Main Krishna Hoon

2.5
Main Krishna Hoon
「Main Krishna Hoon」

 従来のインド映画は、ターゲット顧客を絞らず、全階層・全年齢層向けに作られており、それ故に子供向けに「キッズ映画」を作ろうという意識は希薄であった。しかしながら、21世紀に入り、ヒンディー語映画界では、実写映画「Makdee」(2002年)や2Dアニメ映画「Hanuman」(2005年)、そしてフル3Dアニメ映画「Roadside Romeo」(2008年)などを経て、子供向けに映画を作る習慣が根付き始めた。

 突如として雨後の竹の子のように作られるようになったヒンディー語キッズ映画の中で、技術的な未熟さはあれど、子供たちの琴線に触れ、意外なヒットになったのが「My Friend Ganesha」(2007年)であった。実写と2Dを融合させたスタイルで、象頭の神様ガネーシャが主人公の少年の友達になるという映画だった。その後、実写映画と3Dアニメを融合させる試みが行われ、「Toonpur Ka Superrhero」(2010年)が作られた。

 2013年1月25日公開の「Main Krishna Hoon(僕はクリシュナ)」は、「My Friend Ganesha」をヒットさせたラージーヴ・S・ルイヤー監督が同じ手法で作った神様キッズ映画である。題名通り、今度はクリシュナが主人公の少年の友達になるという物語だ。

 キッズ映画には大物スターが関わる傾向にあり、「Main Krishna Hoon」にも、ジューヒー・チャーウラーの他、リティク・ローシャンとカトリーナ・カイフというA級の人気スターたちが特別出演している。他に、パレーシュ・ガナートラー、ナミト・シャー(子役)などが出演している。また、ラジニーシュ・ドゥッガルが「Govinda Aala Re」にアイテムボーイ出演している。

 舞台はグジャラート州。孤児院「アーシュラヤ」の院長カーンターベーン(ジューヒー・チャーウラー)は、ある嵐の晩、捨て子を見つける。カーンターベーンはその子供を「クリシュナ」と名付け、孤児院で引き取る。クリシュナ(ナミト・シャー)はすくすくと愛らしい少年に育ったが、てんかんの持病があった。孤児院の子供たちは次々に養子縁組されて孤児院を出て行くが、てんかんを持つクリシュナにはなかなか引き取り手がなかった。クリシュナは一刻も早く両親が欲しかった。

 一度、クリシュナはメヘター夫妻の養子になる。だが、カーンターベーンはメヘター夫妻にてんかんのことを言っていなかった。案の定、クリシュナはてんかんを発症し、孤児院に返される。クリシュナは落ち込み、クリシュナ神に不平を言う。すると奇跡が起き、クリシュナ神が目の前に現われる。クリシュナはクリシュナ神と友達になる。

 クリシュナは、クリシュナ神のスーパーパワーを使って、孤児院の子供たちの危機を何度も救う。クリシュナ神はリティク・ローシャンのファンになり、クリシュナに、リティクと会わせてくれと懇願する。クリシュナは、それは無理だと答えるが、偶然リティクが孤児院を訪れ、クリシュナとも会う。

 メヘター夫妻は考え直し、再びクリシュナを養子に迎えに来るが、クリシュナはカーンターベーンと共に暮らすことを選ぶ。

 まず、基本的に子供向け映画なので、ストーリーや演出に過度の期待をしてはならない。子供なら楽しめるかもしれないが、大人の鑑賞に耐えるような出来の映画ではない。

 それに加えて、日本人は子供の頃からアニメに親しんでいるため多かれ少なかれアニメに対して目が肥えている。インドのアニメ産業はまだ勃興してから日が浅く、日本人の眼鏡に適うアニメ映画はインドからなかなか出ない。この「Main Krishna Hoon」で使われていた3Dアニメのレベルも、インド国内では良く出来ている方だが、世界的な基準に照らし合わせた場合、まだまだ不足が多い。

 それでも、クリシュナ神話を単純にそのまま映画にするのではなく、舞台を現代にし、現代の子供たちが感情移入しやすい少年を主人公にして、彼の視線からクリシュナ神を描いた点は評価できる。この映画を観れば幼少時のクリシュナ神の活躍をざっと知ることができるし、クリシュナ神と友達になるという夢のようなシチュエーションにしばし没入できる。クリシュナ神のようなスーパーパワーを持った神様と友達になる展開は、日本のアニメ「ドラえもん」の影響を感じる。

 中心的な登場人物カーンターベーンを演じたジューヒー・チャーウラーは、自分の子供たちが「My Friend Ganesha」の大ファンで、子供たちのためにこの「Main Krishna Hoon」への出演を快諾したという。彼女特有のコミカルな表情や高く甘ったるい声は無邪気な子供たちとよく溶け込み、キッズ映画との相性がいい。

 リティク・ローシャンとカトリーナ・カイフが本人役でカメオ出演しているのは、この規模の映画としては豪華である。おそらく彼らも子供向け映画に特別な意義を感じて出演を承諾したのだと思われる。「Krrish」(2006年)でスーパーヒーローのクリシュを演じ、一躍子供たちの人気者になったリティクは、そのイメージのままこの映画に顔を出していたし、カトリーナは本人役であるにもかかわらず悪漢たちを格闘技でなぎ倒し、まるで映画のようだった。

 主人公のクリシュナを演じたナミト・シャーは、多数のTVCMやTVドラマなどに出演してきた子役俳優だ。映画での主演は初めてである。自信のある演技をしており、この映画を支えていた。

 「Main Krishna Hoon」は、「My Friend Ganesha」を成功させたラージーヴ・S・ルイヤー監督が、今度はクリシュナ神を題材にして作り上げた神様キッズ映画である。子供ならば楽しめる映画だろうが、大人がわざわざ観てもほとんど得るものはないだろう。