Waarrior Savitri

2.5
Waarrior Savitri
「Waarrior Savitri」

 「サーヴィトリー」はインド人女性に一般的な名前である。ブラフマー神の妻の名前でもあるが、「マハーバーラタ」などに収められている神話に登場する人物の名前でもあり、こちらの方が有名だ。そして、その神話があまりにも有名なため、インド人の間では特別な意味を持たされることが多い。

 サーヴィトリー神話のあらすじは以下の通りである。

 王国の姫だったサーヴィトリーは、自分の王国を追われて森で亡命生活を送っていたサティヤヴァーンと結婚する。サティヤヴァーンは1年後に死ぬ運命にあったが、それを知ってもサーヴィトリーはサティヤヴァーンとの結婚を止めなかった。1年後、死を司る神であるヤマ神がサティヤヴァーンの魂を連れに来る。サーヴィトリーはヤマ神を追いかけ、様々な話をする。感心したヤマ神はサーヴィトリーの願いを叶えることになり、最終的にはサティヤヴァーンを生き返らせることに同意する。

 死ぬべき運命にあった夫をヤマ神から取り戻したサーヴィトリーは、「貞女」としてインド人女性の鑑とされ、敬われている。

 2016年8月25日公開の「Waarrior Savitri」は、このサーヴィトリー神話を現代に置きかえ、しかも戦士にしてしまった野心作だ。ただし、「貞女」サーヴィトリーに対してあまりに大胆な改変をしたことで、反発も生んだ。監督はインド系米国人のパラム・ギルだが、この映画の公開に当たって殺害予告を受けることになった。

 主演は、音楽監督OPナイヤルの孫娘ニハーリカー・ラーイザーダーと、「Udaan」(2010年)のラジャト・バルメーチャー。他に、オーム・プリー、グルシャン・グローヴァー、ルーシー・ピンダー、ロン・スムーレンバーグ、ティム・マン、アーディティヤ・ラージ・カプール、カラムヴィール・チャウダリーなどである。

 なぜか「ラクシュミー 女神転聖」という邦題と共にDVDが発売されている。どこから「ラクシュミー」が出て来たのか全く不明である。

 ラージャスターン州ジョードプルの名家に生まれたサーヴィトリー(ニハーリカー・ラーイザーダー)は、幼い頃に母親を亡くしていたが、優しい父親タークル(アーディティヤ・ラージ・カプール)に愛情いっぱいに育てられた。サーヴィトリーは子供の頃に誘拐されそうになったことをきっかけに格闘技を習い始め、美しい女戦士に成長した。

 サーヴィトリーは、インド系米国人サティヤ(ラジャト・バルメーチャー)と出会い、恋に落ちる。二人は結婚を決めるが、先祖代々の相談役であるパンディトジー(カラムヴィール・チャウダリー)が二人のホロスコープを合わせてみたところ、サティヤはサーヴィトリーと結婚した途端に死ぬことが分かった。そのため、タークルは二人の結婚を認めなかった。だが、サティヤとサーヴィトリーは駆け落ち同然に結婚してしまう。サーヴィトリーはサティヤと共に米国へ移住する。

 サティヤの父親(グルシャン・グローヴァー)はラスベガスのカジノオーナーとして成功した実業家だった。しかし、マニ・ジョン(ロン・スムーレンバーグ)というマフィアから借金をしており、サティヤは命を狙われていた。ラスベガスに着いた途端にサティヤは襲撃を受けるが、サーヴィトリーの機転により助かる。その後、家でガスが爆発するが、このときもサティヤは間一髪で助かる。

 サーヴィトリーはパンディトジーの予言を信じるようになる。しかも、不思議なことに彼女はサティヤを連れに来たヤマ神(オーム・プリー)を見ることができ、話までできた。サーヴィトリーはヤマ神に、サティヤの死期を遅らせてくれるように頼むが、ヤマ神は仕事だと言って聞かない。サティヤの乗っていた自動車が爆発し、彼は瀕死の重傷を負ってしまう。サティヤは入院し、集中治療室で治療を受けるが、助かる見込みは薄かった。

 サーヴィトリーはマニ・ジョンとの一件を片づけるため、正体を隠して彼の組織に入り込む。まずはマニ・ジョンのパートナーであるキャンディー(ルーシー・ピンダー)と親しくなり、そこからマニ・ジョンにバーダンサーとして雇われ、キャンディーから秘密を聞き出す。サーヴィトリーは隙を見てキャンディーを倒し、マニ・ジョンが保有していたデータを破壊する。

 サーヴィトリーはヤマ神から24分だけサティヤの寿命を勝ち取り、マニ・ジョンとの最終決戦に挑む。マニ・ジョンとサーヴィトリーは12階の建物から一緒に転落し、二人とも死んでしまう。サーヴィトリーが死んだことでサティヤは助かるが、サーヴィトリーは今度は天国でヤマ神に、自分を生き返らせて欲しいと頼む。サーヴィトリーはヤマ神と戦い、蘇生させられる。

 着想はとても良かった。サーヴィトリー神話の舞台を現代に置きかえ、「貞女」サーヴィトリーを最強の美女戦士に仕立てあげる。そして最後にはヤマ神と戦ってまで、幸せな夫婦生活を勝ち取ろうとする。B級グルメにはB級グルメなりのおいしさがあるように、B級映画にはB級映画なりの面白さがある。「Waarrior Savitri」には十分その素質があった。ただ、残念ながら全体的なまとまりが悪く、いくらB級映画とはいえ、映画館で上映していいレベルの完成度には達していなかった。

 それでも最後まで我慢して見通すことができたのは、主演ニハーリカー・ラーイザーダーにセックスアピールがあり、しかも格闘技を駆使したファイトシーンからセクシーな衣装に身を包んだダンスシーンまで、様々な挑戦をしていたからだ。ニハーリカーが演じたサーヴィトリーのライバルとして立ちはだかるキャンディーも負けず劣らずセクシーなボディーをしており、さらにファイターとしての身のこなしも兼ね備えていた。キャンディーを演じたルーシー・ピンダーは英国人女優で、ヒンディー語映画への出演はこれが初である。

 キャンディーも悪役だったが、親玉はロン・スムーレンバーグが演じたマニ・ジョンだ。マニ・ジョンは16カ国語を操るという設定であり、片言のヒンディー語も話していた。マニ・ジョンを演じたロンはスタントマンであり、ジャッキー・チェン主演「WHO AM I?」(1998年)などにも出演したことがある。B級映画ながら、国際的なキャストを起用できているのは、監督が米国在住ということもあるのだろうか。

 サティヤを演じたラジャト・バルメーチャーは、デビュー作「Udaan」で注目を集めたものの、元々童顔だったこともあって、少々使いどころが難しい俳優扱いされてしまっている可能性がある。「Udaan」後、代表作といえるような作品はない。この「Waarrior Savitri」でも、主役サーヴィトリーのサポート役に過ぎず、いまいちピンと来ない役柄だった。マフィアから命を狙われているのに脳天気だったり、マフィアによって父親を盲目にさせられていても特に強い感情を抱いていなかったりして、地に足の付いていないキャラだったといえる。そもそもサーヴィトリーがサティヤに惚れた理由すら不明である。

 グルシャン・グローヴァーはサティヤの父親を演じていた。彼が盲目なのはサーヴィトリー神話を受け継いでいる。サティヤヴァーンの父親デュマトセーナは盲目であった。オーム・プリーがヤマ神を演じていたのが特筆すべきだが、サーヴィトリーがモダンなら、ヤマ神もスーツを着てモダンな格好をしていた。また、意外に話の分かる性格であり、情け深くもある。サーヴィトリー神話においてサーヴィトリーとヤマ神のやり取りはハイライトだが、この「Warrior Savitri」でも二人のやりとりには力が込められていた。

 後半は舞台が米国に移るが、前半はジョードプルで撮影が行われており、街のシンボルであるメヘラーンガル城や、城下町の中心に位置する時計塔などが映っていた。

 「Waarrior Savitri」は、インド人の道徳観念に強烈に埋め込まれている「貞女」サーヴィトリーをモダンな女戦士にし、アクション映画仕立てにしてしまった大胆な作品だ。B級映画の域を出ないが、B級映画なりの楽しさもある。アイデアは良かったので、才能ある監督がうまくまとめ上げていれば、かなり化けていた可能性もある。しかしながら、サーヴィトリーのこのような映画化を好まない層もいて、市場からは受け入れられなかった。B級映画だと割り切って観ることをお勧めする。


Waarrior Savitri | Hindi Full Movie | Niharica Raizada, Rajat Barmecha, Om Puri | Hindi Movie 2023