Faith Connections

4.0
Faith Connections
「Faith Connections」

 クンブメーラー祭は、世界最大の祭りのひとつとされるヒンドゥー教の大祭である。北インドの大河沿いに点在する4つの聖地にて12年に一度、2ヶ月ほどの期間、執り行われ、何千人もの巡礼者が訪れる。この祭りは、「乳海撹拌」という有名な神話と関係がある。神と悪魔が不死の霊薬アムリタを得るために力を合わせて海を攪拌したことがあり、そのときに地上に落ちた4滴の雫が現在クンブメーラー祭を行う聖地とされている。ガンガー河沿いのイラーハーバードとハリドワール、シプラー河沿いのウッジャイン、そしてゴーダーヴァリー河沿いのナースィクである。クンブメーラー祭のときにこれらの河で沐浴をすることで、カルマ(業)が浄化され、解脱ができると信じられている。特に、北インドの聖河であるガンガー河、ヤムナー河、そして伝説の聖河サラスワティー河の合流点にあるイラーハーバードで行われるクンブメーラー祭での沐浴はもっとも霊験あらたかであり、最大規模になる。

 2013年9月3日にトロント国際映画祭でプレミア上映されたパン・ナリン監督のドキュメンタリー映画「Faith Connections」は、2013年にイラーハーバードで行われたクンブメーラー祭の様子を追っている。このクンブメーラー祭に訪れた人の数は1億2千万人とされており、この数はひとつの祭りの参加者数としては世界最大である。ナレーションをしているのはナリン監督自身だと思われるが、そのナレーションの説明によると、ナリン監督は父親に「ガンガージャル(ガンガー河の聖水)」が欲しいと頼まれてクンブメーラー祭を訪れたらしい。ガンガージャルのみならず、物語をお土産に持って帰ろうと思い立ち、彼はカメラを回していた。日本では、「信仰のつながり」という邦題と共に、アジアンドキュメンタリーズで配信されている。

 映画の中にはクンブメーラー祭全体の描写や説明もあるが、しばしば「奇祭」と形容されるこの祭りを神秘的に描き出そうとする意図はほとんど感じられなかった。代わりにナリン監督のカメラが特に関心を払って映し出しているのが、この大祭で出会った市井の人々と、彼らが紡ぎ出すストーリーである。

 クンブメーラー祭の主役は、ナーガー・サードゥと呼ばれる裸の行者の一団だ。ナーガー・サードゥには13の派閥があり、クンブメーラー祭のときにはそれぞれが河岸にキャンプを張って人々と交流する。彼らは衣服を身につけておらず、全身に白い灰を塗りたくっている。そして、もっとも吉祥なタイミングに「シャーヒー・スナーン(王の沐浴)」をする。「Faith Connections」ではもちろんナーガー・サードゥたちもカメラに収められていた。だが、意外にもこの映画の主役は彼らではなかった。

 何人かの人物が定点観測されるが、印象に残ったのは3組だ。まずは、サンディープという3歳の子供を探す家族。父親の名前はソーヌー・ニシャード、母親の名前はマムター・デーヴィー。マッラーという船頭カーストである。なにしろクンブメーラー祭は1億人を超える人が押し寄せる祭りなので、毎回、迷子や行方不明者が大量に発生する。映画の中では行方不明者数が13万人以上出たと述べられており、その桁違いの数に驚かされる。ニシャード家のサンディープも、一瞬目を離している間にいなくなってしまった。彼らは何日もサンディープを探し求めていた。

 クンブメーラー祭には、ボランティアで迷子コーナーが設けられている。確かにそこにはさばききれないほど多くの捜索願が届けられており、行方不明者数が10万人以上というのもあながち嘘ではないと感じさせられる。このような大祭における迷子は単なる迷子ではなく、人身売買や臓器売買目的の誘拐であることも少なくない。しかもこの映画は真実を映し出すドキュメンタリー映画であり、ハッピーエンドを人工的に用意することができない。サンディープとの再会は絶望的に思われたが、映画の終盤で「奇跡が起きた」と伝えられ、サンディープが見つかったと語られる。ナリン監督が彼らに会いに行くと、確かにサンディープが一緒にいた。行方不明になっていた期間は10日以上あったが、その間に彼が何をしていたのかは不明である。ただ、やはりどうも何者かに連れ去られたようだ。そして何らかの事情で返されたようで、そのまま迷子コーナーに届けられたという。こんなこともあるのかと驚いた。

 ハトヨーギー・バーバーのストーリーも心温まるものだ。ハトヨーギー・バーバーはヨーガ行者で、いかにもヨーガといったポーズをすることで信者たちから敬われているが、ユニークなのは彼が子連れだったことだ。子供の名前はバジランギーという。バジランギーは彼自身の子供ではなく、捨て子を拾って育てているのだという。もちろん、上で説明した通り、この子は捨て子ではなかったかもしれない。サードゥが子供を誘拐して自分の弟子にするというケースも多いらしく、ハトヨーギー・バーバーが誘拐した可能性も排除できない。実際、警察や社会活動家が来て、彼からバジランギーを引き離そうとしたこともあったようだ。だが、ハトヨーギー・バーバーは頑としてバジランギーを手放さなかった。世俗を捨てて行者になったはずのハトヨーギー・バーバーであったが、バジランギーと出会ったことで家族を持つという世俗の喜びを得た。それは世捨て人としては好ましくないことかもしれないが、彼はこの新たな幸せを肯定的に受け入れ、修行の一環としている。

 上記2組のストーリーに勝るとも劣らずストーリーとして完成されているのがキシャン・ティワーリーという10歳児のシーンだ。キシャンはクンブメーラー祭に一人で来ており、人々から愛される存在だった。商店の店主、警察、サードゥなどの間を自由に往き来し、クンブメーラー祭を楽しんでいた。両親は死んだと語っていた。おそらくナリン監督も彼と親しくなり、被写体に選んだのだろう。将来はドンになりたいと語り、警察にも悪態を付くほど口が悪いのだが、時に哲学的なことも口走る不思議な少年だった。

 キシャンはある日忽然と姿を消す。周囲の人々の話によると、父親が現れて連れて行ったとのことだった。両親が死んだというのは嘘だった。

 ナリン監督はクンブメーラー祭の撮影を終え、ガンガージャルを持って父親のところに戻った。彼は父親にイラーハーバードで撮った写真を見せながら、そこで出会った人々の話を聞かせた。父親が関心を持ったのはキシャンの行方だった。ナリン監督も同じことを思い、彼の方言などから手掛かりを見つけて、マディヤ・プラデーシュ州に赴いた。ここでも驚くべきことに、ナリン監督はキシャンの村を探し当て、彼に再会することができた。キシャンはある日家出をしていなくなり、両親は非常に心配していたという。なぜ彼がクンブメーラー祭に行っていたことが分かったのかも不明だ。連れ戻されてしまったキシャンだが、クンブメーラー祭でサードゥと出会ったことで、将来はサードゥになると決意する。

 ストーリーの部分が良すぎて他の部分が霞むが、「Faith Connections」は世界最大の奇祭クンブメーラー祭の実録映画としても価値がある。特に局部丸出しのナーガー・サードゥたちを間近から映し出しており、迫力がある。ペニスで物を持ち上げるサードゥも登場しており、局部を含めて赤裸々に描き出している。

 「Faith Connections」は、ドキュメンタリー映画ながら、パン・ナリン監督はクンブメーラー祭で出会った名も無き人々から極上のストーリーを抽出することに成功しており、まるでフィクション映画のようなサスペンス性と感動のある映画に仕上がっている。また、クンブメーラー祭を知るための資料としても価値がある。必見のドキュメンタリー映画である。