Teraa Surroor

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Teraa Surroor

 ヒメーシュ・レーシャミヤーは、シンガーソングライターや音楽監督から俳優に転身した人物で、俳優デビュー作「Aap Kaa Surroor」(2007年)の頃は絶大な人気を誇った。なにしろ彼の初のソロアルバム「Aap Kaa Surroor」(2006年/映画と同名だが内容は別)はインドで5,500万枚を売り上げたのである。この売上枚数は、マイケル・ジャクソンの「スリラー」(1982年)に次ぐ世界第2位となる。ただし、ヒメーシュはスターダムに上り詰めたのと同じスピードで人気凋落し、2010年代には既に過去の人になっていた。それでも音楽監督や俳優としての仕事は細々と続けており、「Khiladi 786」(2012年)に出演したり、「Prem Ratan Dhan Payo」(2015年/邦題:プレーム兄貴、王になる)の音楽を担当したりしている。

 2016年3月11日公開の「Teraa Surroor(君の酔い)」は、ヒメーシュ・レーシャミヤー主演の映画で、「Aap Kaa Surroor(あなたの酔い)」と同じ意味の題名だ。だが、特に続編というわけではない。監督は「Hide & Seek」(2010年)のショーン・アランニャ。キャストは、新人ファラー・カリーミー、ナスィールッディーン・シャー、シェーカル・カプール、モニカ・ドーグラー、カビール・ベーディー、シェールナーズ・パテールなどである。

 ラグ(ヒメーシュ・レーシャミヤー)はある晩、コールガールと一夜を共にし、そのことを恋人のターラー(ファラー・カリーミー)に明かす。ターラーは失望し、ラグを捨ててアイルランドのダブリンに去って行ってしまう。ところがダブリンに着いた途端、彼女は警察に捕まる。彼女の持ち物にはいつの間にか麻薬が隠されていた。

 ラグはすぐにダブリンに向かい、弁護士のエレ(モニカ・ドーグラー)とターラーの無罪を証明しようと努力するが叶わず、7年の禁固刑となる。ターラーは、アニルッド・ブラーフマンという謎の男に誘われてダブリンに来ており、ターラーの無実を証明するためにはアニルッドを捕らえる必要があったが、見つからなかった。

 そこでラグは、ダブリンの刑務所にいる脱獄のプロ、ロビン(ナスィールッディーン・シャー)に会いに行き、助言を求める。ラグはターラーを逃がすためのコツを伝授し、ラグは計画を実行に移す。まずはターラーはリストカットをして病院に運ばれ、そこへラグが突入して彼女を連れ出す。そして警察の追っ手をかわして港まで辿り着く。だが、逃げる前にラグはターラーに、自分は実はインドの警察のために働く非公式の暗殺者であることを明かす。そして、アニルッドの居所が分かったため、ターラーを港に残して引き返す。

 アニルッドの正体はハイダルという男だった。ハイダルは、かつてラグが殺したギャングのドン、アウラングゼーブの息子だった。ハイダルはアイルランドに渡り、ラグへの復讐の機会をうかがっていたのだった。ラグはハイダルを殺し、ターラーと共にインドに帰る。

 ヒメーシュ・レーシャミヤーは基本的に音楽家であり、俳優が本業ではない。彼が大根役者であることは、ヒンディー語映画ファンなら誰でも知っている。よって、彼の映画を観る際に、最初から彼の演技に期待してはならない。「Teraa Surroor」でも安定の棒読み棒立ち演技をしていた。

 ストーリーはテンポ良く進み、ヒメーシュ演じるラグのヒーロー振りが強調される。ラグは当初、ギャングの一員ということだったが、終盤で明かされたところでは、彼は警察の下で働く暗殺者であった。唯一サスペンスとなっているのは、ラグの恋人ターラーを罠にはめた人物の正体である。「アニルッド・ブラーフマン」という名前だけは何度も出て来るが、これは偽名で、一体誰が何のためにターラーにそんなことをしたのか、終盤まで秘密にされる。蓋を開けてみれば、昔ラグに殺されたギャングのドンの息子であった。丁寧に伏線が張ってあったわけではなく、唐突な印象は否めなかった。

 一言で言えば、他のヒメーシュ映画と同じく駄作なのだが、俳優陣は意外に豪華だ。ヒンディー語映画界切ってのベテラン俳優ナスィールッディーン・シャーが重要な役で出演している他、国際的に活躍する著名なインド人監督シェーカル・カプールも出演している。ヒロインのファラー・カリーミーはオランダ生まれのインド系女優だが、詳細は不明である。女性弁護士エレを演じたモニカ・ドーグラーは「Dhobi Ghat」(2011年)などに出演していた女優だ。

 ヒメーシュ主演の映画には音楽に期待してしまうのだが、意外に挿入歌の数は多くなく、名曲と呼べるものもなかった。序盤の景気づけに投入されるダンスシーン「Ishq Samundar」は、「Kaante」の同名曲のリミックスだが、ヒメーシュ自身の曲ではない。

 「Teraa Surroor」は、ヒンディー語映画界で我が道を行くヒメーシュ・レーシャミヤー主演の映画だ。独特のヒメーシュ節に満ちており、こういうのがはまる人もいるかもしれない。ナスィールッディーン・シャーやシェーカル・カプールなど、意外に豪華な俳優が脇役で出演しているのも密かな見所である。ただ、基本的にはパスしていい作品である。