Singh Saab the Great

3.0
Singh Saab the Great
「Singh Saab the Great」

 2001年の最大のヒット作の一本となったのが、サニー・デーオール主演の「Gadar: Ek Prem Katha」(2001年)であった。監督のアニル・シャルマーは、以降もサニーと共に「The Hero: Love Story of a Spy」(2003年)を撮っているが、「Gadar」ほどの国民的なヒット作品にはならなかった。その後10年間、シャルマー監督はサニー主演映画を撮ってこなかった。

 2013年11月22日公開の「Singh Saab the Great」は、アニル・シャルマー監督とサニー・デーオールが久しぶりにタッグを組んだ作品である。主演のサニー・デーオール以外には、アムリター・ラーオ、新人ウルヴァシー・ラウテーラー、プラカーシュ・ラージ、新人アンジャリ・アブロール、ジョニー・リーヴァル、ラジト・カプール、マノージ・パーワー、ヤシュパール・シャルマー、サンジャイ・ミシュラーなどが出演している。また、サニー・デーオールの父親ダルメーンドラと弟ボビー・デーオールが「Daaru Band Kal Se」で特別出演している。

 スィン・サーブ(サニー・デーオール)は、「People's Beat」という世直し組織を率いる社会活動家だった。だが、TVレポーターのシカー(アムリター・ラーオ)は、スィン・サーブが過去に贈賄や暴行などの有罪判決を受けて服役し、刑期を終えずに本名を隠して活動していることを調べ上げ、追及する。スィン・サーブは、シカーに自分の過去を語り出す。

 7年前、県長官だったサランジート・スィン・タルワール(サニー・デーオール)は、妻のミニー(ウルヴァシー・ラウテーラー)と共に、ウッタル・プラデーシュ州バドーリーに赴任した。バドーリーは、王族の末裔ブーデーヴ・スィン(プラカーシュ・ラージ)が支配していた。サランジートは脱税を理由にブーデーヴの所有する倉庫を封鎖する。ブーデーヴはサランジートの妹を毒殺したが、その毒でミニーが死んでしまう。怒ったサランジートはブーデーヴに暴行して逮捕され、16年の懲役刑となる。

 刑務所で古い友人のムハンマド・イクバール(ラジト・カプール)に出会ったことでサランジートは変わり、復讐ではなく変化をもたらすことを誓う。模範囚として早めに釈放されたサランジートは、実名を隠して「People's Beat」を立ち上げ、世の中の不正を正す活動を始めたのだった。

 それを聞いたシカーは一転してサランジートの味方となる。バドーリーに帰って来たサランジートは、早速ブーデーヴに会いに行く。そして、ブーデーヴを罠に掛けて罪を自白させ、逮捕させる。ブーデーヴはその仕返しにサランジートの妹グッディー(アンジャリ・アブロール)とその息子を誘拐する。サランジートはブーデーヴの妻子を誘拐してブーデーヴと対峙する。サランジートとブーデーヴの間で戦いとなるが、ブーデーヴの放った弾が誤って彼の娘に当たってしまう。病院では医者がブーデーヴの娘の治療を拒否したが、サランジートは、「親の罪を子が償うことはない」と説得して治療させる。ブーデーヴは改心し、サランジートの社会活動のパトロンとなる。

 「復讐」はヒンディー語で「बदलाバドラー」、「変化」は「बदलावバドラーオ」という。ヒンディー語映画界では復讐をエネルギー源としたアクション映画は人気のジャンルだが、敢えて「Singh Saab the Great」では復讐を軸とせず、変化のために戦う社会活動家スィン・サーブを主人公とした。

 これは明らかに2011年にインド全土を席巻した汚職撲滅運動の影響といえるだろう。汚職や不正と戦うスィン・サーブの姿には、汚職撲滅運動に参加した人々が重なる。ただ、サニー・デーオールといえば腕に物を言わせたアクション映画が持ち味であり、決して非暴力主義の映画ではなかった。まずは平和的な解決法を模索するが、それが効果なかったら、力に訴えることもやぶさかではない。「復讐」よりも「変化」を、といいながら、クライマックスでスィン・サーブが悪役ブーデーヴをこのまま殴り殺してしまうのではないかとハラハラしながら観ていた。だが、最後はちゃんとブーデーヴの改心を導き出しており、何とか悪役の死で終わる一般的な復讐映画に陥らずに済んでいた。

 ただ、悪役に自分の妹とその息子を人質に取られたからといって、悪役が可愛がっている娘や妻を人質に取り返して敵のアジトに突入するという「正義」の主人公は初めて見た。アニル・シャルマー監督は1980年代から活躍しており、どうしても古い世代の映画監督という印象を拭えない。「Singh Saab the Great」からは、1980年代のマサーラー映画の臭いがプンプンした。

 シャルマー監督自身はスィク教徒でもパンジャービーでもないと思うのだが、「Gadar」と同じく、スィク教やスィク教徒を持ち上げる内容にもなっていた。スィク教徒はターバンをプライドの象徴として考え大事にするが、そういう感情をうまく使って、主人公サランジートの奮起を演出していた。ただ、7年前の回想シーンではサランジートはターバンをかぶっていなかった。ただ、名前から察するに当時からスィク教徒だったと思われる。ターバンをかぶらず、髭も剃っている、いわゆる「モーナー・サルダール」だったのだろう。それが服役と釈放を機に、真のスィク教徒に変わった。自分の正体を隠すためでもあったのかもしれない。

 サニー・デーオールはいつも通り暴れ回っていたが、主演を引き立てていたのは悪役プラカーシュ・ラージだ。彼は悪役俳優と呼んでも差し支えないほど、悪役ばかりを演じる俳優で、しかも悪役振りが素晴らしい。憎々しい演技もそうだが、その憎い悪役が情けない姿を見せるのも痛快なもので、彼はそういう緩急ある演技に長けている。

 脇役陣にも、ジョニー・リーヴァル、サンジャイ・ミシュラー、マノージ・パーワー、ヤシュパール・シャルマーといった個性的な俳優が揃っている。ヒロインは主に2人。アムリター・ラーオはジャーナリスト役であったが、主人公のスィン・サーブとの絡みはなかった。新人ウルヴァシー・ラウテーラーはスィン・サーブの亡き妻の役をみずみずしく演じていた。

 もちろん、ダルメーンドラとボビー・デーオールの特別出演も映画に豪華さを加えていた。最近、この3人が揃って出演することが多くなっているが、あまり仕事がないのかと逆に心配にもなってしまう。

 「Singh Saab the Great」は、大ヒット映画「Gadar」のアニル・シャルマー監督と主演サニー・デーオールが再び手を組んだアクション映画である。単純な復讐劇ではなく、2011年の汚職撲滅運動に影響を受け、悪者を改心させるために戦う社会活動家を主人公にしている点がユニークだ。興行的には平均以上の収益を上げており、まずまずだったようだ。