2015年6月12日公開の「Hamari Adhuri Kahani(私たちの未完の物語)」は、大人のロマンス映画である。部分的にナクサライト問題にも触れられている。
監督は、「Aashiqui 2」(2013年)や「Ek Villain」(2014年)など、狂おしい恋愛映画で知られ、ヒット作を飛ばしているモーヒト・スーリー。マヘーシュ・バットが脚本を書き、ムケーシュ・バットがプロデュースしている。主演はイムラーン・ハーシュミーとヴィディヤー・バーラン。ラージクマール・ラーオが悪役で出演。他に、サラー・カーン、スハースィニー・ムレー、ナレーンドラ・ジャー、プラバル・パンジャービー、マドゥリマー・トゥリー、ナミト・ダース、アマラー・アキニニなどが出演している。
ヴァスダー(ヴィディヤー・バーラン)は親に言われてハリ(ラージクマール・ラーオ)と結婚したが、ハリは結婚から1年後に失踪してしまう。以来5年間、ヴァスダーはハリとの間にできた息子サーンジを一人で育ててきた。 ヴァスダーはフローリストをしていたが、ある日、ホテル王のアーラヴ・ルーパレール(イムラーン・ハーシュミー)と出会い、見初められる。そして彼女にドバイでの仕事をオファーする。最初は家族を理由にそれを断ったヴァスダーだったが、警察官パーティール警視(ナレーンドラ・ジャー)から、夫はテロリストで、米国人を5人殺したと聞かされたヴァスダーは、身に危険を感じ、アーラヴのオファーを受けることにし、ドバイへ渡る。 ドバイにてヴァスダーとアーラヴはますます親しくなり、二人は一夜を共にする。だが、ヴァスダーがインドの自宅に帰るとハリが待っていた。ハリが言うには、彼はナクサライトに捕まってテロリストに仕立てあげられた。ずっと幽閉されてきたが、隙を見て逃げ出し、ヴァスダーの元に帰ってきたのだった。だが、ヴァスダーがアーラヴと寝たことを知ったハリは激昂して暴れ、警察に捕まってしまう。 ハリが逮捕されたことを知ったアーラヴは、ハリの釈放のために手を尽くすが、ハリが罪を認めてしまったため、有罪になり、死刑を宣告される。アーラヴは、ハリが幽閉されていたチャッティースガル州バスタルを訪れ、彼の無実を証明できる人を探す。そして証拠を手にするが、地雷を踏んで死んでしまう。 アーラヴの死を知ったヴァスダーは泣き崩れ、無罪放免となったハリはほくそ笑む。だが、ヴァスダーは行方をくらまし、ハリは彼女を必死になって探す。ようやくコルカタで彼女を見つけるが、ハリはヴァスダーに何をすることもできなかった。ハリはヴァスダーのことを想いながら21年間過ごす。 時は現代となり、ヴァスダーはバスタルまで行こうとするが、途中で力尽きて死んでしまう。ヴァスダーの葬儀にハリがやって来るが、彼のことを嫌う息子のサーンジは、ハリを追い出す。だが、ハリはヴァスダーの遺灰を持ってどこかに消えてしまう。後にはハリの手記が残されていた。サーンジはそれを読んで初めてヴァスダーの過去を知る。一方、ハリはヴァスダーの遺灰をバスタルでアーラヴが死んだ場所に撒いていた。
主要登場人物は3人おり、それぞれの視点から物語を捉えることができるが、もっとも興味深く感じたのはヴァスダーの視点であった。ヴァスダーは既婚女性で、ハリと結婚し、サーンジという息子をもうけていたが、夫は5年間行方不明になっており、帰りを待ち続けていた。そんな中、彼女の才能を認めてくれる大富豪アーラヴと出会い、彼と恋に落ちる。ヴァスダーは保守的な女性で、普通ならば夫以外の男性と恋仲になるなど考えられないが、ハリがテロリストであると警察に知らされたこと、ハリが生きているか分からないこと、そしてアーラヴが魅力的だったことから、一線を越えることになった。
ヴァスダーの婚姻外恋愛と軌を一にするのが、アーラヴの母親ローヒニーの人生であった。アーラヴには父親がおらず、母親のローヒニーはキャバレーの歌手で、アーラヴを一人で育てていた。ローヒニーには恋人がおり、アーラヴも彼を慕っていたが、ある日彼は侮辱を受けて走行中の自動車に飛び込み、意識不明となってしまう。だが、ローヒニーは昏睡状態の彼をずっと看病し続けていた。
終盤でヴァスダーがハリに対して、女性を男性の所有物とするインド社会の因習を糾弾するシーンがあるが、その点からも、既婚女性が恋人を作ることを、特定の状況下では正当化するような主張が見られたのが印象的だった。ラーダーとクリシュナの関係も引き合いに出されていた。ラーダーとクリシュナはインド神話の中でもっとも有名なカップルだが、この二人はそれぞれ既婚であり、言わば不倫関係になる。だが、インド神話は彼らの関係を認めるだけの寛容さを持っている。
「自己犠牲」も「Hamari Adhuri Kahani」の重要なテーマだった。アーラヴは、自分が恋するヴァスダーの夫ハリを助けるために四方八方手を尽くす。逮捕され、死刑宣告されたハリをそのまま助けなければ、ヴァスダーを自分のものにすることは容易だった。それでも、自分が愛する女性の一番の幸せを考え、ハリを助けるという自己犠牲の道を選ぶ。結果的に、彼は命まで捨てることになる。この世では結ばれることのなかったアーラヴとヴァスダーの恋物語こそが、題名になっている「未完の物語」の真相であり、それを少しでも「完成した物語」に近づけようと最後に動いたのがハリという構造になっていた。
おふざけが全くなく、この3人の人間関係や行動に集中した2時間強の映画だった。モーヒト・スーリー監督の過去の恋愛映画と同じ雰囲気の映画で、音楽にも力が込められている。しかしながら、アーラヴとヴァスダーの関係をあまりにメロドラマにまとめすぎてしまったためか、物語に入りこむことがあまりできなかった。
イムラーン・ハーシュミー、ヴィディヤー・バーラン、ラージクマール・ラーオの3人の演技は素晴らしかった。特に演技面ではラージクマール・ラーオが飛び抜けており、ダークなオーラのあるハリのキャラクターに命を吹き込む演技であった。
チャッティースガル州バスタル地方が何度か登場したが、この地域はナクサライトの活動が活発で、度々治安部隊とナクサライトの衝突が起こっている。
「Hamari Adhuri Kahani」は、モーヒト・スーリー監督らしい、悲哀に満ちた狂おしいロマンス映画である。俳優たちの演技は良かったが、大ヒットした「Aashiqui 2」や「Ek Villain」などと比べると格は落ちる。アーラヴとヴァスダーの関係がファンタジー過ぎたためであろうか。観て損はない映画だが、多大な期待は禁物である。