Beyond Bollywood

3.0
Beyond Bollywood
「Beyond Bollywood」

 アジアンドキュメンタリーズで配信されているドキュメンタリー映画「Beyond Bollywood」は、俗に「ボリウッド」と呼ばれるヒンディー語映画界の裏側に迫った作品だ。インド人女性ルチカー・ムチャラーと米国人アダム・ダウが共同で監督をしている。ルチカーは過去に「The Great Indian Marriage Bazaar」(2011年)というドキュメンタリー映画を撮っている一方、ダウも「Master Vengeancer」(2008年)という映画を撮っているが、ほぼ無名だといっていいだろう。2013年11月1日にドイツのフランクフルトで開催されたニュー・ジェネレーション・インディペンデント系インド映画祭でプレミア上映された。邦題は「踊るボリウッド インド映画の向こう側」と付けられている。

 「Beyond Bollywood」には、誰もが知るスターではなく、映画業界の裏方として働く無名の人々をカメラが追っている。バックダンサーのプージャー・カーセーカル、メイクアップ・アーティストのオージャス・ラジャニー、オーストラリア人俳優ハリー・キー、そして映画業界の労働組合長プレーム・スィン・タークルである。

 ただし、映像の中で有名人もちらほら出て来る。女優のマラーイカー・アローラーとリシター・バット、インド生まれの英国人男優トム・アルター、コレオグラファーのレモ・デスーザ、デザイナーのローヒト・バルなどである。しかしながら彼らは、今回ばかりは、上記4人のエピソードを盛り上げる脇役に過ぎない。

 撮影には4年が掛かったようで、その間に彼らの置かれた状況も変化していく。例えばプージャーは、当初は単なるバックダンサーに過ぎなかったが、映画の最後の方ではアイテムソングの中心であるアイテムガールや、女優として演技を披露するまで成長していた。その一方でハリーについては、白人俳優・モデルとして業界内で一定の活躍はしたものの、最後にはインドを去って行く。プレームは途中で心臓のバイパス手術を受けるというドラマもあったものの、相変わらず組合長として労働者を指導する役割を担っていたし、オージャスについても、新しい家に引っ越すなど、生活の向上が見られたものの、やっている仕事に大きな変化はなかった。

 54分の上映時間の中で4人のキャラを取り上げるのは妥当だったとは思われるが、これだけでヒンディー語映画業界の裏側を隅々まで覗けるわけではない。映画業界にはさらに多くの職業や役割があり、それぞれのドラマがあるだろう。しかしながら、華やかな映画業界の裏で、夢を追って生きている人々がいることを知れるのは貴重な体験だ。

 外国人の立場からもっとも興味深かったのは、ムンバイーで俳優を目指す白人男性ハリーのエピソードだ。当初は単に旅行に来ただけのようだが、ムンバイーのコラバでスカウトされ、映画業界に足を踏み入れたという。彼が宿泊したのは十中八九、ムンバイーの有名な安宿サルベーション・アーミーズ・レッド・シールド・ハウスであろう。確かにインドのエンターテイメント業界では白人男性の需要があり、彼はモデルをしたり、チョイ役で映画に出演したりしていた。自分で「外国人の中では成功している方だ」とも語っていた。しかしながら、当初思い描いていたような成功には辿り着けず、夢破れてムンバイーを去って行った。

 夢破れて、という点ならば、労働組合長のプレームもそう変わらない。彼はアミターブ・バッチャンのようなスターになるためにムンバイーに出て来て、撮影所の食堂の小間使いなどをしながら頭角を現して来た。俳優にはなれなかったが、映画業界で働く労働者たちのリーダーになり、自らの家族や健康を顧みず粉骨砕身している。

 ヒンディー語映画業界は無数の人々の夢で成り立っている。もちろん、成功するのはその中のほんの一握りだが、それでもムンバイーを目指してやって来る人々が絶えることはない。そんな映画産業の舞台裏を少しだけ垣間見ることができるのが、この「Beyond Bollywood」の魅力である。ドキュメンタリー映画としての完成度は高くないが、ヒンディー語映画ファンなら観て損はない作品だ。