ディヴィヤー・コースラー・クマールは「Ab Tumhare Hawale Watan Sathiyo」(2004年)などでデビューした女優であるが、2005年にTシリーズのブーシャン・クマール社長と結婚した後は一線から退いた。だが、「Yaariyan」(2014年)で監督として復帰した。2016年2月12日公開の「Sanam Re(恋人よ)」は、ディヴィヤー・コースラー・クマール監督の第2作である。
主演はプルキト・サムラートとヤミー・ガウタム。セカンドヒロインはウルヴァシー・ラウテーラー。他に、リシ・カプール、アーシーシュ・カウル、プラーチー・シャー、バールティー・スィン、マノージ・ジョーシー、アンキト・アローラーなどが出演している。また、ディヴィヤー監督自身がアイテムソング「Humne Pee Rakhi Hai」でアイテムガール出演している。
ムンバイーの企業で働くアーカーシュ(プルキト・サムラート)は、ある日母親(プラーチー・シャー)から祖父(リシ・カプール)の体調が悪いと連絡を受け、故郷タナクプルに戻る。そこで彼は、故郷を出る前に恋仲にあったシュルティ(ヤミー・ガウタム)のことを思い出す。アーカーシュは、シュルティに別れを告げずにムンバイーに来てしまった過去があった。 休暇を取り過ぎて会社をクビになりそうになったアーカーシュは急いでムンバイーに帰る。そして上司(マノージ・ジョーシー)から、とある米国企業から契約を取って来ることを厳命する。その会社の社長は現在、パブロ夫人(ウルヴァシー・ラウテーラー)となっていた。パブロ夫人がカナダのヨーガ・キャンプに行っているとの情報を得たアーカーシュはカナダへ飛ぶ。 ヨーガ・キャンプでアーカーシュはパブロ夫人を一生懸命口説こうとするが、そこでシュルティと再会する。パブロ夫人はアーカーシュに恋するようになるが、アーカーシュは完全にシュルティの方向を向いていた。アーカーシュはパブロ夫人から契約を取ることができず、またシュルティの連絡先も得られないまま別れることになった。 ムンバイーに戻ったアーカーシュは、クビは免れたものの、シュルティのことを考えて過ごすようになった。そこへパブロ夫人が現れ、シュルティはラダックにいると伝える。アーカーシュはパブロ夫人と共にラダックを訪れるが、既にそこにはシュルティはいなかった。そこでアーカーシュはタナクプルに戻る。すると、シュルティと会うことができた。 だが、シュルティは虚血性心疾患を患っており、余命幾ばくもなかった。心臓移植をしなければ助からなかったが、ドナーが見つからなかった。そんなとき、ギリギリでドナーが見つかり、シュルティの心臓移植手術が行われる。 回復したシュルティはアーカーシュを探す。だが、彼の姿はどこにもなかった。タナクプルに戻った彼女は、心臓のドナーとなったのがアーカーシュだったことに気付く。
「Yaariyan」のときに既に分かっていたのだが、ディヴィヤー・コースラー・クマールに監督の才能はない。夫ブーシャン・クマールの財力と人脈を使って、酔狂で監督業に手を出しているだけで、優れたものは感じられない。まだ女優業をしていた方が映画業界に貢献できるだろう。その印象は、監督第2作となる「Sanam Re」を観ても変わらないばかりか、ますます強くなった。
ムンバイーで働いていた主人公アーカーシュが突如故郷に呼び戻され、認知症を患った祖父と再会する。祖父は写真スタジオを営んでいたが、スマホの時代となった今、休業状態となっていた。この序盤の展開からすると、祖父と孫の心温まるストーリーなのかと予想するが、そうではない。すぐに梯子は外され、舞台はムンバイーからカナダへ移り、祖父のことは忘れ去られる。
カナダでアーカーシュはヨーガ・キャンプに参加する。このキャンプに参加する女性社長パブロ夫人から契約を取るためであった。だが、ヨーガらしきことはほとんどしておらず、まるで子供のサマーキャンプのように大の大人たちがゲームをして遊んでいるだけだ。下手なコメディーシーンもあり、映画は盛り下がる。ここでアーカーシュは何の前触れもなくシュルティと再会する。今度はパブロ夫人が梯子を外される。
後半はアーカーシュがシュルティを追い掛け続ける展開となるが、それになぜかパブロ夫人が協力をする。全く意味が分からない。そしてやっとシュルティと再会するが、またも何の前触れもなく、彼女が心臓疾患を患っていることが明らかになる。全くもって反則技の繰り返しだ。
シュルティは心臓移植手術を受けて助かるが、実はその心臓はアーカーシュが献上したものだった。感動的な最後となるように最大限努力が払われていたが、これもやはり唐突すぎて、観客は最後まで置いてけぼりにされる。最後の最後でアリバイのように、写真スタジオと祖父が登場する。
Tシリーズ系の映画であるため、音楽にはいくつかいいものがある。特にタイトルソングとなっている「Sanam Re」は名曲だ。また、ジャンムー&カシュミール州のラダック地方や、ヒマーチャル・プラデーシュ州の山村カルパーなど、風光明媚な土地でロケが敢行されており、映像は美しかった。だが、褒められるのはそれだけだ。ストーリーが支離滅裂であるため、それらもほとんど台無しになっていた。
「Sanam Re」は、女優から監督に転向したディヴィヤー・コースラー・クマール監督の第2作である。Tシリーズの社長夫人という強力な背景を駆使して作られた映画だが、彼女の才能の無さが如実に表れてしまっている。音楽と風景のみ特筆すべき点はあるが、肝心の内容部分に見所はない。