Koyelaanchal

3.5
Koyelaanchal

 ジャールカンド州の石炭マフィアの物語といえば、アヌラーグ・カシヤプ監督の傑作「Gangs of Wasseypur」(2012年)がある。ダンバードやワーセープルを拠点とするマフィアの抗争を描いた作品である。2014年5月9日公開の「Koyelaanchal(石炭の国)」も石炭マフィアを題材にした作品だ。ギャング映画ではあるが、「Gangs of Wasseypur」とは異なる味付けになっており、併せて観ても面白い。

 「Koyelaanchal」の監督とプロデューサーは「Baabarr」(2009年)などのアーシュー・トリカー。キャストは、ヴィノード・カンナー、スニール・シェッティー、ヴィピンノ、ルーパーリー・クリシュナラーオ、プールヴァー・パラーグなど。

 ジャールカンド州ラージャープルでは、石炭マフィアのサルユー・バーン・スィン(ヴィノード・カンナー)による恐怖政治が敷かれていた。サルユーの忠実な下僕カルワー(ヴィピンノ)は、サルユーに歯向かう労働組合長やナクサライトを公衆の面前で処刑した。だが、警察はサルユーを恐れて何もしなかった。

 ラージャープルに新しい徴税官ニシート・クマール(スニール・シェッティー)が赴任し、サルユーを調べ始める。サルユーはカルワーに彼を脅させるが、手違いにより彼の妻ミートゥー(プールヴァー・パラーグ)に怪我をさせてしまい、さらに彼らの赤ん坊を誤って連れ去ってしまう。サルユーはカルワーに、絶対に赤ん坊を傷付けないように厳命し、しばらく地下に潜るように指令する。

 残忍な殺し屋のカルワーは当初、赤ん坊の扱い方を知らず苦労するが、恋人のループマティー(ルーパーリー・クリシュナラーオ)の助けを借りて何とか世話を見ることができるようになる。その内、カルワーの心に変化が訪れる。

 一方、ニシートは動物虐待の容疑でサルユーを逮捕する。それを知ったカルワーは、赤ん坊を人質に取ってニシートにサルユーの釈放を求める。ニシートはサルユーを連れ出すが、カルワーが交換場所に選んだのはジャリヤー炭田の燃えさかる火の中だった。カルワーはサルユーを道連れにして炭田の火災の中に姿を消す。

 ニシートは、赤ん坊も炭田の中で燃えてしまったと考えるが、入院していた妻のところへ行くと、赤ん坊がいた。カルワーは死ぬ直前にループマティーと結婚し、ニシートの赤ん坊をミートゥーに返したのだった。

 舞台は、「Gangs of Wasseypur」で一躍有名になったジャールカンド州の炭田で、悪役として石炭マフィアのサルユーが登場するものの、物語の中心になっていたのは、サルユーの部下のカルワーだった。サルユーに絶対的な忠誠を誓う残忍な殺し屋だったカルワーだったが、誤って徴税官ニシートの赤ん坊を連れ去り、世話をしなければならなくなったことで、人間性が生まれてくる。そして、「コーイラーンチャル(石炭の国)」を解放するためにサルユーと共に死ぬことを選ぶ。カルワーの生い立ちなどはほとんど分からないが、何の迷いもなく悪の道を歩んでいたカルワーが、赤ん坊との交流や、恋人ループマティーの言葉によって、わずかに残っていた良心を刺激され、絶対的な支配者だったサルユーと共に心中することを選ぶという、いかにもドラマチックな物語であった。

 ジャールカンド州はインド最大の石炭生産量を誇り、インドのエネルギーを支えている。だが、クライマックスで重要な舞台となったジャリヤーでは、過去100年間、炭層火災が起こり、石炭が燃え続けていることで有名だ。また、その煙は周辺に環境汚染を引き起こしており、住民の健康を害している。

 インディラー・ガーンディー首相時代に炭田は国有化されたものの、炭鉱のオーナーたちはマフィア化して引き続き実権を握り続け、政府の支配を受け入れようとしなかった。スニール・シェッティー演じるニシートは「コレクター(徴税官)」と呼ばれる官僚としてラージャープルに赴任するが、彼は地方行政職のトップであり、ラージャープルの長官であった。だが、警察を含め、人々はサルユーを「マーリク(主)」と呼んで、徴税官よりも尊重していた。サルユーの悪事は誰もが知っていたが、今までサルユーは一度も逮捕されたことがなかった。ニシートは果敢にその状況に立ち向かう。

 普通ならばニシートがヒーローとして大活躍するはずだが、後半になるとカルワーと赤ん坊の凸凹コンビが物語の中心になり、ニシートは脇に追いやられる。結局サルユーに引導を渡したのも、彼を尊敬して止まなかったカルワー自身だった。カルワーはサルユーの命令に絶対服従してきたが、赤ん坊と時を過ごすことで、自分が今までしてきた行為の罪深さに気付くのである。

 サルユーを演じたヴィノード・カンナーは貫禄の演技を見せていた。スニール・シェッティーも悪くなかったが、物語が進むごとに影が薄くなり、代わってカルワーが重要な役になっていく。カルワーを演じたヴィピンノという俳優はほとんど無名だが、強烈なインパクトがあった。

 「Koyelaanchal」は、ジャールカンド州の石炭マフィアを巡る物語だ。ギャング映画の要素もあるものの、意外に人間ドラマで魅せる作品に仕上がっており、心に響くシーンがある。「Gangs of Wasseypur」と併せて観ると面白いだろう。