Ek Thi Daayan…

4.0
Ek Thi Daayan...
「Ek Thi Daayan…」

 インド製ホラー映画でよく出て来るお化けの類に「ダーヤン」「ダーイン」または「チュライル」がいる。日本語にすれば「魔女」だ。一般的なインドの魔女の外見的特徴は、髪が長く、後ろでひとつにまとめて縛っており、手足が長く、反対向きに付いていて、爪が長いというものである。インドでホラー映画が作られるようになって以来、映画に魔女が登場する機会は多くなった。

 2013年4月19日公開の「Ek Thi Daayan…」も、その「一人の魔女がいた」という意味の題名の通り、魔女を主題にしたホラー映画である。監督は新人のカンナン・アイヤル。ヴィシャール・バールドワージの脚本で、彼はプロデューサーも務めている。主演はイムラーン・ハーシュミー、コーンコナー・セーンシャルマー、フマー・クライシー、カルキ・ケクラン。他に、パワン・マロートラー、ラジャタヴァ・ダッター、バーヴェーシュ・バールチャンダーニー、ヴィシェーシュ・ティワーリーなどが出演している。

 手品師のボボ(イムラーン・ハーシュミー)は、恋人のタマーラー(フマー・クライシー)と共にステージで手品ショーを開催していたが、最近幻覚に悩まされるようになっていた。ボボとタマーラーは孤児院からズビーン(バーヴェーシュ・バールチャンダーニー)を養子に迎えようとしていたが、神父からは結婚するように言われていた。

 ボボは、子供の頃に主治医だった精神科医ランジャン(ラジャタヴァ・ダッター)に相談する。ランジャンはボボを催眠術に掛け、深層心理を引き出す。

 ボボは少年時代、父親のマートゥル(パワン・マロートラー)と妹のミーシャと共に住んでいた。ボボは、父親の書斎にあった魔女の本に興味を示し、エレベーターで悪魔の数字「666」を押して、ミーシャと共に地獄へ下りて行く。その行為のせいで彼は地獄から魔女を呼び出してしまう。マートゥル家には、ダイアナ(コーンコナー・セーンシャルマー)という女性がやって来るようになる。ボボは彼女を魔女だと考えた。父親はダイアナと再婚し、ボボとミーシャの継母となる。月食の日、ダイアナはミーシャと父親を殺すが、ボボがダイアナの髪を切ったことで、ダイアナは消え去った。

 そんな話をボボから聞いたランジャンは、幼い頃のトラウマが現在になって表れてきていると診断する。父親や妹と共に住んでいた家は、まだ売らずに残っていた。ボボはタマーラーと結婚し、ズビーンを養子として迎える。

 ある日、リザ・ダット(カルキ・ケクラン)という女性がカナダからムンバイーにやって来る。リザはボボの旧家を買いたいと言い出す。だが、ボボはリザこそが復活した魔女だと考えていた。リザがハウスウォーミングパーティーを開いた晩、タマーラーはベランダから落ち、重傷を負う。その後もリザは、タマーラーの命を狙っている様子だった。

 一方、ランジャンは、ボボが言っていたことが正しかったと気付く。だが、そのときには魔女の魔の手が迫っており、ランジャンは殺されてしまう。そこに駆けつけたボボは、ランジャンが死ぬ間際に記したメモを見つける。メモには、ズビーンが生け贄として捧げられると書かれていた。

 ボボはズビーンを探すがどこにもいなかった。旧家のエレベーターで「666」を押し、地獄に行くと、そこにはズビーンが寝かされており、儀式が行われていた。それを取り仕切っていたのはなんとタマーラーであった。タマーラーは、ダイアナの生まれ変わりだったのである。だが、ボボもピシャーチ(鬼)としての力を発揮し、ズビーンを救い出して、タマーラーの髪を切る。それでも魔女は死なず、今度はダイアナの姿になって襲ってきたが、目を覚ましたズビーンと力を合わせて魔女を退治する。

 ホラー映画において、恐怖の対象を視覚的にはっきりと示すかどうか、そして霊などの存在を科学的に説明可能とするかどうかは、監督や脚本家のセンスを如実に示す。「Ek Thi Daayan…」の大部分では、魔女が本当に存在するかどうかは明確にされない。主人公ボボの少年時代の回想シーンでコーンコナー・セーンシャルマー演じる魔女が登場するが、それもあくまでボボの記憶の中でのことなので、現実なのかどうか分からない。こういう作り方のホラー映画がもっとも巧みだと感じる。

 カルキ・ケクラン演じるリザ・ダットの登場により、彼女は魔女なのかどうかということが、新たなサスペンスとして観客に提示される。伏線は敷かれており、怪しい行動も見られるのだが、どうもはっきりしない。この辺りもとてもうまいところだ。さすがヴィシャール・バールドワージの脚本である。

 だが、最後はホラー映画というよりも荒唐無稽なSF映画のようになってしまっていた。この映画では、「昼の王はピシャーチ、夜の女王は魔女」とされており、実はボボはピシャーチであるということになっていた。そして月食の夜に覚醒するとされていた。ボボは本当にピシャーチになってしまう。また、リザが魔女かと思っていたら、実はボボと結婚したタマーナーの方が魔女だったという意外なオチになっていた。ボボはピシャーチの力を使って魔女と戦う。魔女の力の根源はチョーティー(ひとつに縛って垂らした長髪)にあるとされており、ボボはそれを切ることで魔女を退治する。

 インド映画初の本格的ホラー映画とされる「Raaz」(2002年)以来、ヒンディー語映画はホラーというジャンルを発展させてきたが、どうしても視覚や効果音で驚かせるような原始的な作りから脱却できずにいた。ただ、次第に優れたホラー映画も作られるようになっており、「Ek Thi Daayan…」はかなりいい線を行っているホラー映画と評せられる。

 イムラーン・ハーシュミー、コーンコナー・セーンシャルマー、フマー・クライシー、そしてカルキ・ケクランと、スター性がありながら演技力も兼ね備えた俳優たちを起用しているのも、ホラー映画としての完成度の高さに貢献していた。

 インド製ホラー映画には、インド映画の最大の特徴である歌と踊りをどう入れ込むかという永遠の課題もある。「Ek Thi Daayan…」は、脚本を書いたヴィシャール・バールドワージが自ら作曲をしていることもあって、ストーリーの雰囲気を壊さないような挿入歌の入れ方が工夫されていた。

 「Ek Thi Daayan…」は、新人監督の映画ではあるものの、プロデューサー、脚本、そして音楽監督を務めるヴィシャール・バールドワージの貢献が随所に見られる、インド製ホラー映画としては完成度の高い作品であった。最後の締め方だけが荒唐無稽になってしまっていて残念だったぐらいで、そこに至るまでの展開は手に汗握るものがある。観て損はない映画である。


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