシーンも多かったが、歌声はもちろん吹き替えである。だが、フォークダンサーとして踊る踊りは彼女自身が踊らざるを得ない。スワラーは特別踊りのうまい女優という印象はなかったのだが、この映画を観てそれが変わった。ボージプリー語シンガー&ダンサーとしての土臭い踊りをよく再現しており、他の踊りのうまい女優たちと比べても遜色ないダンススキルを披露していた。「Anaarkali of Aarah」は間違いなくスワラーの映画である。

 ただ、あまりに卑猥な歌詞や台詞が盛り込まれていたのか、音声がカットされている部分が異様に多かった。中盤、アナールカリーが入浴中に警察に連行されるシーンでも大幅なカットがあった。真に迫るような台詞や映像に挑戦したようだが、検閲によって無残に継ぎはぎだらけにされてしまったようだ。

 「Anaarkali of Aarah」は、個性的な脇役女優として知られるスワラー・バースカル主演の、実際にあったセクハラ事件を基に作られた映画だ。クスッと笑ってしまうような軽快なシーンもあるのだが、全般的には少し重めの雰囲気の作品である。だが、スワラーの演技が素晴らしく、思わず引き込まれる映画に仕上がっている。