Wah Taj!

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Wah Taj!

 2016年9月23日公開の「Wah Taj!(ワァ、タージ!)」は、インドが誇る世界遺産タージマハルを巡る社会派コメディー映画である。マハーラーシュトラ州から来た農民がタージマハルの土地は自分のものだと主張し始めたことで騒動が始まるという荒唐無稽な筋書きである。

 監督はアジト・スィナー。「Baazigar」(1993年)や「Mann」(1999年)で助監督や編集を務めていた人物であり、長編映画の監督は初である。キャストは、シュレーヤス・タルパデー、マンジャリー・ファドニス、ヘーマント・パーンデーイ、ラージェーシュ・シャルマー、ラージーヴ・ヴァルマー、ユースフ・フサイン、ゴーヴィンド・パーンデーイ、ヴィシュワジート・プラダーンなど。

 ある日、ウッタル・プラデーシュ州アーグラーの有名な観光地タージマハルに、マハーラーシュトラ州からトラクターに乗って農民一家がやって来る。トゥカーラーム・ラーオサーヘブ・マラーテー(シュレーヤス・タルパデー)と、妻スナンダー(マンジャリー・ファドニス)、そして7歳の娘ラクシュミーである。彼らは、タージマハルが建っている土地は祖先のものだと主張し始めた。トゥカーラームは座り込みをして抗議活動をすると言い出すので、現場を担当した警察官ブラジェーシュ・スィン警部補(ゴーヴィンド・パーンデーイ)は、彼をタージマハルの対岸に連れて行き、抗議場所を提供する。トゥカーラームのニュースはすぐにインド中を駆け巡り、彼は一躍人気者になる。

 刑務所大臣ヴィサルジャン・ヤーダヴ(ヘーマント・パーンデーイ)やPPKスィン警視正(ラージェーシュ・シャルマー)の命令を受け、ブラジェーシュ警部補はトゥカーラームを逮捕する。そして裁判が行われることになるが、トゥカーラームはムガル朝時代の文書を持ち出し、自分の主張の正しさを立証する。考古局の調査でそれらの文書が本物であることが分かり、タージマハルの土地がトゥカーラームのものになる公算が高まった。

 ヴィサルジャン大臣は、問題を解決するため、トゥカーラームに代替の土地を提案する。ウッタル・プラデーシュ州の州首相(ユースフ・フサイン)も必ず土地を与えると約束する。トゥカーラームはクジ引きをし、マハーラーシュトラ州の土地を選んだ。ところが、その土地は実業家アーディティヤ・ヴィーラーニー(ヴィシュワジート・プラダーン)が農民たちから強奪したものだった。アーディティヤはトゥカーラームを暗殺することで土地の譲渡を止めようとするが、トゥカーラームは一命を取り留める。

 実は、トゥカーラームは、農村の土地をアーディティヤに渡そうとしなかったことで殺されたジャヤント・ドゥリパーラーの弟だった。ロンドンで弁護士をしていたが、兄が殺されたことでインドに戻り、恋人や兄の娘と共に、活動を開始したのだった。アーディティヤの悪事が公衆の知るところとなった。

 タージマハルはインドでもっとも有名な建築物であり、この白亜の墓廟にまつわる様々なエピソードがインド人に広く知られている。タージマハルに関して必ず語られるのはその建築の由来である。ムガル朝第5代皇帝シャージャハーンが、最愛の妻ムムターズ・マハルの死を悼んで、大理石を使って、世界で一番美しいお墓を造ろうとしたという物語は非常に有名である。タージマハルはインド土着の建築様式とイスラーム世界の建築様式の見事な融合であり、インド建築の最高傑作として容易に数えることができる。ただ、タージマハルを造ったことでムガル朝の国家財政が傾いたとか、対岸に黒大理石を使った第二のタージマハルを造ろうとしたなど、不正確な言説もよく流布しているので注意が必要だ。

 「Wah Taj!」は、突然現れたマハーラーシュトラ州の農民がタージマハルの土地の返還を求めて抗議活動を始めるという導入部から始まる。タージマハルの土地は、アーメール王国のジャイ・スィンがシャージャハーンに割譲したのは歴史的事実である。ただ、映画の主人公トゥカーラームは、その前にムガル朝第2代皇帝フマーユーンが彼の祖先に褒美としてその土地を与え、次の第3代皇帝アクバルがその土地を免税地としたと主張する。しかも、当時の文書を証拠として裁判所に提出した。

 誰かが突然、歴史的建造物などの所有権を主張し始めるというのはインドで時々あることだ。例えば、ムガル朝最後の皇帝バハードゥル・シャー・ザファルの末裔は、デリーにある世界遺産ラールキラー(レッドフォート)の所有権を主張している。デリーのチャーナキャープリー地区にあるトゥグラク朝時代の狩猟ロッジ跡マールチャー・マハルには、アワド藩王国の王族の末裔を自称する家族がずっと住んでいた。

 ただ、「Wah Taj!」には当然のことながらツイストが用意されている。実は彼らの今回の行動の裏にはちゃんとした目的があった。トゥカーラームの故郷であるマハーラーシュトラ州の村では、開発の名の下に、政治家、開発業者、そしてマフィアの手によって、農民たちが代々守ってきた肥沃な土地が強奪されていた。そして、反対者は容赦なく殺されていた。その非道を訴えるため、トゥカーラームは大芝居を打ったのだった。

 「Wah Taj!」はコメディー映画風に始まり、その味付けのまま中盤くらいまで続くが、終盤に入ると監督の主張が明白になってひきしまり、社会派映画色が強くなる。この映画が発信しているのは、農民の窮状、なりふり構わぬ開発、そして汚職や腐敗などへの警鐘であった。また、ユニークな講義方法で主張を全国に知らしめ、支持を集めるという流れは、2011年のジャンロークパール運動の影響を思わせるものである(参照)。

 全体的に、映画というよりも舞台劇的な台詞回しやレイアウトの作品であった。映画のストーリーテーリング法としては熟成が足らず、グリップ力が弱かった。ただ、主演シュレーヤス・タルパデーの演技は良かったし、何より真面目さが伝わってくる映画であった。

 実際にタージマハルやその周辺でロケが行われている。意外にタージマハルにここまで焦点を当てて作られたインド映画というのは珍しい。外国人監督がインドを舞台に映画を撮ろうとするとタージマハルを映像に入れたがるものだが、インド人監督は逆にそれをしない。タージマハルの美しさを堪能できる映画である。

 「Wah Taj!」は、タージマハルが建っている土地の返還を要求する農民一家が主人公の映画だ。風刺コメディー映画かと思いきや、途中で雰囲気がガラリと変わり、社会派映画で終わる。決して完成度の高い映画ではなかったが、汚職撲滅の気運が高まった時代をよく反映した映画だといえる。


https://www.youtube.com/watch?v=2T0KIVeExFE