Tasher Desh (Bengali)

3.0

 インド映画界でもっとも前衛的な映画作りをしているのは、ベンガル語映画界のカウシク・ムカルジー、通称Qだ。彼の「Gandu」(2010年)を観て以来、斬新な作風に魅了されてしまった。だが、彼の作品は性的描写や暴力表現が過激な傾向にあり、インドの劇場で普通に公開されないことが多いのが玉に瑕だ。

 Q監督の「Tasher Desh(トランプの国)」は、問題作「Gandu」の後に作られた映画で、ラビンドラナート・タゴールの同名戯曲をQ的に映画化した作品である。プレミア上映は2012年11月11日、ローマ国際映画祭にて、インドでの劇場一般公開は2013年8月23日である。言語はベンガル語で、英語の題名は「The Land of Cards」、プロデューサー陣にはヒンディー語映画界の風雲児アヌラーグ・カシヤプの名前が見える。

 キャストは、Q映画の常連であるリー・セーンに加え、ティロータマー・ショーム、イマード・シャー、アヌブラタ・バス、ソウミヤク・カーンティ・デ・ビシュワース、ジョイラージ・バッタチャルジー、サヤーニー・グプターなどが出演している。

 Q映画によくあることだが、映画が始まってしばらくは何が起こっているのかよく分からない。断片的かつ象徴的な映像と、散発的な詩のような台詞が散りばめられ、観客にとっては分からないなりに理解に努める我慢の時間が続く。

 しばらく我慢して観ていると、どうやら白黒のシーンが現実世界で、カラーのシーンが空想世界であるらしいことが分かって来る。現実世界では、一人の男性(ジョイラージ・バッタチャルジー)がコルカタの街を彷徨いながら、ラビンドラナート・タゴールの戯曲「Tasher Desh」が上演されている劇場がないか探す。だが、上演されている劇場が見つからないため、彼は自分で台本を書く。現実と空想の狭間で、彼は古い邸宅において「ハートのエース」(リー・セーン)と出会う。

 空想世界では、自由を求める王子(ソウミヤク・カーンティ・デ・ビシュワース)が商人の子(アヌブラタ・バス)と共に、牢獄のような宮殿を抜け出すところが描写される。自由を得た二人が辿り着いたのはトランプの国だった。トランプの国はファシズム的な政権の支配下にあり、トランプのカードの色、番号、形などを割り振られた人々は、笑うことも許されない窮屈な生活をしていた。ところが二人が自由の風を持ち込んだため、ハートのエースなど、女性たちが次々にルールを無視し始める。こうしてトランプの国に革命が起こるのである。

 ラビンドラナート・タゴールの戯曲は未読であるが、Q監督「Tasher Desh」で使われた台詞や楽曲は、原作からそのまま引き継がれたものであるらしい。それにしてもあらゆる要素が斬新すぎて、言われなければこれがタゴール作品の翻案だとは気付かないだろう。

 意味不明の断片的映像は多かったものの、映画に込められたメッセージは逆に単純明快だった。原作が英領インド時代に書かれたことから、トランプの国は暗に英国支配を批判し、そこで起こる革命はインド独立を想起させるものになっていた。現代の文脈に置きかえて考えてみると、覇権主義や資本主義へのアンチテーゼと受け止めることができるだろう。

 Q作品にお約束の性描写もあったが、それは一番最後に置かれていた。冒頭は意味不明かつ停滞した展開だが、トランプの国が登場する辺りから急にテンポが早くなり、最後はネットリとした雰囲気となる。目まぐるしく映画のスピード感が変わって観客は振り回されるが、それこそがQ監督の狙いであろう。

 サイケデリックな映像から、ドラッグ映画としても観ることができる。大麻らしきものを吸っている描写もあったが、トランプの国へトリップする直前に王子と商人の子が女性たちから口移しで接種した錠剤はドラッグの一種と考えることができるだろう。

 「Tasher Desh」、英題「The Land of Cards」は、鬼才Q監督がラビンドラナート・タゴールの戯曲を超現代風に翻案した前衛的な映画である。万人向けの映画ではないが、いかにもQ監督らしい作品で、「Gandu」などが気に入った人にはオススメできる。