Hate Story 2

2.5
Hate Story 2
「Hate Story 2」

 ヒンディー語映画界には、執拗にコテコテのB級映画を作り続けている一団がいる。そういう映画を漏れなく観ているとだんだん食傷気味になってくるのだが、たまにヒットを飛ばすのであなどれない。「Hate Story」シリーズは、そんなB級映画の典型だ。プロデューサーに名を連ねるヴィクラム・バットは、正にB級映画の雄である。第1作「Hate Story」が公開されたのは2012年4月20日。このときはインドに住んでいたのだが、どうせB級映画だろうと思って観に行かなかった。そうしたら、これまでに3作が作られるほど一定の支持を集めるシリーズになってしまった。今回、「Hate Story 2」を鑑賞するにあたって、YouTubeで公式に公開されている「Hate Story」も併せてチェックした。第1作は、ジャーナリストの若い女性が実業家の御曹司に騙されて徹底的に尊厳を奪われ、娼婦に身を落としてまでして復讐に乗り出すというエロティック・サスペンスであった。

 「Hate Story 2」は2014年7月18日公開。前作の監督はヴィヴェーク・アグニホートリーだったが、今作の監督は新人のヴィシャール・パーンディヤーにバトンタッチしている。パンディヤー監督は才能を認められて「Hate Story 3」の監督にも抜擢されている。音楽はミトゥン、ミート・ブロス・アンジャーン、アルコ・プラヴォ・ムカルジー、ラシード・カーン。作詞は、アズィーズ・カーイスィー、アルコ・プラヴォ・ムカルジー、クマール、タンヴィール・ガーズィー、ミトゥン。

 キャストはスルヴィーン・チャーウラー、ジャイ・バーヌシャリー、スシャーント・スィン、スィッダールト・ケール、ラージェーシュ・ケーラー、ネーハー・カウル。主にテレビドラマ界で活躍している俳優たちで、一般的に考えたら名前で観客を呼べるスターはいない。唯一、アイテムガール出演しているAV女優出身サニー・リオーネが圧倒的な知名度を誇っている。

 ソーニカー・プラサード(スルヴィーン・チャーウラー)はムンバイーで絶大な権力を誇る政治家マンダール・マートレー(スシャーント・スィン)の愛人だった。マンダールはソーニカーを恐怖で独占し、ほとんど自由を認めていなかった。

 あるときソーニカーは写真教室でアクシャイ・ベーディー(ジャイ・バーヌシャリー)と出会い、恋に落ちる。だが、ソーニカーの異変はすぐにマンダールに察知される。当初、ソーニカーはアクシャイにマンダールとのことを隠しており、マンダールから脅迫を受けた後はアクシャイと連絡を絶っていた。だが、アクシャイはソーニカーを巧みに呼び出し、事情を聞く。ソーニカーはマンダールの愛人であり、逃げられない身であることを明かす。事情を知ったアクシャイはソーニカーを連れてゴアへ逃げる。

 ゴアで束の間の幸せな時間を過ごした二人だったが、すぐにマンダールに居所が知られてしまう。アクシャイはリンチされた上に池に沈められ、ソーニカーは墓地に生き埋めにされる。だが、幸いなことにソーニカーは救出され、一命を取り留める。ただ、長いこと脳に酸素が行かなかったために、時々手が震えるようになる。ソーニカーは、マンダールの息のかかった警察官に殺されそうになるが、病院から逃げ出すことに成功する。

 ソーニカーの事件を担当したのはゴア州警察のアントン・ヴァルギース警部補(スィッダールト・ケール)であった。アントンは病院から逃げたソーニカーを追うが、逃がしてしまう。一方、ソーニカーはマンダールへの復讐を開始する。まずは病院で自分を殺そうとした警察官を殺す。次に、マンダールの部下で、アクシャイ殺害に関わった三人を一人ずつ殺して行くと同時に、アントンに連絡し、マンダールがアクシャイを殺害したことを知らしめる。マンダールも反撃を開始し、アクシャイ殺害の罪をソーニカーになすりつけようとする。

 マンダールの最側近で「カーカー(おじさん)」と呼ばれる男を殺すために、ソーニカーはマンダールの親戚かつ政敵のアトゥル・マートレー(ラージェーシュ・ケーラー)と組む。しかし、アトゥルは裏でマンダールと通じており、ソーニカーはマンダールに捕まってしまう。マンダールはカーカーを殺し、その罪をもソーニカーになすりつける。だが、アントンはソーニカーを逃がす。ソーニカーは、マンダールの妻(ネーハー・カウル)の協力を得てマンダールを殺すことに成功する。マンダールの妻は、マンダールが自殺したとメディアに報告する。ソーニカーはアントンからゴアに家をもらい、そこで暮らすことになる。

 「Hate Story」シリーズの最大の特徴は、何らかの被害に遭った女性主人公が加害者である男に復讐をするプロットである。作品間にストーリー上のつながりはなく、シリーズを通して共通の登場人物がいるわけでもない。敵となるのは、第1作では実業家、第2作では政治家で、どちらも強大な権力を持っている。エロティック・サスペンスを標榜しているだけあって、「被害」というのは具体的には性的な被害を含む。両作品にて主人公は敵からレイプもしくはレイプに近い行為を受け、ショックの時期を乗り越えて、復讐に乗り出す。また、第1作ではデリーが舞台だったが、第2作ではムンバイー及びゴア州に舞台が移動している。

 復讐劇であるので、復讐の要因となる出来事が序盤で説明され、復讐の達成でもって物語は結末を迎える。第1作は必ずしもハッピーエンドではなかったが、第2作ではもう少し後味のいい終わり方になるように工夫されていた。

 「Hate Story 2」で物語にツイストをもたらす要素となるべきだったのは、主人公ソーニカーが生き埋めからの復活後に煩った症状である。しばらくの間、脳に酸素が行き渡らなかったことで、時々手が震えたり倒れたりして、自身を制御できなくなることがあった。これがストーリー上で重要な伏線になるかと期待されたが、ほとんどそういうことはなかった。例えば、ソーニカーがカーカーを拳銃で射殺した容疑で逮捕されたときに、ソーニカーがこの症状を証拠に無罪を主張する、という展開もあり得た。ソーニカーにとって、この症状が有利に働く出来事があり、それが大どんでん返しを演出する、という展開だったら、「Hate Story 2」はよりよくまとまったのではないかと思う。

 前作も決して傑作というわけではなかったが、ストーリーにローラーコースターのような激しいアップダウンがあり、グリップ力があった。「Hate Story 2」には、残念ながら、前作を越えるような娯楽要素はない。音楽が良ければまた違ったかもしれないが、集客力がありそうなのは、サニー・リオーネがアイテムガール出演する「Pink Lips」ぐらいだ。この映画興行的には「プラス」の評価となっており、まあまあの成績だったようだ。

 「Hate Story 2」は、ヒンディー語B級映画の雄ヴィクラム・バットがプロデュースする「Hate Story」シリーズの第2作。強大な権力を持つ男性に人生を台無しにされた女性が復讐に乗り出すというベースラインはそのままに、テレビドラマ俳優中心のキャスティングで挑んでいる。だが、前作よりパワーダウンしてしまったことは否めない。