2015年1月16日公開の「Sharafat Gayi Tel Lene」は、口座に突然10億ルピーもの振り込みがあったサラリーマンが主人公のコメディー映画である。
監督は「What the Fish」(2013年)のグルミート・スィン。キャストはザイド・カーン、ランヴィジャイ・スィン、ティナ・デーサーイー、アヌパム・ケール、ユーリー・スーリーなどである。
題名は、「正直に生きるのは止めた」みたいな意味である。直訳すれば「上品さは油を買いに行ってしまった」になるが、「~は油を買いに行ってしまった」という表現はヒンディー語特有の慣用句で、「どこかに行ってしまった」「消え去った」状態を指す。
映画中に「ダーウード」なる人物が登場するが、これはかつてボンベイのアンダーワールドを牛耳り、1993年のボンベイ連続爆破テロの首謀者とされるダーウード・イブラーヒームを連想させている。ダーウードは既に海外に亡命しており、現在はパーキスターンのカラーチーにいるとされている。
デリー在住のプリトヴィー・クラーナー(ザイド・カーン)は建築会社に勤めていた。サム(ランヴィジャイ・スィン)と同居しており、恋人のメーガー(ティナ・デーサーイー)にはプロポーズしたばかりだった。しかし、家賃を滞納するくらい金欠状態だった。 あるとき、プリトヴィーは自分の銀行口座に10億ルピー以上の振り込みがあったことに気付き、うろたえる。すると、彼の電話に「ダーウード」を名乗る人物から電話が掛かって来る。プリトヴィーは、ダーウードの指示に従って、銀行口座から1億ルピーずつ引き出し、ラシーダーという女性に渡すことになった。プリトヴィーはサムにも相談し、受け渡しの場に同行してもらう。銀行の頭取であるタワーニー(アヌパム・ケール)もダーウードと通じており、引き出しに困ることはなかった。 こうして計4億ルピーをラシーダーを渡したところで、プリトヴィーはTVニュースでダーウードが殺されたことを死ぬ。残りの金が自分のものになると喜ぶが、メーガーは警察官である叔父のチャッダー(ユーリー・スーリー)に通報すべきと言う。とりあえずプリトヴィーはサムとメーガーを連れてディスコに行くが、そこでダーウードから電話が掛かって来る。メーガーが誘拐されるが、すぐに見つかった。 メーガーに危害が及んだのを見てサムはプリトヴィーとメーガーに真実を話す。実はその10億ルピーは、彼がオンライン宝くじで勝手にプリトヴィーのクレジットカードを使って賭け、大当たりしたものだった。サムは、ゴアで出会って知己となっていたラシーダーと協力し、ダーウードの振りをしてプリトヴィーに電話をして、その10億ルピーを引き出そうとしていたのである。 ところがその直後、サムはタワーニーとラシーダーがグルになって彼を騙していたことを知る。オンライン宝くじもフェイクで、実は彼らはマネーロンダリングに利用されてしまっていた。彼らはラームシャラン・オーベローイという人物の指示で動いていた。そこでプリトヴィー、サム、メーガーはラシーダーを誘拐し、オーベローイの振りをしてタワーニーから大金を盗み出して、タワーニーに犯罪の自白をさせる。タワーニーは逮捕され、プリトヴィーたちは警察から報奨金として2千万ルピーをもらう。
主人公のプリトヴィーは真面目な性格であり、楽して稼ぐよりも額に汗して稼ぐことに価値を見出していた。骨董品のオンボロ車に乗り続け、怠け者の友人とルームシェアをし、節約して生活をしていたが、彼は常に金欠状態だった。ところがある日突然、彼の口座に10億ルピーもの大金が振り込まれる。
同じことが自分の身にも起こったら・・・と想像するだけで楽しくなる導入部だが、もちろんそれだけで話は済まず、彼は代償を払わなくてはならなくなる。「ダーウード」を名乗る人物から電話があり、その指示通りに金を引き出してデリバリーすることになった。
ところが、プリトヴィーは根が正直なので、許嫁のメーガーはすぐに異変に気付いてしまう。最初はプリトヴィーは誤魔化そうとするが、とうとう隠し切れなくなる。そんなとき、ダーウードが死んだというブレイキングニュースが駆け巡る。これで口座の残金は全て自分のもの・・・と思いきや、死んだはずのダーウードから電話が掛かって来るという展開だ。
結局、彼らはマネーロンダリングに巻き込まれていたことが分かる。海外から違法に送金された金をインドで合法的に現金化するため、このような回りくどい手段が採られた。当初はサムだけが巻き込まれていたのだが、彼が勝手にプリトヴィーのクレジッドカードを使ったことで、彼も巻き込まれることになったのだった。
前半はスリリングな展開でグリップ力があった。中盤以降、だんだんと事件の全貌が見えてくると、ありきたりな話になっていって、退屈になった。伏線の張り方が雑だったし、メーガーの使い方も上手ではなかった。サムの関与を早い段階でもう少し匂わすべきだったし、事情をよく知らないティナがもっと場をかき乱してくれるとドタバタ劇っぽさが増しただろう。
ザイド・カーンは久々の出演だ。「Tezz」(2012年)以来である。「Main Hoon Na」(2004年)などで一気にスターダムを駆け上がり、2000年代は羽振りが良かったが、2010年代に入り急速に失速し、ほとんど見掛けなくなってしまった。今回も覇気がなかったように感じた。また、声が違うような気がした。もしかしたら別の声優が彼のセリフを担当しているかもしれない。
ティナ・デーサーイーは「Table No.21」(2013年)などに出演していた女優だ。ランヴィジャイ・スィンはMTVローディーズでホストを務めていたTVパーソナリティーで、「London Dreams」(2009年)などにも出演していた。彼ら若手勢に加えてベテラン俳優のアヌパム・ケールが重要な脇役で出演し、映画を引き締めていた。
この規模の映画にしては、中盤のダンスシーン「Selfiyaan」は金が掛かっており、大きな見所となりえる。
「Sharafat Gayi Tel Lene」は、滑り出し良好だが途中から失速するサスペンス風味のコメディー映画だ。一世を風靡したザイド・カーン久々の主演作で、アヌパム・ケールの援護射撃もあるが、全体として作りが甘く、完成度は低い。無理して観る必要はない。