Coffee with D

2.5
Coffee with D
「Coffee with D」

 2017年1月20日公開の「Coffee with D」は、かつて「ボンベイ」と呼ばれていた頃のムンバイーのアンダーワールドを支配し、1993年のボンベイ連続爆破テロの首謀者とされるダーウード・イブラーヒームに野心的なジャーナリストがインタビューをするという内容の映画である。題名は、ヒンディー語映画界の大御所カラン・ジョーハルがホストを務める人気TV番組「Koffee with Karan」(2004年~)のもじりである。

 監督はヴィシャール・ミシュラー。過去に数本の短編映画を撮っているが、長編映画の監督は今回が初である。主演はスニール・グローヴァー。TV界で人気を博したコメディアンで、映画にも出演してきた。他に、ザーキル・フサイン、ディーパーンニター・シャルマー、アンジャナー・スカーニー、ラージェーシュ・シャルマー、パンカジ・トリパーティーなどが出演している。

 映画の中ではマフィアのドンは「D」としか呼ばれないが、ダーウード・イブラーヒームの愛称も「D」であり、その独特のヴィジアルからも、明らかに彼のことを指していると断定して間違いない。

 ニュース番組「ニュース・ブレイク」でキャスターを務めるアルナブ・ゴーシュ(スニール・グローヴァー)は、ロイ編集長(ラージェーシュ・シャルマー)から料理番組への左遷を言い渡される。「ニュース・ブレイク」の視聴率は低迷しており、ロイ編集長は会長から2ヶ月以内に視聴率回復を厳命されていた。アルナブには妊娠4ヶ月目の妻パールル(アンジャナー・スカーニー)がいたが、彼女からマフィアのドン、D(ザーキル・フサイン)にインタビューすることを提案される。今まで誰もDにはインタビューをしたことがなかった。アルナブはロイ編集長にそれを提案し、後のないロイ編集長もその案にすがりついた。

 アルナブはまず、Dの尊厳を貶めるようなニュースをでっち上げ報道する。Dの右腕ギルダーリー(パンカジ・トリパーティー)はアルナブに電話をし脅迫するが、アルナブはDにインタビューしたいと申し出る。Dはアルナブをカラーチーまで呼び寄せる。アルナブは、ライターのネーハー(ディーパーンニター・シャルマー)など仲間を連れてカラーチーに乗り込む。

 Dに会ったアルナブは様々な質問をぶつける。最後にアルナブはDに面と向かって臆病者だと言い放つ。それを聞いたDは心臓発作を起こして死んでしまう。ギルダーリーはアルナブたちをインドに帰す。インタビューの様子はインドで生放送され、アルナブは一夜にしてスターになる。

 ところがその後、アルナブはDから電話を受け取る。実は心臓発作は偽装だった。Dは生放送中に自分の死を演出し、自由の身になったのだった。だが、今や人々の心からDへの恐怖は消え、Dは前のように恐怖でもって商売をすることができなくなってしまっていた。

 ダーウード・イブラーヒームは密輸から違法賭博まで様々な違法行為に手を染めていたが、映画好きでも知られ、ヒンディー語映画界にも影響力を行使していたとされる。それ故にダーウードはよくヒンディー語映画の題材になる。この「Coffee with D」もその一本だが、コメディータッチで彼を登場させおちょくっているのは恐れ知らずなことだ。

 主人公アルナブはダーウードに様々な質問をぶつけるが、その中にはダーウードの関与が疑われる事件に関する質問も含まれている。その筆頭は1993年のボンベイ連続爆破テロ事件だが、他にも2011年のウサーマ・ビン・ラーディン暗殺事件や2014年のマレーシア航空370便墜落事故が含まれており興味を引かれた。さらに、クリケット賭博や映画製作にも話題が及んだ。答えをはぐらかしている質問が多かったものの、意外に真面目に答えていた印象である。

 かつて「Tere Bin Laden」(2010年)というウサーマ・ビン・ラーディンを題材にしたコメディー映画があったが、作りようによってはあれと同じ雰囲気の優れた風刺映画になっていた可能性がある。だが、いかんせん、ヴィシャール・ミシュラー監督の実力が不足しており、B級映画の域を出ない出来で終わってしまっている。

 それでも映画が何とか成立していたのは、俳優たちの演技があったからだ。主演スニール・グローヴァーについては可もなく不可もなくといったところだが、Dの「CEO」ギルダーリーを演じた曲者俳優パンカジ・トリパーティーの演技が絶妙で、ザーキル・フサイン演じるDとの相性が抜群だった。

 とはいっても女優陣は弱かった。ディーパーンニター・シャルマーはかなり際どい誘惑シーンを演じていたもののインパクト不足だし、アルナブの妻パールル役を演じたアンジャナー・スカーニーもキャラ作りが足りなかった。

 ちなみにダーウード・イブラーヒームは現在カラーチーに潜伏しているとされる。ヒンディー語映画にダーウードが登場するときは必ずカラーチーが舞台になる。「Coffee with D」でもDはカラーチーにいることになっていた。

 「Coffee with D」は、TVキャスターがダーウード・イブラーヒームにインタビューするという突拍子もないストーリーのコメディー映画だ。着想は良かったが、その具体化において実力不足が露呈し、B級映画感がぬぐえない作品になっていた。それでもパンカジ・トリパーティーなどの演技には見るべきものがある。


Coffee With D Full Movie (HD) | Sunil Grover | Pankaj Tripathi | Zakir Hussain | Comedy Hindi Movie