Dev Bhoomi: Land of the Gods

3.0
Dev Bhoomi

 インド政府観光局がインド観光促進のために「Incredible India」というキャッチコピーを作り出したのに影響されたのか、各州も自州のキャッチコピーを売り出し始めた。ケーララ州の「God’s Own Country」、グジャラート州の「Vibrant Gujarat」、マディヤ・プラデーシュ州の「The Heart of Incredible India」などが有名であろうか。ヒマーラヤ山脈に広がるウッタラーカンド州は、「Dev Bhoomi(神の地)」をキャッチコピーとしている。

 2016年9月10日にトロント国際映画祭でプレミア上映された「Dev Bhoomi: Land of the Gods」は、セルビア人監督ゴラン・パスカリェヴィッチがインドのウッタラーカンド州で撮った作品である。ストーリー構想には、主演のヴィクター・バナルジーも参画している。他に、ギーターンジャリ・ターパー、ウッタラー・バーオカル、ラージ・ズトシー、アヴィジート・ダット、VKシャルマー、ソハイラー・カプールなどが出演している。

 ケーダールナート洪水から2年後の2015年、海外で一財産築いたラーフル・ネーギー(ヴィクター・バナルジー)は、40年振りに生まれ故郷であるウッタラーカンド州の村に戻ってくる。ラーフルは寺院に宿泊しながら、旧知の人々を訪ねる。だが、ラーフルの兄スンダル(アヴィジート・ダット)は彼を追い返し、親友のバルビール(VKシャルマー)も彼に警告する。姉のプリヤー(ウッタラー・バーオカル)は彼を温かく迎え入れる。

 実は、ラージプートの家に生まれたラーフルは40年前、低カーストのマーヤー(ソハイラー・カプール)と結婚しようとし、村に騒乱を巻き起こした。結局ラーフルは父親を殺し、マーヤーを置き去りにして逃げ出したのだった。今でもラーフルは村人たちから許されていなかった。

 ラーフルが村に戻ってきたのは、彼が不治の病に冒されており、もうすぐ失明する運命にあったからだった。視力を失う前に彼は村を目に焼き付けておきたかったのである。

 また、ラーフルは村の学校で教師をするシャーンティ(ギーターンジャリ・ターパー)と出会う。シャーンティの教え子アーシャーは学業に秀でており、大学で勉強したいと希望していたが、親に無理矢理結婚させられてしまう。ラーフルもシャーンティも何もできなかった。アーシャーの結婚式から程なくしてアーシャーは遺体で見つかる。そして、シャーンティの学校が焼き討ちに遭う。

 ラーフルは村長から40年前の罪を責められ、自ら村を出て行くことを決める。だが、その前に、財産をはたいてシャーンティの学校再建の手助けをする。

 それからしばらくして、シャーンティは教え子のムンナーと共にケーダールナート寺院を訪れる。そこには盲目となったラーフルがいた。

 ヒマーラヤ山脈奥地の人里離れた村が舞台で、40年振りに村に帰った老人ラーフルがゆっくりと思い出を踏みしめていく様子を描いている。ただし、単にノスタルジーに浸る様子を傍観する映画ではなく、サスペンス要素もあり、いくつか事件も起きる。最大の謎は、ラーフルがなぜ40年前に村を出なければならなかったのかという点である。美しい雪山を背景に、彼の暗い過去が徐々に明らかになっていく。また、その事件のせいで大半の村人たちはラーフルを歓迎していなかった。悪い噂はすぐに広まり、ラーフルは村に居づらくなっていく。

 また、ラーフルが村に滞在している間にいくつかの事件が起きる。ラーフルの帰還自体が、人里離れた村では大きなニュースだったが、それ以上の不幸な出来事が起こってしまう。村の学校で子供たちを教えるシャーンティの教え子アーシャーの死である。17歳のアーシャーは大学で勉強を続けたいと希望していたが、無理矢理結婚させられてしまう。結婚式の後、彼女は首吊り自殺するが、本当に自殺かそれとも他殺かははっきりしない。ただ、シャーンティがアーシャーに教育を施したことが死の原因とされており、彼女の学校は焼き討ちに遭う。

 この出来事から、保守的な村において女性を学校に通わせるのがいかに難しいかが浮き彫りにされる。アーシャーのようなことはこれまでにも起こったことだった。だが、シャーンティは諦めず、村に根を下ろして子供たちを教え続けることを誓う。

 また、ラーフルは40年前にマーヤーという女性と恋に落ちており、この恋愛が彼の出奔の要因ともなっていた。ラーフルはラージプートという上位カーストの出で、マーヤーは踊りを生業とする低カーストの出であった。カーストが全く異なるラーフルとマーヤーの結婚は、村の常識から考えて認められるものではなかった。

 2013年6月にウッタラーカンド州では集中豪雨による大洪水があり、特にケーダールナート寺院周辺では大きな被害が出た。この洪水で両親を亡くした子供がシャーンティの学校で学んでいた。映画の中では、この大洪水は2年前の出来事とされていたので、映画の時間軸は2015年と算出できる。

 ストーリーとあまり整合性がないように感じたのだが、ラーフルはラビンドラナート・タゴールの詩に感銘を受けたという設定になっていた。そして、映画の最後にもタゴールの言葉が引用されていた。何らかの伏線になっていたとは思えなかった。

 ヴィクター・バナルジーはインド映画界で著名なベテラン俳優であり、多数のヒンディー語映画にも出演している。個人的にはヒングリッシュ映画「Joggers’ Park」(2003年)での演技が印象的であった。だいぶ年を取ったが、ますます渋みが出て来ている。シャーンティを演じたギーターンジャリ・ターパーも力強い女性をしっかり演じていた。

 「Dev Bhoomi: Land of the Gods」は、セルビア人監督がインドで撮影した小品である。40年振りに故郷の村を訪れた老人を巡り、村に波紋が広がる様子を淡々と描出している。主演ヴィクター・バナルジーの好演や、ウッタラーカンド州の美しい背景、そして主人公の暗い過去が徐々に明かされて行くサスペンス要素などのおかげで、なかなか楽しめる作品になっている。インドの諸問題にも触れられているが、外国人視線のせいなのか、深入りはしておらず、本当に触りだけという感じだ。観て損はない映画である。